年金部会、GPIFの株式自家運用の解禁見送り-デリバティブは緩和

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厚生労働省の社会保障審議会年金部会は8日、焦点だった年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の株式自家運用の解禁を見送る方向で意見をまとめた。国と企業の関係に与える影響などを懸念する声が多く、了承には至らなかった。

  GPIFの株式自家運用が年金部会で多数の支持を得られなかったのは、同法人が抱える厚生年金と国民年金の巨額の運用資産が秘める潜在的な影響力が警戒されたためだ。駒村康平委員(慶應義塾大教授)は「国家の企業支配は夢物語ではない」と指摘し、将来の解禁は否定しないが、徹底的な議論を重ねるべきだと述べた。

  労使の代表は一貫して反対。牧原晋委員(経団連)は、政府関係の運用機関が民間企業の経営を左右する恐れがあると指摘。平川則男委員(連合)は巨額の運用資産を抱える国営ファンドが株式の自家運用に乗り出せば、政府による企業支配や市場の効率性低下が懸念されると言い、宮本礼一委員(JAM会長)も国家と企業の健全な関係に支障を来しかねないと述べた。

デリバティブ規制緩和とガバナンス

  一方、デリバティブの利用については制限を緩める方向でまとまった。債券先物・オプション、為替先物、通貨オプションはすでに利用できるが、差金決済を伴う取引も認める。投機的性格を帯びないよう、目的をリスク管理に限ったり、利用機会や金額を制限すべきだとの意見が多かった。米沢康博委員(GPIF運用委員会委員長)は巨額の売買が必要な場合などの流動性確保に有益だと述べた。

  GPIF改革の進め方については、1)ガバナンス(企業統治)改革のみ先行、2)ガバナンス改革中心だが、早急に必要なデリバティブの規制緩和やコール市場の活用は認める、3)ガバナンス改革とともに株式のパッシブ運用などまで解禁、4)ガバナンス改革と株式のアクティブ運用を含む本格的な運用改革を一体的に実施-の4案を議論。現時点では、2)のガバナンス改革中心で、デリバティブの規制緩和やコール市場の活用を認めるまでが限界との意見が多かった。

  ガバナンス改革は、厚労省が昨年末に提示した意思決定・監督と執行を分離する案で大筋合意済みだ。新たに設ける合議制の経営委員会が中期計画などで基本ポートフォリオの策定や財務諸表、役職員の報酬など組織運営上の重要事項を決定し、職務執行を監督する。厚労相が任免する任期5年の経営委員(委員長を含む)9人と執行部の長で構成。うち2人は労使の代表だ。1人以上の常勤を含む3人以上からなる監査等委員会を設置する。

  同案では、現在のGPIF首脳に相当する「執行部」は執行部の長、運用担当理事と理事の3人で構成。運用担当理事は経営委員会に出席し、説明する義務を負う。任期が5年の執行部の長は厚労相が任免。2人の理事は執行部の長が経営委員会の同意を得て任免するが、運用担当理事については厚労相の認可が必要だ。理事の任期は執行部の長が自身の任期内で定める。

  厚労省はガバナンス改革や年金制度改革と合わせ、今通常国会への関連の法案提出を目指す。塩崎恭久厚労相は2014年9月の就任前から、運用見直しと法改正が必要となる組織改革を「車の両輪」だと主張。年金部会は同年12月の作業班会合で改革案を取りまとめたが、15年1月の年金部会では意見集約に至らなかった。国会はGPIFに総務担当の理事1人を追加する法案を同年4月に可決。厚労省幹部の定期異動を経て、同年12月に年金部会を再開し、今回の議論集約に至った。

株式運用

  株式運用をめぐっては、GPIFの水野弘道理事兼最高投資責任者(CIO)が1月の年金部会で、投資対象を個別に法律で縛るのは効率的でない上、指標に基づくパッシブの自家運用は導入済みの債券より株式の方が実務上の管理が容易だと指摘。当初3年程度はパッシブ運用で実績を作る必要があるとしながらも、政治的影響はガバナンス改革で排除すべきだと述べたが、支持は広がらなかった。

  GPIFは14年10月に同法人設立以来初めて資産構成の抜本的な見直しを行い、それまで半分以上を占めていた国債を大幅に減らす一方、株式などのリスク資産の保有を増やすことを決めた。ただ、15年度の運用では、世界的な市場の混乱に見舞われ、7-9月期の運用収益額は約マイナス7.9兆円となるなど、前身の年金資金運用基金で自主運用を始めた01年度以降で最悪を記録している。5日の衆院予算委員会では、安倍首相がGPIFの株式自家運用をめぐって政策的な企業の誘導は考えていないと答弁する場面があった。

  GPIFは昨年3月末時点で、内外株式の運用を48ファンドに委託している。国内株のパッシブではブラックロック・ジャパン、同アクティブではゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント、外国株のパッシブではステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、同アクティブではユービーエス・グローバル・アセット・マネジメントなど世界的な運用機関が含まれている。   

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