黒田総裁は為替を「非常に意識」、日米欧とも通貨高回避-内海元財務官

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  • 3大通貨間の強弱は安定、「戦争ではない」と内海氏
  • マイナス金利導入もあり、円は対ドルで120-125円程度

日本銀行によるマイナス金利政策の導入は1ドル=130円を割り込むほどの円安・ドル高にはつながらない-。元財務官の内海孚氏は、日米欧の中央銀行が自国経済を冷やす大幅な通貨高の回避を念頭に金融政策を運営しているため、円だけが安くなる可能性は低いと言う。

  内海氏(81)は2日のインタビューで、今年のドル・円相場は120-125円が中心で、円安方向へ「限界的」「象徴的」に動く程度との見方を示した。「今後1年程度を展望すると、日銀は出口が全く視野に入ってこない。緩和を強めることはあっても、弱める可能性はない」と指摘。一方、米国は今年4回の利上げは「国際情勢も考慮すると難しいが、経済の状況から見て少なくとも1-2回はやるだろう」と説明した。

  3大通貨をつかさどる中銀は為替操作を意図しないが、「非常に為替を意識した金融政策を採っているのは間違いない」と、内海氏は言う。米国が利上げ開始を昨年12月まで遅らせたのも、黒田東彦総裁が追加緩和したのも「当然そういうことは認識している」と言う。ユーロ圏も域内経済の停滞を考えると「ユーロが強いと認識していただろう」とみている。

  マイナス金利を導入した1月29日の記者会見で、黒田総裁は、円高阻止を狙った政策ではないと述べている。日銀が物価目標の早期実現に「強くコミットし、必要な措置は何でもやる」姿勢が、「インフレ期待の形成に影響を及ぼす」と言う。2月4日の衆院予算委員会でも、為替をターゲットに金融政策運営は行わないと話した。

  日銀の異次元緩和などを背景に、円は対ドルで、昨年6月に約13年ぶり安値となる125円86銭まで下落した。ユーロは欧州中央銀行(ECB)が14年6月にマイナス金利を導入したことなどを受けて、昨年3月には対ドルで約12年ぶり安値を付けた。その後のドル・円とユーロ・ドルは、それぞれ1ドル=120円と1ユーロ=1.10ドルを挟んで一進一退となっている。

  東海東京フィナンシャル・ホールディングスのグローバル・アドバイザリー・ボードの議長を務める内海氏は、3大通貨の関係は結果的に安定しており「戦争ではない」と指摘。日米欧の中銀には自国通貨の独歩高を避けて妥当な水準を保つ意図があり、互いに均衡状態を意識しながら「微妙な舵取りをしている」と言い、自身が対米交渉の最前線で奔走した「プラザ合意」当時にはなかった現象だと言う。

円高にマイナス金利

  内海氏は1983年から86年までワシントンの日本大使館で大蔵省(現財務省)出身の公使を務め、日米円・ドル委員会やドル高是正で米英独仏と合意した85年9月のプラザ合意などをめぐり、米財務省との実務交渉を担当。過度なドル安に歯止めをかける87年2月のルーブル合意時には国際金融局長、89年から91年まで財務官を務めた。黒田総裁は内海氏の5代後の財務官だった。 

  内海氏はマイナス金利の導入が市場心理の改善を通じ、企業の信頼感に対して「少なくとも何もしないことによる悪影響は避けた」と評価する。先進国では「金融緩和が物価よりも成長の観点から不可欠になってしまっている」と指摘した上で、米国も金融政策の「正常化を図っているが、周りが良くないので慎重にやっている」と話した。

  米連邦公開市場委員会(FOMC)は先週の声明で、政策金利の引き上げ見通しを維持する一方で、世界の経済・金融情勢を注視すると表明した。ニューヨーク連銀のダドリー総裁はマーケット・ニュース・インターナショナル(MNI)とのインタビューで、「昨年12月に比べ、金融状況は大幅に引き締まっている」とし、こうした状況が3月のFOMCまで続けば「金融政策の決定に当たって、考慮しなければならないだろう」と語った。

  金融政策の影響を受けやすい2年物の市場金利は、米国債利回りが3日に0.67%と昨年10月下旬以来の水準に低下。日本国債利回りは日銀のマイナス金利導入を受けてマイナス0.195%と過去最低を更新している。

  日銀は国債保有増を年80兆円のペースで進め、ETFやJ-REITの買い入れも含む量的・質的緩和をマイナス金利の導入と併用していく方針だ。

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは、マイナス金利は為替相場への影響が大きいと指摘。「円高にはマイナス金利の拡大で対応し、株安にはETFを増やす」追加緩和が可能とみている。ただ、為替相場は原油安や中国経済への懸念など次第の面が大きく「日本の要因だけでは流れを変えられない」と言う。

  ブルームバーグが市場関係者から集計した円相場の年末予想(中央値)では、対ドルが123円程度、対ユーロが130円程度と見込まれている。

  ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループ(RBS)のシニア市場ストラテジスト、マンスール・モヒウディン氏(シンガポール在勤)は「全ての中銀は金融政策を決める際に為替相場を注視する必要がある」と指摘。投資家にとって重要なのは日欧などの追加緩和が大幅な通貨安をもたらす力をいつ失うかだと語った。

日本の一番の弱み

  内海氏は中国当局には人民元相場を切り下げる意図はなく、むしろ大規模な資本流出を止めようと「一生懸命やっている」と指摘。このままでは、「流動性のある外貨準備がどの程度持つか」が焦点になりかねないと読む。中国が深刻な状況に陥ると、3大通貨では円が最も影響を受けやすいと分析し、日本売りになれば「円安・債券安・株安のトリプル安が一気に来る」とみている。

  内海氏によると、日本の一番の弱みは財政と高齢化。国の一般会計歳出の3分の1を社会保障関連費が占めており、「払い手の労働人口は減り、受け手の高齢者は増えていく」と言う。費用は幅広い層で分担する必要があるため、消費増税は避けられないと説く。黒田総裁が進める金融緩和も財政健全化という前提が崩れると「脆弱(ぜいじゃく)にならざるを得ない」とし、高成長を当てにした財政再建計画は「一種の幻想だ」と指摘する。

  国債・借入金・国庫短期証券を合わせた国の債務残高は、今年度末に1087.3兆円に達する見通しだ。国際通貨基金(IMF)は日本の政府債務残高が今年、名目国内総生産の247.8%に達すると予測。少なくとも20年の251.7%までは最悪を更新し続けると見込む。

  国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、総人口は08年に1億2808万人と最高を記録した後、東京オリンピックを開催する20年には1億2410万人に減る。15-64歳の生産年齢人口はその後の10年間で568万人も減り、全体の58.1%に低下。65歳以上は73万人増えて31.6%に上昇する。総人口は48年には1億人を割り込む見通しだ。 

  安倍政権は、15年10月に実施する予定だった消費税率10%への引き上げを、17年4月に延期している。リーマンショックや大震災のような重大事態が生じない限り、再延期はしない方針だ。内海氏は、仮に再び先送りすれば「日本国債は当然、格下げになる。深刻な事態へのトリガーになる可能性が十分ある」とみている。

(更新前の記事は第5段落4行目を「ユーロ・ドル」に訂正済みです.)
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