【FRBウオッチ】市場に吹き飛ばされた利上げサイクル、次は緩和か

  • 崩れ去る「緩やかな利上げ」シナリオ、初回利上げが最終に
  • 製造業は失速、頼みのサービス産業にも陰り

フィッシャー米連邦準備制度理事会(FRB)副議長は1日、最近の金融市場の混乱について、「一連の動きが金融の条件を継続的に引き締めることになった場合、米国の成長やインフレにも影響を及ぼすであろう」と、市場動向が実体経済に及ぼす影響力に強い警戒感を示した。

  3日には米連邦公開市場委員会(FOMC)の副議長を務めるダドリー・ニューヨーク連銀総裁が、マーケット・ニュース・インターナショル(MNI)とのインタビューで、「もっと自信を持って言えそうなのは、昨年12月のFOMC会合当時に比べ、金融の状況は著しく引き締まっているということだ」と指摘した。金融政策当局の幹部らはほぼ10年ぶりの利上げを決めた昨年12月16日から1カ月余りの間に、金融市場が著しくタイト化してきたことに自らの身を引き締めているかのようだ。

  FOMCは昨年12月の会合で0.25%の利上げを決定した後、FOMC参加者の政策金利の予測値を示し、2016年にさらに4回の利上げを実行、利上げサイクルに入るというシナリオを提示していた。しかし市場は先を読んで進む。この利上げサイクルを一気に飲み込んで、世界的な株安、原油相場の急落、ドル高、ジャンク債スプレッド拡大が急激に進み、まさに市場が圧倒的な引き締め状態を作り出すことになった。

  FOMC参加者がこの市場発の金融引き締めに仰天したのは1月末のFOMC声明を見れば一目瞭然だ。12月のFOMC声明に記述されていた「経済活動と労働市場の双方の見通しに対するリスクは均衡している」という文言を削除してしまったのである。リスクが多岐にわたり測定できないという意思表示であり、偉大な市場の力を前にして先行きが全く見通せなくなってしまったというわけだ。
 
  フィッシャー副議長は3月の次回FOMCで当局者らがどう行動するかについての質問には、「われわれも全く分からない。世界は不安定であり、金融政策当局者が確信を持てるのは現時点の予想と異なることがしばしば起こるということだけだ」と語っていた。

  FOMCの予測は「緩やかな利上げを続ける」ということだが、このシナリオが崩れ去るリスクを示唆している。米金融当局は政策指針として「データ次第」と唱えてきたが、主要データである国内総生産(GDP)は利上げを決定した12月までの3カ月(第4四半期)に実質ベースで前期比年率0.7%成長と、前期の2.0%成長から大幅に減速してしまった。

  GDPの企業設備投資項目は3年ぶりのマイナスを記録。12月のFOMC声明に記されていた「企業の設備投資はここ数カ月にわたり着実なペースで増加」と言う文言と、全く逆の状況だったことが明らかになっている。製造業は既に失速しており、頼みのサービス産業にも陰りが表れた。

  米供給管理協会(ISM)が3日発表した1月の非製造業景況指数は53.9と、前月の59.5から低下し、2008年11月以来の大幅な下げとなった。08年11月と言えば、その2カ月前にリーマン・ショックが発生し、景気の谷に向かって真っ逆さまに落下している最中だ。同景況指数は企業の仕入れ担当幹部の景況感を基にしたもので、受注や雇用など複数項目を平均したヘッドラインの総合景況指数より景気の転換点を明確に提示する。

  なぜこのような景気の変動が、FOMCによる利上げ転換を機に起こるのだろうか。それはFOMCの利上げサイクルを一気に織り込んで金融条件を引き締めた市場の力もさることながら、データ次第と唱えながら政策を実行してきたFOMCは、せいぜい景気一致指標と同程度の視野から政策を決定してきたからだ。

  設備投資が減少に転じたことが示唆しているように、今回の利上げは景気循環の山で実行に移された可能性が高い。直近データをいくら頑張って分析しても、景気一致指標に出遅れてしまう。データはすべて過去の記録だからだ。つまり景気の拡大期が続いてFOMCメンバーが強気になったところが、景気の山だったというわけだ。

  データで確認されたときは既に過去のものとなっている。特に今回の景気拡大局面は成長力が弱く、これを反映してゼロ金利政策が7年も続けられてきたため、これからも景気回復が続くという幻想が生まれやすい。FOMC参加者にとって、12月の利上げはようやくたどり着いた初回利上げであり、利上げサイクルに入ったという感を深くしたとしても不思議ではない。

  しかしFOMCがゼロ金利に満足していた間にも市場は金融状況の引き締めを断続的に実行し、昨年12月のFOMC利上げは最初で最後になるタイミングだった。市場の初回引き締めは、バーナンキFRB議長が13年6月に量的緩和のテーパリング(段階的な縮小)を表明したときに引き起こされた市場金利の高騰である。その後、ドル高⇒原油相場下落⇒株価ピークアウトと、市場の力による引き締めが断続的に行われ、今年に入ってさらなるタイト化が引き起こされた訳だ。

  事ここに至ると中央銀行は無力化し、市場の力が実体経済を巻き込みながら奈落の底へと突き進むリスクが生じる。中央銀行が無力化するというのは、当局が金融緩和に転じても、実体経済と市場が自律的に底打ちするまで、気休め程度の措置しか実行できないということだ。FOMC当局者は昨年12月の利上げ決定の後、「なお金融引き締めではない」と力説していたが、自らの首を絞めかねない措置になるとは思いも寄らなかったようだ。
 
  こうしてFOMCが思い描いてきた利上げサイクルは消滅し、次の政策が緩和になる可能性が高まってきた。    

(FRBウオッチは記者個人の見解です)

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