バイオマス発電急増で木材の争奪戦-他業界にしわ寄せ、輸入材も

  • 温暖化ガス排出削減のため、石炭火力発電での混焼も増加する見通し
  • 経産省の調査ではバイオマス発電事業の断念理由は原料調達が最多

国内各地で木質バイオマス発電所が増えており、原料に木材を使う製紙会社など異業種を巻き込んだ争奪戦の様相を呈している。温室効果ガスの排出削減対策として木質バイオマスを石炭に混ぜて燃やす方式に移行する石炭火力発電所が増加するとの見通しもあり、木材をめぐる争いは今後さらに過熱しそうだ。

  木質バイオマス発電が盛り上がる背景には、再生可能エネルギー由来の電力を一定の価格で買い取ることを電力会社に義務づけた政府の固定価格買い取り制度がある。林野庁によると、未利用のまま林地に放置されている木材を使用する発電所で、2012年の制度導入後に事業が計画されて買い取りの対象として認定された設備は55件に上る。このうち15年9月末までに20件が稼働している。

  政府は再生可能エネルギー利用の大幅な拡大を目指しており、バイオマス発電では30年度までに水力、太陽光に次ぐ導入量を見込んでいる。木質バイオマス発電所の増加に伴って樹皮やおがくずといった残材だけでなく、製紙など他の産業向けだった木材までも利用される動きが出てきている。

  木質バイオマスの事業化支援と投資を手がけるバイオエナジー・リサーチ&インベストメントの梶山恵司社長は「一番の課題はみんな必死になって丸太を燃料にしようとしてること」と話した。「本来なら製材などに使えるものも燃料として燃やしてしまうことが今起こってる。本当にそれでいいのか。こんな使い方をしてるのは日本だけ」と指摘する。

木材の取り合い

  木材産業が盛んな宮崎県では昨年相次いでバイオマス発電所が運転を開始。グリーンバイオマスファクトリーは同県都農町で5.75メガワット(5750キロワット)のバイオマス発電所の運転を2月に開始。隣接する川南町では、くにうみアセットマネジメントなどが出資する同規模のバイオマス発電所が4月に稼働した。グリーンバイオマスファクトリーの神谷知明所長によると、同じ地域に2つのバイオマス発電所ができたことで事業者間で「材の取り合い」が起きたという。

  林野庁木材利用課の吉田誠課長によると、5メガワットの木質バイオマス発電には年間約6万トンの燃料が必要で、一般的には燃料を集める範囲として半径50キロメートル程度が想定されているという。そういった規模の原料調達が可能な地域は非常に限られており、「だいたい県に1個ぐらいというのが限界」と指摘した。経済産業省が事業化を断念した木質バイオマス発電事業について調査したところ、約7割にあたる33件が原料調達が理由だったことが明らかになった。さらに立地場所が6件、資金調達が5件と続いた。

  原料調達の問題は電力業界以外にも波及している。林野庁の吉田氏によると急増するバイオマス発電向けの需要に対して供給が追い付かないため、原料の入手難や価格高騰といった形で製紙、合板業界にしわ寄せがいく形となっている。

価格は1割強上昇

  日本木質バイオマスエネルギー協会などが経済産業省の有識者会合に提出した資料によると、燃料用木質チップについては公表されている価格がないものの、製紙・パルプ用チップ価格は13年から上昇しており、この背景には円安や燃料用木質チップの需要増加が考えられると指摘。農林水産省の統計によると、昨年12月のパルプ向けの国産広葉樹チップ価格は1立方メートル当たり1万8200円と前年同月比で5.8%、13年12月比で12%上昇している。

  「国産材の最大の消費者」だという日本製紙の原料本部長付部長の松本哲生氏は、木材供給力の増加ペースに合わせてバイオマス発電を認可する必要があると指摘する。発電向け木材需要の増加により「原料価格が上がったからといって紙の値段を上げても買ってくれる人はいない」と、木材価格高騰の難しさについて明かした。

  日本製紙も木質バイオマス発電事業を手掛けている。同社エネルギー事業本部長の堀川洋一氏は、バイオマス発電は太陽光や風力と異なり燃料がなければ事業は成り立たないと指摘。政府の制度では発電した電力の買い取り価格が20年間固定されているため、バイオマス発電事業では燃料価格の変動が事業のリスクになっているとの考えを示した。

石炭火力でも混焼

  さらに今後木材の需給を逼迫(ひっぱく)させる要因として、石炭火力発電所でのバイオマス燃料の混焼が加速する可能性が指摘されている。昨年12月に第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で温暖化対策の新しい枠組みとしてパリ協定が採択され、石炭だけを燃やす火力発電所に対する風当たりが今後さらに強まることが見込まれるためだ。

  農林中金総合研究所の安藤範親研究員は、電力の買い取り価格を基準に判断すると発電事業が成り立たないような割高な木材の燃料でも、それを「買い取れる余力があるのが火力発電所」と指摘する。大量の燃料を必要とする石炭火力発電所が周辺の山林からチップなどを買い尽くし「木質バイオマス発電所をつぶしにかかる可能性がある」と話した。

  バイオマス発電の拡大に伴い、おがくずなどを圧縮して成型した燃料である木質ペレットの輸入も急速に伸びている。財務省の貿易統計によると、15年の木質ペレット輸入量は前の年の2.4倍に増え過去最高の約23万トンとなった。

  昭和シェル石油は出力49メガワットと、木質バイオマス専焼としては国内最大級の京浜バイオマス発電所の営業運転を昨年11月に開始。年間20万トンという大量の燃料を必要とするため、安定的な調達を見込める北米産の木質ペレットなどを燃料として想定している。

物流コストがネック

  同社の柳生田稔執行役員は昨年11月、地域の活性化という買い取り制度の趣旨を考慮すると「国内材を使うのが一番美しい姿というのは十分理解している」と記者団に語った。しかし、国内には大規模に木質ペレットを生産できる会社がなく、また大量の未利用材や木材チップを国内の山地から輸送してくることは物流コストが「あまりにもかかりすぎて全く採算が合わない」とし、「結果的に海外から持ってこざるを得ない」と述べた。

  日本木質バイオマスエネルギー協会の熊崎実会長は、こういった状況を踏まえて「日本のペレット市場は海外から虎視眈々(たんたん)と狙われている」と話した。これまでペレットの需要は欧州が中心だったものの、温暖化ガスの排出削減のために今後はアジアでも需要が伸びると見込まれおり、海外からは日本も「大量に輸入せざるを得ないと見られている。先行する韓国ではもうかなり輸入している」と述べた。

  米国商務省国際貿易局のリポートによると、韓国は12年に一定量以上の再生可能エネルギー利用を事業者に義務付ける制度を導入した結果、バイオマス利用と木質ペレットの需要が急拡大した。韓国関税庁のデータによると、14年の韓国のペレット輸入量は前年比約4倍増の185万トンとなった。12年との比較では10倍以上に増加した。

供給増の見込みなし

  英エネルギー調査会社アーガス・メディア日本支局代表の三田真己氏は、バイオマス専焼用と石炭との混焼用を合わせた国内の燃料向け木材需要は、30年度に木質ペレット換算で約3350万ー4070万トンになると試算する。主産物である製材合板需要で現状の減少傾向が続くと想定すると、その副産物であるバイオマス向けの木材供給が今後急速に伸びることは考えにくい。

  日本でもペレットを含むバイオマス燃料の輸入が今後さらに増える可能性は高いが、バイオエナジーの梶山氏は地域産業の活性化などの観点からすれば「本末転倒」と指摘する。梶山氏は、バイオマス発電はエネルギー効率が約2割と低く、資源の有効活用の観点からは排熱の有効利用が欠かせないと指摘。バイオマス発電だけを「無理してやる必要は全然ない」と話した。

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