安倍晋三首相は市場改革を通して経済を再生させると約束して政権に就いた。その約束が実行されるのか、シャープ救済をめぐって試されている。

  シャープの今期(2016年3月期)の純損益は820億円の赤字になるとアナリストらは予想している。関係者によると、シャープは再建に当たり政府系ファンドの産業革新機構と台湾の鴻海精密工業とそれぞれ交渉しており、鴻海が6000億円規模の買収案を、機構は3000億円規模の支援を提示している。

  金額だけ見れば鴻海が有利だが、関係者2人によると、シャープは機構の支援を受ける方向で調整している。機構の再編案ではシャープの自社技術を国内に残し、他の国内企業とも提携することができるという。シャープの主要取引銀行もこの案に乗っているという。

  政府主導の動きに、シャープの救済は安倍首相が本気で経済改革を断行する気がないことを裏付けるという声もある。テンプル大学日本校のマイケル・チュチェック教授は「これは安倍政権にとってのテストケースで、結果は失敗に終わるのではないか」と話した。

  政府は税金で大企業を守ろうとする、とのメッセージを発信する恐れもある。社団法人・会社役員育成機構のニコラス・ベネシュ代表理事は「企業統治の改革にとってはよくないことだ。海外からの投資を見込む日本政府にとってもよいことではない」と話す。

自国産業の支援

  一方、賛成派は機構による再建は国内の雇用と産業を守るためだと指摘する。「シャープの技術が外国の手に渡ることが容認されるとは、だれも真剣に考えていない」とCLSAのストラテジスト、ニコラス・スミス氏は話す。日本が公的に自国の産業を支援することには驚かないし、他の国でも大差ないという。

  産業革新機構は09年に設立され、投資可能資金は2兆円に上る。成長が見込める次世代技術や企業を支援することが本来の目的だ。だが、これまでの大型の投資案件は不振に陥った東芝、ソニー、日立製作所の中小型液晶事業を統合したジャパンディスプレイと自動車向けの半導体を主力とするルネサスエレクトロニクスと再建色の強いものとなっている。

  機構の出資の後、ルネサスは自動車向けの半導体が好調で13年には株価が2倍に上昇、翌14年にも33%値上がりした。一方、中小型液晶が不振のジャパンディスプレイの株価は現在、新規株式公開(IPO)価格を70%下回る水準で取引されている。国が関与した企業再建の失敗例としては、破綻後に米企業に買収されたDRAMメーカーのエルピーダメモリがある。

目的は成長

  シャープは前期(15年3月期)、スマートフォンに使われる液晶の事業不振で2223億円の巨額純損失を計上し、今期の営業利益予想についても昨年10月に下方修正した。25日に記者団の取材に応じた産業革新機構の志賀俊之会長(日産自動車副会長)によれば、機構のシャープ再建案では液晶事業を切り離して出血を止めた上で、他の事業についても成長戦略を描く。機構の投資目的は「あくまでも成長」だという。

  シャープとジャパンディスプレイが統合した場合、韓国のサムスン・ディスプレーと並ぶ世界でトップの中小型液晶メーカーが誕生する。市場調査会社IHSテクノロジーによると、15年1-9月の中小型液晶出荷額シェアはサムスンが24%と首位で、ジャパンディスプレイが15%、シャープは9%だった。

  野村証券の魚本敏宏チーフクレジットアナリストは、予見できないことが発生しない限りシャープの再建は「現時点では成功する可能性がある」という考え。鴻海案の方が買収額が高いと報道されているが、買収にはさまざまな付帯条件があり「比較しないと分からない」という。 

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE