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榊原元財務官:ドル110円まで円高の可能性、今年の世界経済は「乱」

更新日時
  • 米利上げ、今年中に終わる可能性もと榊原氏
  • 対ドルで100円を突破しない限り、問題にはならない

世界経済の先行き不透明感を背景に進む円高。1990年代に「ミスター円」と呼ばれた元財務官の榊原英資青山学院大学教授は、円は対ドルで110円程度まで上昇する可能性があるものの、日本の輸出企業に打撃を与えるには至らないとみている。

  「要注意どころではなく、相当深刻な状況になってきた」。榊原氏(74)は15日のインタビューで、天然資源価格の下落を背景に陰りが出てきた世界の経済環境をこう表現。米連邦公開市場委員会(FOMC)が先月始めたばかりの利上げは「今年中に終わる可能性すら出てきている」と指摘し、「安全な通貨として円が買われ、さらに円高が進む可能性がかなりある」と語った。

  榊原氏によると、ドル・円相場のレンジは昨年の1ドル=120-125円から115-120円に変わってきている。今後は115円より円高になる可能性が120円を下回る円安の可能性より高く、「6カ月から1年で110-115円になる可能性が高い」と言う。仮に、「105円でも政治的に問題ではない。100円を切らない限り、問題にはならない。105円や110円なら、日本の輸出企業の競争力は十分強い」と述べた。

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  ニューヨーク原油先物相場は1バレル=28ドル台を付けるなど、2003年以来の安値水準で推移。ブルームバーグ商品指数は過去最低を記録している。第2次安倍晋三内閣の発足前は1ドル=80円前後だった円は昨年6月に125円86銭と13年ぶりの安値を付けたが、先週15日には116円51銭まで上昇した。主要16通貨に対する円は今年に入って全面高となっている。

  日本銀行の企業短期経済観測調査(短観、12月調査)によると、大企業・製造業が事業計画の前提とする想定レートは今年度下期に118円。主な貿易相手国の通貨に対する円の総合的な強弱を示す名目実効為替レートは97.49と14年10月末の追加緩和より前の水準まで上昇している。

  通貨オプション市場では、ドルと円の需要格差を映すリスクリバーサル(3カ月物)が18日にマイナス1.8225%と13年7月以来の水準に低下。ドルを売って円を買う権利の需要が、ドル買い・円売りを上回っている。米商品先物取引委員会(CFTC)の統計では、ヘッジファンドや大口投機家による円の買越幅が12日時点で2万5266枚と12年10月以来の高水準となった。

  榊原氏は世界同時株安の基本的な原因は、米シェール産業の供給増や中国経済の減速による需要減を背景とした石油や天然ガス、鉄鉱石など「天然資源価格の全般的な暴落」だとみる。「今のところ、止まる気配がない。全然、底を打たないため、市場が動揺している」と言い、資源安は「日本などの輸入国には短期的には恩恵をもたらすが、中期的には影響を受ける」と述べた。

  世界経済を支える2本柱の一つであるBRICs諸国のうち、ロシアやブラジル、中国が崩れてきたため、先進国にも悪影響が及ぶとの思惑から「まず株価が崩れた」と、榊原氏は説明。今後は日米欧とも実体経済の「GDP(国内総生産)や貿易などに影響が出てくる」と言い、「今年の世界経済は非常に不透明で、漢字一文字で表すと『乱』だろう」と語った。

もう危機の始まりか

  「特に中国経済は非常に深刻だ。現状はもう危機の始まりのような状況で、さらに悪化する可能性も十分考えられる」。榊原氏は、中国当局は人民元相場を支えようと懸命だが、米利上げを受けたドル回帰で資金流出が止まらないと指摘。「通貨安を阻止する介入には外貨準備を使わないといけないので上限があり、なかなか難しい。市場も外貨準備の減り方を注視している」と言う。

  中国の15年12月末の外貨準備高は3兆3300億ドル程度。資金流出に伴う元安を防ぐための元買い・ドル売り介入により、減少幅は前月比で過去最大の約1080億ドル、通年では5000億ドルを超えた。香港オフショア市場の人民元は7日に対ドルで6.7618元と10年以来の安値を付けた。米財務省によると、ルー米財務長官と中国共産党の劉鶴氏は、中国の政策と行動に関する明確な市場との対話の重要性について電話で協議した。

  JPモルガン・チェース銀行の棚瀬順哉チーフFXストラテジストの推計によると、日本の経常黒字と日米金利差に基づくドル・円レートの適正値は105円程度。棚瀬氏は、1994年以降の米利上げ開始後は6カ月で平均11%、円高・ドル安が進んだと指摘。中国懸念と原油安が長引けば「110円に達する時期が早まり、さらなる円高の可能性も出てくる」と言う。日本経済への影響は「円高のスピード次第」だとし、同社が4月と予測する追加緩和の「円安効果はかなり限定的」にとどまると見込む。

  ドル・円相場は1995年4月、当時の戦後最高値79円75銭を付けた。榊原氏は同年5月に大蔵省(現・財務省)の国際金融局長に就任。相場は米欧との協調介入や米国の利上げと日銀の利下げなどを背景に、同年9月に100円の大台を回復した。アジア経済危機が発生した97年から財務官を務めた際に榊原氏は、日本経済が金融危機に苦しむ中で巨額の円買い介入を実施した経験がある。

  円相場と日本経済への影響に関する榊原氏の見解は、米コロンビア大学大学院の伊藤隆敏教授と異なる点がある。伊藤教授は9日のインタビューで「110円に向かって行かない限り、それほど深刻ではない」と述べ、中期的には120円近傍で推移するとの見方を示した。伊藤教授は日銀の黒田東彦総裁が榊原氏の後任として財務官に就いた99年から副財務官を務めた経歴を持つ。 

追加緩和、年内2回も

  黒田総裁は、国債の市中発行額の大半を買い占めることができる規模にまで膨らんだ量的・質的金融緩和を、安定的な2%の物価目標実現に向けて、追加緩和を含め必要に応じ続ける構えだ。

  榊原氏は、黒田総裁が来年4月の消費増税も視野に「年末までに1回か2回、相当積極的な金融緩和策を打ってくるのは間違いない」と指摘。国債と上場投資信託(ETF)などのリスク資産を「質量ともに増大させるだろう」とし、10年債利回りは「緩やかにゼロ%に向かって低下していく」と予測している。

  「先進国経済は成熟段階に入り、かつての高成長は望めない。利潤率が下がり、投資機会が減り、利子率が下がっている」と説明する榊原氏は、日銀が2%の物価目標を安定的に達成するのは「無理だ」とみる。

  物価目標は高成長・高インフレ時代に考案された「過去の遺物だ」とし、今や「先進国はどこも低成長・低インフレなので必要ない。それより景気や雇用に配慮すべきだ。物価は自ずと0-2%程度に収まってくる」と言う。インフレ率は「2%より1%、1%よりゼロ%と低い方が良い。無理に2%に上げる必要はない」と語る。

  経済同友会の小林喜光代表幹事も18日の記者会見で、日銀の2%の物価上昇目標について、「原油安が続く中で、もうこだわるべきではない」と指摘。追加緩和に関しては、「民間の持続的な成長のためにも、もうやめた方がいい」と述べた。

  黒田総裁が経済の好循環を実現するには賃金の上昇が重要という見方に対して、榊原氏は非正規雇用比率の上昇や平均賃金の伸び悩みの「基本的な要因はグローバリゼーションだ。中国やインドと競争しないといけない」という見解だ。「貿易量が増えて相互依存関係が深まると、どうしてもある種の裁定が働き、賃金水準の収れんが起きる。中国やインドは上がり、先進国は緩やかに下がる。この流れを逆転するのは難しい」と言う。

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