コンテンツにスキップする

黒田総裁期待の春闘に影、円急上昇で-日銀「抜かずの宝刀」に手か

  • 原油安も加速、インフレ期待は低下とBNPパリバ河野氏
  • 物価見通しの下方修正必至か、「1月」追加緩和予想の声も

中国金融市場の混乱と為替相場の急速な円高が、企業収益圧迫を通じて2016年の春闘に影を落としている。原油価格下落による消費者物価の低迷も続き、日本銀行の金融政策に影響を及ぼすとの見方も出始めている。

  JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは「賃上げや投資を増やそうかどうか考えているときに円高によって収益が下がるということは、それを後押しするようなことにはならない」と述べ、「円高は日本企業、特に製造業を不安にさせる」と指摘した。

  2%の物価目標を掲げる黒田東彦日銀総裁は5日、連合の新年交歓会であいさつし、2%の物価上昇はそれに見合った賃金上昇がなければ持続可能ではないと述べ、賃金上昇が日本経済の持続的な成長のために不可欠だと強調した。アベノミクスによる円安で輸出企業を中心に空前の利益を上げ、政府は経済界に賃上げを要請している。

  11日の外国為替市場で円相場は急伸、一時1ドル=116円70銭と昨年8月24日以来の高値を付けた。足元では同117円台とやや円安方向に戻しているが、12月調査の日銀の企業短期経済観測調査(短観)の企業の想定為替レート(119円40銭)よりもなお円高水準となっている。

リーマンショックで学んだ

  秋田県で精密部品加工などを製造するダイキョー精機の渡部幸悦社長は、円相場の上昇に関連して「不安が現実になっている」と述べ、「先行きについて以前よりも相当慎重に考えなければいけない」と語った。渡部氏は「リーマンショックの経験から状況は急変するということを学んだ」と言い、「日本の政策担当者は通貨の安定がどれほど大切なことかを認識してほしい」と述べた。

賃金の推移

  トヨタ自動車労働組合は春闘でベースアップ相当分として、昨年の半分の月額3000円を要求する方針を固めたと共同通信が12日報じた。トヨタの今期(2016年3月期)営業利益は2兆8000億円と3期連続最高益の見通しで、最大の要因は想定1ドル=118円という前期に比べて8円の円安だ。

  BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「需給ギャップの改善がない中で、原油安が続き円安も一服したため企業や家計のインフレ期待は低下し始めており、これも将来のインフレ率に影響を与える」と指摘。「労組が今春闘に向け賃上げ要求を控えめなものにとどめているのも、物価が安定しているためである。インフレ圧力は当分、高まりそうにない」という。

展望リポート

  日銀は昨年10月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、16年度の生鮮食品を除くコア消費者物価(CPI)の見通しを7月の1.9%から1.4%へ下方修正して、「16年度前半ごろ」としていた2%達成時期を「16年度後半ごろ」に先送りした。28、29日に開く金融政策決定会合で展望リポートを公表する。

  河野氏は10月の展望リポートの公表時より原油価格が10ドル強下振れしているため、「多少の下方修正(0.1-0.2 ポイント)は不可避と見られる」という。日銀は昨年10月のリポートで、原油価格(ドバイ)は1バレル=50ドルを出発点に、見通し期間の終盤にかけて 60 ドル台前半に緩やかに上昇していくと想定しているが、足元では20ドル台後半まで下落している。

宝刀

  これまで日銀の現状維持を予想していた東海東京調査センターの武藤弘明チーフエコノミストは「この先、国際金融市場の混乱が収まらず、為替レートの想定レンジが大きく円高方向に切り上がる展開となれば、日銀は『抜かずの宝刀』を抜かざるを得なくなる状況に追い込まれるかもしれない」と8日付リポートで予想した。新興国経済の不安に中東情勢緊迫や北朝鮮水爆実験という地政学リスクが加わり、国際金融市場は大きく混乱していることが背景だ。

  ブルームバーグが昨年12月9-16日にエコノミスト42人を対象にした調査では、1月緩和予想は7人(17%)と前回調査(41人中12人、29%)から減少していた。

  シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは8日付のリポートで「日銀が春闘での賃上げを重視してきたことや、最近の市場動向を踏まえれば、春闘の開始を目前に控えた今月の会合で追加緩和が決定される可能性は否定し切れない」と追加緩和シナリオに戻した。1月会合で追加緩和が行われる可能性が30-40%程度は存在するとみている。

  みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストも従来、追加緩和は4月と予想していたが、8日のリポートで「円高ドル安が1月中にこのまま大幅に進行してしまうと、1月や3月の決定会合で追加緩和が急きょ決まる可能性が膨らむ」と指摘。「昨年のドル安値(円高値)である115.85円を決定的に割り込むことが、追加緩和に向けて日銀が『臨戦態勢』に入る条件だろう」という。

  HSBCホールディングスのエコノミスト、デバリエ・いづみ氏(香港在勤)は、日銀が直ちに行動を起こすレベルまで円高は進んでいないが、相場を注視する必要があるだろうと指摘。1ドル115円程度で推移すれば日銀は神経をとがらせるだろうし、110円まで上昇すれば追加緩和を検討せざるを得ないだろうとみている。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE