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伊藤教授:中国ショック発の円高「まだ大丈夫」、テーパリングは次期総裁

更新日時
  • 対ドルで110円に向かって行かない限り、大きな問題にはならない
  • 円相場の120-125円は居心地の良いレンジ-伊藤教授

投資家のリスク回避による円高が日本経済に及ぼす悪影響は限られる--。もし大幅に加速したり、物価下落の基調が鮮明となれば、政府・日本銀行は座視しない、と米コロンビア大学大学院の伊藤隆敏教授はみる。

  日銀の黒田東彦総裁が財務官だった当時の1999年から2年間、副財務官を務めた経歴を持つ伊藤教授は9日、都内でインタビューに応じ、ドル・円相場は「120-125円が気持ちの良いレンジだ」と指摘。世界経済や金融市場に対する懸念が一段と深刻化し、「115円になって、110円に向かって行かない限り、それほど深刻ではない」との見解を示した。

  世界の金融市場では、中国の人民元切り下げや景気指標の悪化を受け、年初から原油安と株安・金利低下が進行。ドル・円は11日に116円70銭と同様の混乱が生じた昨年8月以来の円高値を付けた。

  円高は輸出企業の収益減や物価の押し下げ要因となるが、伊藤教授は「企業収益はまだ大丈夫だ。かなり貯蓄もしている」と指摘。黒田総裁が2%の物価目標を目指して金融緩和を続けると信じるなら、対ドルで110円や100円での定着はあり得ず、中期的に「せいぜい120円近傍」で推移すると言う。

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  黒田総裁はフランス銀行主催のシンポジウム講演原稿の中で、異次元緩和は「インフレ期待に直接的に働きかける」と指摘。長年のデフレで「人々の間に染み付いたデフレマインドを転換するのは簡単ではない」としながらも、「問題が物価である以上、その役割を果たすのは中央銀行だ」とした。

  「もし企業の投資計画に悪影響が及び、インフレ期待が下がるようなら、黒田総裁は何かやるだろう」。伊藤教授は、前年比の伸びがゼロ%前後で低迷する消費者物価指数が、原油安や円高の影響を受けて、生鮮食品を除くコアCPIだけでなく、酒類以外の食料とエネルギーを除くコアコアCPIや日銀が独自に試算する生鮮食品とエネルギーを除くコア指数まで低下するようであれば、「追加緩和の確率はじわじわと上がっていく」と予想する。

市場の混乱

  ニューヨーク原油市場のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は12日の相場で一時、12年ぶりに1バレル当たり30ドルを割り込んだ。伊藤教授は、原油安が止まらないのは「中国経済の減速が大きい」と指摘。景気指標からは「6%台の成長が続いているとは考えにくい」と言い、原油安は「世界的に経済成長にプラスのはずだが、中国経済の減速を示す代理変数とみられている」と語った。

  市場には「中国当局の経済政策のコントロールに対する不信感もある」。伊藤教授は、年初来の株式市場の混乱など「政策が賢く作られて賢く運用されているとは思えない事例が続いている」と語る。原油市場に関しては、産油大国のサウジアラビアが価格低迷の容認で米シェール産業の台頭阻止を狙っているとされる一方、サウジとイランの関係が悪化しても両国が本気で戦うとは当事者も周辺国も考えていないとも説明した。

  主な貿易相手国の通貨に対する円の総合的な強弱を示す名目実効為替レートは96.94と2014年10月末の追加緩和より前の高水準まで達している。伊藤教授は最近の円高は、異次元緩和の導入と追加緩和を背景とした昨年までの円安に「出尽くし感が出てきた上に、中国ショックが起き、逃避通貨の円が買われている」と指摘する。

  市場が落ち着けば逃避需要は剥落するが、国内景気が徐々に回復する一方、米利上げはほぼ織り込まれているため、円の反落は「120円くらいまで」と、伊藤教授は予想している。気持ちの良いレンジの「上限だが、それほど問題になることではない」と言う。

テーパリング、次の総裁は大変だ

  日銀が2%の物価目標を達成するため「量的・質的金融緩和」を導入してから2年半が過ぎた。その間に実施した追加緩和などの結果、日銀による今年の長期国債買入額は約120兆円と16年度の市中発行額の8割超に及ぶ見通しだ。

  ただ、原油安などにより物価の重しは根強く残っており、日銀は昨年10月末に物価見通しを引き下げ、2%到達の時期を「16年度後半ごろ」に先送りしている。市場関係者の日銀見通しに対する評価は厳しく、ブルームバーグが昨年12月にエコノミストを対象に実施した予想調査では、生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI)前年比が2%程度に達すると見込むのは38人中1人だけだった。

  1日付の日経新聞は、日銀が29日に公表する展望リポートで16年度の物価見通しを1.4%から1%前後へ下方修正する検討に入ったと報道。原油の反発がなければ、2%目標の達成時期も16年度後半ごろから先送りする可能性が大きいと伝えた。

  過去に日銀副総裁候補に浮上したことのある伊藤教授は、原油安による物価上昇の遅れや17年4月の消費増税を考慮すると、黒田総裁は「たぶん任期中にテーパリングをやらないのではないか」と指摘。「18年3月まではテーパリングの議論すら必要ないという感じで行けるかもしれない」と言い、「次の総裁は大変だ」と述べた。

  物価上昇を目標とする政策では、「インフレ期待が2%に収束するのが遅れているなら、実際のインフレ率は2%をオーバーシュートしてもよい」と指摘。「すぐにテーパリングするのではなく、2.5%くらいまで行ってからでもよい。2%は中心値なので、上下0.5-1ポイントの間に中期的に収めたいというのがインフレ目標だ」と説明した。

消費再増税先送りも

  安倍晋三首相は14年4月の消費税率引き上げ後に低迷した景気などを考慮して、10%への消費税再増税を従来予定の15年10月から17年4月に延期した。首相はリーマンショック級の出来事がない限り、消費増税を実施する構えだ。

  伊藤教授は、政府が景気の浮き沈みなどではなく「軽減税率の範囲やシステムの準備などの技術的な理由で先延ばしする」可能性はあるとみている。軽減税率の導入が衆参同日選を想定して公明党に譲歩したという「政治の貸し借りに使われていると根強く言われている。消費増税の日程も同様に絡んでくる可能性がある。軽減税率の準備が整わなかったから1年先送りというのは不思議ではない」と話す。

  財政健全化への影響は「日銀が国債を買い続けているうちは、それほど問題は起きない」と指摘。「大目に見れば東京オリンピックがある20年まで引っ張れる。消費税率を上げなくても、景気も潜在成長率も高めにいく」と述べた一方で、オリンピックで景気のピークを迎えた後の「21年、22年は金融を引き締め、財政を緩める政策ミックスが必要になるかもしれない」と語った。予定通り10%に引き上げた上で「19年か20年のオリンピック直前に13%に引き上げておくべきだ」と言う。

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