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統計が正確なら無茶な戦争しなかった-祖父の教訓、麻生氏も一石

更新日時
  • 家計調査や毎月勤労統計に見直しの動き-内閣府が3月に報告書
  • 日本経済の回復、統計に見えず焦りか-来春に迫る消費再増税

「もし日本の統計が正確だったら、無茶(むちゃ)な戦争などしない。統計通りだったら日本の勝ち戦だったはずだ」。70年前、戦後処理を一手に引き受けた当時の吉田茂首相は「日本の統計はいい加減だ」と指摘した連合国軍総司令部(GHQ)のダグラス・マッカーサー元帥にそう言い返した。その後、より正確な統計を基にした経済復興が重要と現行制度の礎を築いた。

  祖父の有名な逸話を自著で紹介した麻生太郎財務相。昨年10月の経済財政諮問会議で、「GDPの基礎統計の充実に努める必要がある」と再び統計の在り方に一石を投じた。第2次安倍政権が発足してから3年が経過。日銀による量的・質的金融緩和を原動力にデフレ脱却を目指しているが、日本経済の回復は国内総生産(GDP)統計上に明確に現れていない。消費再増税を来年4月に控える財務相の焦りを指摘する声もある。

  企業の経常利益が4-6月期に過去最大を記録したほか、雇用関連統計も堅調に推移しており、足元の経済はGDPが示すほど悪くないと財務相は繰り返していた。事実、昨年7-9月期GDPの改定値(二次速報)は設備投資などの上積みで、1次速報の年率0.8%減から一転、1.0%増と上方修正された。

  内閣府によると、過去10年間の1次速報値と2次速報値の差は平均0.8%ポイントとなっている。数値は2次速報後も改定されるため、同じ期間の1次速報値とそれぞれの最新の改定値の差をブルームバーグが試算したところ、その差は平均1.7%ポイントとなった。

  昨年12月8日の発表当日の閣議で、財務相は甘利明経済再生相を「内閣府がいかにいい加減かということだ」と皮肉り、その後の記者会見でも「良い方に外れたからいいという種類の話ではない」と、見直しの必要性を訴えた。

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個人消費と消費税

  
  BNPパリバ証券の白石洋エコノミストは「GDP統計は政府見通しから消費が激しく下振れたが、消費税収はかなり上振れている」と指摘し、財務相の発言には「個人消費が2014年以降、過少推計されているという問題意識が出ている」と解説。その上で「財務省は再増税を控え、消費税を上げても景気は悪くならないと言いたいのではないか」と推測する。

  白石氏はリポートで14年4月の消費増税後のGDPの大幅な落ち込みが日銀の追加緩和や消費増税の先送りや追加財政の根拠となったとし、追加財政に国費を投入する前にGDPの精度を上げるための統計整備に投入すべきだと主張。特に四半期速報段階の精度が高くないとの認識を基に政策を立案する必要があるとしている。
  
  「統計指標の質はこれまでも問題視されてきたが、どちらかというと悪化している」。20年以上も日本やアジア経済を見ているシンガポール銀行のチーフエコノミスト、リチャード・ジェラム氏は「足元の経済動向を示す信頼できる指標なしに的確な財政や金融政策の判断は難しい」と指摘。企業収益や雇用は日本経済の改善を示していることから、「GDPはただの雑音でしかない」と厳しい見方を示した。

  財務相が諮問会議で具体的に指摘したのは、消費増税後、商業動態統計の小売売上高に比べて消費支出の下振れが目立つ家計調査や、昨年1月のサンプル入れ替えに伴う遡及(そきゅう)改定で名目賃金が大幅に下方修正された毎月勤労統計だ。

家計調査や毎月勤労統計

  家計支出の動向を示す家計調査は回答項目が多く、時間的余裕がある高齢者や専業主婦に回答が偏っているとの見方をはじめ、約9000のサンプル数を増やすことでぶれをなくすよう求める声もある。賃金の動向を示す毎月勤労統計は約3年ごとの大規模な事務所サンプルの入れ替えを小幅にとどめるべきだとの指摘もある。

  総務省の消費統計研究会のメンバーも務める第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは「家計調査は平均的な家計の消費や収入の状況を知ることが目的で、マクロの成長率を計算する統計に使うこと自体おかしい」と指摘。GDPの推計に供給側の商業動態統計を活用すべきだ、との認識を示している。

  一方で、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は「商業動態統計も外国人向けの売り上げが含まれるほか、企業向けと個人向けの売り上げが区別できない致命的な欠点がある。家計調査は誰が消費したのかが分かるメリットがある」と反論。調査世帯の偏りを解消する努力は必要としながらも、「家計消費状況調査や家計消費指数なども含め使い方の工夫である程度の解決策になる」と語った。

3月に報告書

  日本大学の小巻泰之教授は家計調査について「調査は費用対効果を考えて行われている。サンプル数を増やすにはお金と人員が必要だ」と説明。財務相の問題提起によって人員増も含め予算がつくことはチャンスとみる。一方で、名目賃金が上がらない背景には非正規雇用が4割を占める労働形態の構造変化があるとの見方だ。

  内閣府統計委員会の基本計画部会は昨年12月、家計調査も審議対象に加えることを決めた。昨年3月に同委員会がまとめた報告書に明記された家計消費状況調査などの公表早期化や記入者負担の軽減に向けたオンライン調査の導入などの見直し状況を確認する。毎月勤労統計などとともに3月に報告書を取りまとめる。

(第3段落に説明を補足し、第4段落を追加します.)
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