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日本企業はCEOの報酬上げよ、相談役ルート断ち緊張感を-斉藤惇氏

  • 欧米に比べて低い水準、経営に見合った報酬を株主が判断を
  • 協調性や統一性重視の土壌からスティーブ・ジョブズは現れず

日本取引所グループの前最高経営責任者(CEO)で、2015年8月に米プライベートエクイティ投資会社KKRの日本法人会長に就いた斉藤惇氏は、競争力や技術革新力を高めるにはサラリーマン経営者を生む日本の企業体質を改めることが必要で、そのためには経営陣の報酬を引き上げるべきだ、とみている。

  斉藤会長はブルームバーグのインタビューで、「社内で優秀だと言われたサラリーマンが役員になってしまった、こういう会社をどうするか。先輩がやったこと以上のことをして失敗すると相談役になれない、そんな経営が多い」と指摘。日本では、経営者に正当な報酬が払われず、顧問や相談役になることで生涯賃金が保障されており、「これを壊さないといけない。コンペンセーション(報酬)はたくさん取っていい。緊張感も出る」と述べた。

  経済産業省の主導で一橋大学大学院の伊藤邦雄特任教授らが14年8月にまとめた「伊藤レポート」は、日本企業の経営者のインセンティブ構造をみると、欧米企業と比べ報酬水準が低く、業績連動部分も少ない傾向があり、経営の短期志向と資本コストや株主資本利益率(ROE)への認識の低さに影響している面がある、と分析。日本取引所が15年6月に適用したコーポレートガバナンス・コードでは、経営陣の報酬について中長期的な業績や潜在的リスクを反映させ、 健全な企業家精神の発揮に資するインセンティブ付けを行うべきだ、とした。

  米コンサルティング会社タワーズワトソンによると、日本の大企業(売上高1兆円超)のCEO報酬額は13年時点の中央値で1.25億円と米国(11.5億円)の約10分の1、英国(5.4億円)の5分の1にとどまる。ゴールドマン・サックス証券では、創業者が経営する企業の株式は市場を長期的にアウトパフォームする傾向がみられ、役員報酬の売上高比率が高い企業はROE、当期利益率が総じて高いと分析。日本企業の生産性と国際競争力の長期的向上にはこれまで欠けていた役員報酬のガバナンス問題に取り組むことが不可欠、と同証ではみている。

株主にも責任、「CEO職」の必要性

  斉藤会長は、顧問や相談役という存在に大きな理由はなく、「あれだけ頑張った人が1億円もない給料で働いたのだから、残りの人生は何もしなくても車と部屋くらい付けてあげよう、というタシットアンダースタンディング(暗黙の了解)が働いている」との認識だ。米国レベルの報酬は不要としながらも、「会社を何百億円ともうけさせており、株主もそういう会社からは良い配当をもらっているはず」で、経営に見合った報酬額を株主が判断すべきだとしている。

  ブルームバーグのデータでは日経平均の構成企業で役員報酬を公開している企業のうち、最も報酬が高いのは日産自動車のカルロス・ゴーン社長の10億3000万円、最も低いのは資生堂の魚谷雅彦社長の6300万円だった。上場企業は連結報酬1億円以上を受けた役員の情報を有価証券報告書に記載することが義務付けられている。

  タワーズワトソンによると、年間売上高1兆円超の企業のCEOの報酬の中央値に占める長期インセンティブ報酬(株式報酬など)は日本企業は14%と米国の69%、英国の40%を下回っている。斉藤会長は、経営陣に対し年間給与の約5倍のストックオプションを出し、「同時に顧問や相談役になることをやめるべきだ」と提案する。経営者の報酬を上げることで、「優秀な人があの会社の社長になってみようか、と『CEO職』というのが出てくる。今はそれほど魅力がない」と話す。

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  日本取引所のCEOとしてコーポレートガバナンスの強化に取り組んできた斉藤氏は、飛躍的な情報技術の発展で日本企業のビジネスモデルが大きく変わる必要があった中、「変わらない問題があった」と振り返る。協調性や統一性など秩序を重んじる風潮だ。こうした土壌は起業家の誕生を妨げており、もし米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が日本の大企業に入ったら、「間違いなくすぐ首になっていただろう。日本人は右向け右と言われて右を向き、統制主義者からみると非常にうらやましく、それなりに成功はしてきたが、そこからジョブズは出てこない」と言う。

  ただ斉藤氏は、コーポレートガバンナンス・コードを利用して会社を良くしようという動きが増えてきているとの見方も示した。一方、個人投資家は資産を預けた運用会社に対して「何でこんな下手な運用をするのだ」と貪欲に主張してもよいと述べ、こうした個人の思いを運用者が受け止めることで、企業や経営者に利益の増加を促すことになるという。同時に社外取締役も「何しているんだ」と言うことになれば、「社外取締役も緊張する」と述べた。

  15年6月に日本取引所のCEOを退任した斉藤氏は、旧知の仲だったKKRのヘンリー・クラビス共同会長の誘いを受け、日本法人の会長に就いた。現在は週2回ほど出勤し、講演や企業訪問を行っている。プライベートエクイティ市場のような産業は「もうからない部分を切り出したり、M&A(企業の合併買収)したりとその機能はガバナンスと良く似ている。役に立てるかと思った」と言う。

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