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サウジはなぜシーア派聖職者を処刑したのか、理由と中東緊張の行方

  • ニムル氏はシーア派とスンニ派との緊張の象徴に
  • イラン国内で穏健派・強硬派の対立が急速に悪化する可能性も

世界最大級の原油生産国であるサウジアラビアと、長期に及んだ国際制裁からの脱却を果たそうとしているイランの間に、過去20年以上で最悪の危機を引き起こしたイスラム教シーア派聖職者の処刑。在テヘランのサウジ大使館襲撃や、サウジによるイラン国交断絶へと事態はエスカレートし、すでに両国の代理戦争の様相を呈していたシリア、イエメン紛争で緊迫化する中東情勢の火に油を注ぐ格好となった。

  サウジがなぜ、シーア派聖職者のニムル師らを処刑したのか、それが今後の中東情勢にどう影響するのか要点をまとめてみた。

ニムル師とはどんな人物なのか

  サウジ東部の油田地帯出身のニムル師(57)は反政府活動家として知られ、同国では少数派であるシーア派が不当な扱いを受けているとして、たびたび礼拝で王室を非難していた。

  ウィキリークスが公表した米公電によれば、ニムル師は2008年に米国の外交官らと会った際、イランは自国の利益に基づいて行動する国であり、サウジ国内のシーア派はイランの支援を期待するべきではないと発言。イランとは距離を置く姿勢を見せていた。

  2012年にはサウジの治安部隊に追跡された挙句、狙撃されて負傷。身柄を拘束され病院に搬送された。ニムル師の死刑判決は14年に下され、先日、刑が執行された。

死刑執行はサウジアラビアにとって何を意味するのか

  米中央情報局(CIA)の世界各国要覧によると、サウジの人口に占めるシーア派の比率は10-15%。多くは油田が集中する東部に住み、政府に差別されていると主張、たびたび治安部隊との衝突が起きている。

  ブルッキングス・ドーハ・センターの特別研究員、イブラヒム・フライハット氏はニムル師処刑について、「シーア派の怒りを象徴するものとして、サウジ国内での緊張を常態化してしまった」とインタビューで話した。「これまではシーア派コミュニティーを代表する人物としてさほど認識されていなかったが、今ではシーア派とスンニ派の緊張の象徴となった」と述べた。

  過激派組織「イスラム国」は2015年、宗派間の対立を利用する形で、サウジ東部のシーア派モスクを襲撃している。

  米海軍第5艦隊が司令部を置く隣国のバーレーンでは、シーア派が人口の半数を超える。バーレーン当局はイランが過激派のシーア派組織を支援しているとしてたびたびイランを非難しているが、イランはこれを否定している。

緊張が高まっているにもかかわらず、なぜ死刑を執行したのか

  英バーミンガム大学のスコット・ルーカス教授はニムル師処刑について、イエメンやシリア、イラク間の複雑な力関係を考慮すると、イラン、および国内の反政府派に対し「強硬な姿勢」を示すことがサウジ政策の狙いだと分析。「サウジはあえて死刑執行という一線を越えた。しかもアルカイダのテロリストと同列に扱うような表現を用いて侮辱することで、傷口を広げた」と述べた。

イランの反応

  国営のイラン学生通信(ISNA)が警察の話として報じたところによると、テヘランではサウジ大使館の外に集まった群衆が投石や火炎瓶などで抗議、建物の一部が燃えたほか、大使館内を荒すなどして数人が逮捕された。最高指導者ハメネイ師はサウジには「神による報い」が下ると非難したが、イランが何らかの行動を起こすかどうかには言及していない。

  ロウハニ大統領は一方で、死刑執行を非難しつつもサウジ大使館襲撃は正当化されないとして暴徒を批判、対立のエスカレートを望まない姿勢を示した。

  バーミンガム大学のルーカス教授は今回の事件が、ロウハニ大統領に近い穏健派と強硬派との間の「国内対立が急速に悪化する事態」を招きかねないと指摘した。

イランとサウジの緊張はさらに高まるのか

  「ボールはイラン側のコートにある」とルーカス教授。サウジがイランとの国交断絶を決定する前の段階で行われたインタビューで、イラン政府が対決姿勢を強めつつある兆候として考えられる動きとして、イエメン内で活動する武装組織「フーシ」、あるいはシリアに戦闘員を送り込んでいるシーア派ヒズボラに対するイランの支援強化を挙げた。同教授はその上で、「そうはならないと考えている」と述べた。

原題:Who Was the Cleric the Saudis Executed and Why His Death Matters(抜粋)

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