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幻の焼酎と核燃料サイクルの夢-六ヶ所村に近づく決断のとき

  • 再稼働の遅れやもんじゅ見直し、核燃料サイクル事業につく疑問符
  • 18年に迫る日米原子力協定の期限-核爆弾6000個分のプルトニウム

本州最北端下北半島の太平洋岸に位置する青森県六ヶ所村。焼酎の本場九州から村内の企業に出向してきた社員の発案で始まった焼酎の製造事業は、いまではネットオークションで定価の3倍近い価格で取引されるプレミアム焼酎を生み出すまでに成長した。

  この地域はやませと呼ばれる特有の強い風の影響でコメの生産が難しく、地中で育つ長芋の生産が盛ん。そのため、青森県は全国一の長芋生産地となっている。大量に出る規格外の長芋を活用する方法として焼酎事業を提案したのが、使用済み核燃料の再処理事業のために六ヶ所村の日本原燃サービス(現・日本原燃)に出向していた九州電力の社員だった。

  製造事業が始まった1990年当初は焼酎の本場である九州の蔵元に長芋を送って生産を委託していたが、原発や関連の施設などを立地する自治体に対して地域振興を目的に国から支払われる交付金を使って村が醸造所を建て、2006年に村内での製造を開始。看板商品「六趣レギュラー」の生産数量は初出荷時の2倍の8万本へと増えたものの、工場の直売店でも手に入りにくいほどの品薄状態が続き幻の焼酎と呼ばれる。

Rokkasho Plant

Radioactive waste storage inside the Rokkasho Nuclear Fuel Reprocessing Plant

Photographer: Emi Urabe/Bloomberg

  大成功を収めた焼酎事業とは裏腹に、そのきっかけとなった核燃料サイクル事業は青森県や六ヶ所村が受け入れを決定してから30年たった今も操業開始には至っていない。村内では、東京電力や九州電力など原発を保有する電力会社が出資した日本原燃と政府が主体となり、ウラン資源を有効活用するための核燃料サイクルの実現に向けた取り組みが続けられている。

核燃料の2つの輪

  核燃料サイクルを成すのは2つの輪。使用済み核燃料を処理して通常の原発で再利用するという軽水炉サイクルと、処理した燃料を別な形の原子炉でも使う高速増殖炉サイクルの両輪が計画を支える。高速増殖炉もんじゅの研究開発にはこれまでに計約1兆円が投じられたが、事故や点検漏れなどでほぼ20年間運転できていない。

  原子力規制委員会は11月、もんじゅの事業を所管する文部科学省に対し現在の日本原子力研究開発機構に代わる運営主体を見つけるよう求めた。さらに代替の組織を見つけられない場合には事業そのものを抜本的に見直すよう勧告しており、半年後をめどに回答するよう要請した。この結論次第では、日本の核燃料サイクル全体が岐路に立たされるとの指摘もある。

   エネルギー自給率が6%の日本にとって、使用済みの核燃料からウランやプルトニウムを再利用することは、ウラン資源の輸入削減につながる。再処理により、貯蔵する放射性廃棄物の容量や放射線量を減らせることも利点だ。

ペレット1個で家庭8カ月分

  天然ウラン鉱石は核分裂しやすいウラン235と、しにくいウラン238で構成される。鉱石に0.7%含まれる235の割合を濃縮工場で3-5%まで高め、直径、高さともに1センチメートルの円筒状のペレットに固める。この量で一般的な家庭の約6-8カ月分の電力を賄える。ペレットを数珠状に4メートル程度つなげたものを核燃料棒、これを数十から数百本束ねると燃料集合体になる。

  核分裂反応を起こした後の使用済み核燃料はウラン235の割合が減り、その代わりにプルトニウムと高レベル廃液の元となる核分裂生成物が発生する。再処理工場では使用済み核燃料を切って溶かし、ウランとプルトニウムを抽出して不純物を取り除くとともに、高レベル廃液をガラスで固めて専用の容器に入れて地中に埋設するための処理も担う。

  建設中のウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料工場では、核分裂しやすいウラン235の代わりに、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを配合したMOX燃料を製造する。これを通常の燃料の代わりに利用することをプルサーマル発電と呼び、ウランの利用効率を既存の原発で26%、高速増殖炉で100倍以上向上できるというのが核燃料サイクル最大のメリットだ。

23回の延期

  六ヶ所村で計画されている工場のうち、すでに稼働しているのはウラン濃縮工場のみ。再処理工場とMOX燃料工場は操業には至っていない。当初1997年に予定していた再処理工場の完成は、技術力不足によるトラブルや安全規制への対応で23回の延期を重ね、現在は2018年度上期の完成を予定している。建設費用は当初予定の7600億円から約2兆2000億円まで膨らみ、それらは主に原発を保有する電力会社からの資金で賄われる。

  原燃は10年に同社に出資する電力10社やメーカー3社を割当先とする計4000億円の増資を行っており、それとは別に事業資金の借り入れでも電力会社などからの債務保証を受けている。原燃の酒井和夫副社長は23回目の延期を発表した11月の記者会見で再処理工場、MOX燃料工場ともに建設費用がさらに上振れする可能性を示唆したうえで、その資金については金融機関から借り入れる方針を示した。

電気料金に上乗せ

  電気事業連合会が総額19兆円と試算する核燃料の再処理費用。原燃に出資する電力各社はこれを電気料金に上乗せして徴収している。4月からの電力小売りの全面自由化で新規参入する企業との競合を迫られる電力各社にとっては、再処理費用の負担が競争力をそぐ要因となる。

  政府が11月に開催した有識者会合では、自由化後も使用済み核燃料の再処理に必要な資金を確実に確保するため、実施主体を国が監督する認可法人にし、この認可法人が原燃に再処理事業を委託するという形にして国の関与を強める案が示された。さらに、原発を運営する電力会社の資金負担の範囲を拡大し、電力会社が自社で積み立てるこれまでの制度から、拠出する制度に改めて支払い義務を課す方向性も示した。

  再処理の過程で取り出したプルトニウムについては、核不拡散の観点から原発で消費可能な量以上を持たないという国際公約を守る必要がある。六ヶ所の再処理工場では使用済み核燃料を年800トン処理し、年4-5トンの核分裂性プルトニウムを作ることが可能。電事連は東電福島第一原発の事故以前から、16-18基の原発でMOX燃料を使って発電することで、年5.5-6.5トンと生産量を上回るプルトニウムの消費計画を立ててきた。

遠のくプルサーマル

  事故を受けて厳格化された原子力規制委の新規制基準に基づく安全審査に申請した原発は25基、合格した原発は5基にとどまる。プルサーマル発電を想定している原発のうち審査に合格しているのは関西電力高浜3、4号機と四国電力伊方3号機の3基のみ。東電柏崎刈羽3号機や東北電力女川3号機、北陸電力志賀1号機などは審査の申請にも至っておらず計画の実現にはほど遠い。

Rokkasho Plant

The plant’s control room

Photographer: Emi Urabe/Bloomberg

  電事連の八木誠会長(日本原燃会長、関西電力社長)は11月の記者会見で、16-18基の原発でプルサーマル発電を行う方針に変わりはないと述べ、新たなプルサーマル計画については18年上期の再処理工場の稼働前に策定する方針を示した。MOX燃料を3分の1程度用いることができる100万キロワット級の原発1基で年0.3トンのプルトニウムの消費が可能。燃料のすべてにMOX燃料を利用できる設計の電源開発(Jパワー)の大間原発では同1.1トン消費できる。

  プルサーマル発電ができる原子炉が少なくなれば、プルトニウムの余剰を持たないという国際公約を守るために再処理する量を減らす必要が出てくる。MOX燃料消費の調整役を担う電源開発の北村雅良社長は、プルトニウムの加工量が少ないと非常に割高なMOX燃料となってしまう」と話す。日本原燃の小田英紀執行役員によると、一般的にMOX燃料の製造コストは通常のウラン燃料の2-4倍くらい高いという。

政策的な手当も

  さらに北村社長は「民間事業としてやりますという部分と、日本が余剰プルトニウムを持たないように必ず何らかの手段で再処理したプルトニウムは絶対燃やしますという国としての約束を守る役目は違う」と指摘。赤字覚悟で割高なMOX燃料を用いることはできないと述べ、それでもMOX燃料を用いなければいけない場合には、何らかの政策的な手当てが必要との考えを示した。

  原発を運転する31カ国のうち、核燃料サイクル政策を掲げる国はフランスやロシアなど一部にとどまる。米原子力規制委員会で委員長を務めたデール・クライン氏(東電の原子力改革監視委員会委員長)は核燃料サイクルについて、「放射性廃棄物の量を減らし、使用済み核燃料という既存資産を有効活用でき、ウラン鉱石の採掘量を減らせるなど、多くのポジティブな面がある」と述べる。しかし、核不拡散の問題に加え「短期的には経済的優位性がない」ことから、米国では再処理を行うことは「非常に困難」と話した。

  核不拡散体制の強化や、核燃料サイクルの安定的な運営を念頭に置いて締結された日米原子力協定が18年に期限を迎える。同協定の延長や改定に際しては、再処理の過程で出るプルトニウムだけでなく、日本が国内外ですでに保有している約48トンのプルトニウムについても、過度に保有しないよう対応を迫られる可能性がある。

核爆弾6000個分

  原子力・核兵器問題のアナリスト田窪雅文氏によると、広島に投下された核爆弾は純度を高めたウラン235から、長崎の核爆弾はプルトニウムから作られていた。8キログラムのプルトニウムで1個の核爆弾の製造が可能とする国際原子力機関(IAEA)の規定を当てはめると、日本は約6000個の核爆弾の製造が可能なプルトニウムを保有していることになるという。

  研究開発中の高速増殖炉もんじゅをめぐっては、文科省が原子力規制委の勧告を受けて有識者検討会を設立し、12月28日の初会合で見直しの議論が始まった。原子力の危険性に関する調査や研究を行う原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「高速増殖炉サイクルから撤退することを文科省が決めるのは革命的な話」と語る。核燃料サイクル政策が高速増殖炉の稼働を前提としていることから、もんじゅの抜本的な見直しは政策全体の見直しを意味すると指摘した。

  原発再稼働の遅れやもんじゅ計画の見直しといったプルトニウムの使い道を限定する課題が浮上したことで、伴氏は核燃料サイクル事業全体が「大変な袋小路に入りつつある」と話す。これを契機に核燃料サイクルの政策を見直すのか、決断の時期が近づいている。

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