年金界のクジラGPIF、過去最悪の運用成績でもリスク資産投資

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  • GPIFは7-9月期の運用収益率がマイナス5.59%、内外株安で
  • 収益振れやすいが、長期的に見れば目標額下回るリスク少ないと説明

世界最大規模の年金基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2015年度第2四半期(7-9月)の運用で過去最悪の成績を記録した。資産構成の見直しで大幅に増やした内外株式が世界的な株安や円高の打撃を受けたことが主な背景だが、リスク資産への投資姿勢を崩していない。

  GPIFの四半期ベースの収益がマイナスに陥るのは新資産構成を公表した昨秋以降で初めてで、運用資産額は135兆1087億円と5四半期ぶりに減った。三石博之審議役は昨日開いた7-9月期の運用状況に関する記者会見で、公的年金の運用は短期的な収益確保が狙いではなく、長期的に見れば安定した収益を確保していると説明。内外株式とも10月以降は大幅な回復基調にあると指摘した。

  同期の運用収益はマイナス7兆8899億円と、前身の年金資金運用基金で自主運用を始めた01年度以降で最悪。収益率もマイナス5.59%と同一基準でさかのぼれる08年度以降で最低を記録した。財投債を除く市場運用分に限るとマイナス5.79%で、米同時多発テロがあった01年7-9月期とリーマンショック直後に当たる08年10-12月期に次ぐ悪さだ。

  GPIFは、デフレ脱却を掲げる安倍晋三政権の有識者会議(座長:伊藤隆敏教授)の提言などを通じ、国内債偏重の見直しやリスク資産の拡大を進めてきた。菅義偉官房長官は昨日の定例記者会見で、GPIFの運用について、年金運用は長期的な観点が重要であり、短期的には損失が生じることもあるが、年金財政に必要な積立金を下回るリスクは少なくなったと理解を示した。

  三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは、公的年金は将来の支払いという「償還期限が非常に長い負債を抱えており、四半期ごとに一喜一憂すべきではない」と指摘。短期的な成績悪化への批判は出るだろうが、国民的な「金融リテラシーの問題」なので、右往左往せずに信念を持って説明責任も果たしていくべきだと話した。
 
  中国の人民元切り下げをきっかけとした8月以降の世界的な市場の混乱を背景に、GPIFの第2四半期の株式運用は不振に陥り、国内株の収益率がマイナス12.78%、外国株がマイナス10.97%となったほか、収益額を合計8兆円押し下げた。外国債券はマイナス1.26%。国内債は0.60%とかろうじてプラスを確保した。

  三石氏によると、01年度から足元までのGPIFの収益率は年平均2.79%、同法人が設立された06年度以降では2.82%。昨年度までの名目運用収益率2.76%と名目賃金マイナス0.34%の差である実質運用利回り3.11%は財政計算上の前提を上回ったと言う。リスク資産が多い現在の資産構成は収益は振れやすいが、長期的に見れば目標額を下回るリスクは少ないとしている。

収益リスク

  GPIFは昨年10月末の資産構成見直しで、国内債偏重型からリスク資産が全体の6割強を占める分散型に変えた。中期目標では実質運用利回りを1.7%確保し、経済中位ケースの実質期待収益率は国内債マイナス0.2%、国内株3.2%、外債0.9%、外株3.6%としている。リスク(標準偏差)については、国内債で4.7%、国内株で25.1%、外債で12.6%、外株で27.3%と推計。新資産構成の全体では12.8%と全額を国内債で運用するより収益の振れ幅が大きい半面、目標達成の可能性は高まると計算している。

  BNPパリバ証券の藤木智久チーフ債券ストラテジストは、新たな資産構成では「今回のような市場の混乱時には収益が一時的にマイナスになるのは仕方がない。運用方針を変えることはないというのも既定路線だ」と指摘。「市場環境が収益を左右するインパクトは大きくなっているが、これまで収益が増えてきたし、足元でも株価は底値からだいぶ戻している」と話した。

  実際、東証一部上場のほぼ全銘柄を対象にしたTOPIXは9月末までの3カ月で13.5%下げた後、10月以降は下げ幅をほぼ解消する格好となっている。外株指標の代表格であるMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスは9.9%下落した後、7%近く上昇。円の対ドル相場は8月に1ドル=118円台と年初来高値に迫ったが、足元では123円台に戻している。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは0.3%前後、06年以来の利上げが迫る米国債の10年物利回りは2.2%前後と安定的に推移している。

国民への説明

  GPIFの基本ポートフォリオによると、国内債は35%、外国債は15%、国内株は25%、外国株は25%程度と、株式と債券を半々で運用する方針だ。年金特別会計が管理する約4.2兆円も含めた積立金全体に占める国内債の割合は9月末に38.95%と6四半期ぶりに上昇した。一方、国内株は21.35%、外株は21.64%、外債は13.60%と目標値をやや下回っている。

  ブルームバーグの試算によると、積立金全体139.3兆円のうち国内債の残高は約54.3兆円、国内株は約29.7兆円、外債は約18.9兆円、外株は約30.1兆円、GPIFと年金特会の短期資産は約6.2兆円。BNPパリバ証の藤木氏は最近の株高・円安を考慮し、先週末時点の構成比を国内債37.7%、国内株23.3%、外債13.2%、外株22.9%、短期資産2.9%と推計している。

  7-9月期の巨額の運用赤字について、三石氏は長期的な観点からの評価を繰り返し訴える一方、記者会見の終盤では内外株価の下落に関して「真剣に受け止めている」と説明。動画投稿サイト「ユーチューブ」に公式チャンネルを昨日開設した理由については、「今回の運用状況には国民の関心が高い。長期的な観点から見れば安定的に収益を得てきていると、より分かりやすく直接的に説明をしたい」と語った。

  セゾン投信の瀬下哲雄ポートフォリオマネジャーは、株式と債券が半分ずつという資産構成なら、今回のような収益の下振れは「平気で起こる。この程度の変動はあり得る」と指摘。「しかし、国民はこの結果に驚くだろう。問題は説明がなされていない」点だと話した。

為替ヘッジ

  7-9月期はリスク回避に伴う円高の流れが外貨建て資産の円換算評価額を押し下げた。海外投資に為替ヘッジ(差損の回避措置)を利用することについて、GPIFの三石氏は従来から検討しており、必要になればいつでも活用できるが、実際の投資行動は市場に影響するので、保有の有無も含めてコメントを控えると述べた。

  11月30日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、GPIFが短期的なユーロ相場の変動に対応するため、少額のヘッジを開始したと、事情に詳しい複数の関係者からの情報として伝えた。

(第11段落以降を追加して更新します.)
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