ソフトバンクグループの副社長、ニケシュ・アローラ氏(47)は話すのをやめなかった。インタビューの後に予定していた孫正義社長との食事を少し遅らせても、まだ話したりなさそうだった。

  アローラ氏が話したのは、個人として行った600億円の自社株買いのことだ。自社株買いは、成功した起業家がなぜ危険を冒さなくなるかについて、孫氏と今年のある深夜、語り合った後に決断したという。

Nikesh Arora and Masayoshi Son
Nikesh Arora and Masayoshi Son
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  「どれぐらいのリスクを取りたいと思っているんだ」と孫氏はアローラ氏に聞いた。「ソフトバンクを2倍、3倍、5倍の価値に高められると信じているか。もしリスクを取るなら今だ」

  1週間後、アローラ氏は自社株買いの計画を決めた。ブルームバーグのデータによると、日本企業の経営幹部が行った自社株買いとしては、少なくともこの12年間で最大。アローラ氏は個人としては孫氏に次ぐ株主となる。

 「孫氏の言ったことを真剣に受け止めた」。アローラ氏は、ソフトバンク本社の上層階にある応接室で、キャラメル色のソファーに身を沈めながら話した。白いシャツとジーンズに紺色のローファーというカジュアルなスタイル。「家族が守れる限り、リスクを取るのに何の問題もない」という。

世界中に投資候補

  米グーグルの最高事業責任者などを経て入社したアローラ氏は、ソフトバンクをシリコンバレーのベンチャーキャピタルと米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が率いる投資・保険会社バークシャー・ハサウェイを一緒にしたような、世界で最も野心的な投資会社に変えようとしている。アローラ氏と精鋭ぞろいのチームが狙うのは数百億円以上の新興企業。投資候補は世界中に広がっている。

Masayoshi Son and Nikesh Arora
Masayoshi Son and Nikesh Arora
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ソフトバンクは数十年にわたって新興企業への投資を続けてきたが、孫氏が本業とは別に行う趣味のようなものだった。6月に副社長となったアローラ氏は、投資の比重を増し、専門家を新たに雇うことで、組織的に投資を行おうとしている。

  アローラ氏には非常に有利な点がある。ソフトバンクは多額の資金を調達できる一方、国内の通信事業から生み出される収入があるため、短期で投資収益を上げる必要に迫られていない。アローラ氏が「安定資金」と言うソフトバンクの投資は、上場をせかされたくない起業家を引き付けている。

チーム・ニケシュ

  アローラ氏は、インドでは電子商取引サイトを運営するスナップディールやタクシー配車サービスを運営するANIテクノロジーズ(通称オラ)に出資、米国ではオンライン融資仲介サービスのソーシャル・ファイナンス(ソーファイ)に資金提供した。年5-10件のペースで、30億ドル(約3600億円)程度を投じる計画だ。

  「ある程度の規模まで成長すれば、投資方針や資金調達についての助言は必要ない。必要なのは、経営のための知見だ」とアローラ氏はいう。アローラ氏がソフトバンクに招き入れた元リンクトインのディープ・ニッシャー氏やベア・キャピタル・ パートナーズを創業したアロク・サマ氏はそのための人材だ。

  ソフトバンクから出資を受けたインドのホテル予約ウェブサイト、オヨ・ルームズの創業者、リテシュ・アガーワル氏も交渉の過程でニケシュ氏に力になってもらった。

  アガーワル氏はホテルの部屋に無線インターネットを設置するため、インドの通信事業者バーティ・エアテルの中堅管理職と交渉していた。ところが、アローラ氏が関与してから交渉相手が最高経営責任者に格上げされ、交渉は1カ月もたたずにまとまった。予定していたホテル10件ではなく、1000件分の契約を結ぶことになった。「アローラ氏はまったく違ったスケールで物事を考えている」とアガワール氏は話す。

考え方

  スナップディールの創業者のクナル・バール氏も、同社がインターネット上での支払い戦略を検討した際、ニケシュ氏の支援を受けた。アローラ氏が積極的に行動するよう背中を押したのを受けて、バール氏は決済サービスを運営するフリーチャージの買収に踏み切った。

  「筆頭株主や重要な戦略的提携先のゴーサインがあれば、自信を持って交渉ができる」とバール氏は話す。「ソフトバンクや、とりわけニケシュ氏の支えなしで、買収が可能だったとは思えない」という。

Arora, Google’s Eric Schmidt and Salar Kamangar
Arora, Google’s Eric Schmidt and Salar Kamangar
Photographer: Scott Eells/Bloomberg

  「起業家に資金を供給する場合は、少なくとも考え方が一致しなくてはいけない」とアローラ氏は述べた。「同時に、ただ言うことを聞くだけの起業家は必要ない。そんな人への投資は間違いになる」とも話した。

後継者

  孫氏は60代で一線を退くと公言しており、後継者はアローラ氏だと明言している。アローラ氏がソフトバンクに加わった前期(2015年3月期)に受け取った報酬は165億5600万円。孫氏が海外展開の中心的役割を担うアローラ氏を破格の待遇で迎えた格好だ。

  ただ58歳の孫氏の引退まで最長10年以上ある場合もあり、アローラ氏は後継者にふさわしいかどうか試されることになる。かつてソフトバンクの幹部だったSBIホールディングスの北尾吉孝社長は5月、自身のホームページにアローラ氏が後継者として「必ずしも大丈夫とは言えない」と記載した。北尾氏も以前は、孫氏の片腕と目されていたが、現在、SBIはソフトバンクと資本関係はない。北尾氏からの回答は得られなかった。

  ソフトバンクは今、逆風の中にいる。最大の懸念は2013年に買収した米スプリントで、ブルームバーグのデータによると、15年9月期まで5四半期連続の赤字。保有するアリババ株も最高値を大幅に下回る水準で推移しており、ソフトバンクの時価総額は保有する上場株式の時価総額を下回る状態が続いている。孫社長は株価が将来性を織り込んでいないと考えており、複数の関係者によると、今年に入り経営陣による自社買収(MBO)を検討した。

  株価が伸び悩む状況にも「まったく心配していない」とアローラ氏は言い、「少なくとも次の10年はここにいる。その間に、心配が無用だったと証明できればいい」と話した。「市場は証明しろ、と言っている。私たちの仕事は話すことじゃない、成し遂げることだ」  

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