中央大学法学部に在学中の2005年、初瀬勇輔氏(34)は全日本視覚障害者柔道大会の90キロ級で優勝した。在学中に緑内障で視力を失ったものの、自らの力で道を開いて勝ち取った栄冠だ。しかし卒業を前に待っていたのは就職の厚い壁だった。

  就職活動で100社以上に応募したものの面接の案内があったのは2社だけで、実際に内定が出たのは1社だった。この人材派遣企業に職を得た初瀬氏は、その後2011年に障害者の雇用や採用、教育を支援するユニバーサルスタイルを設立し、自ら代表取締役に就任、障害者と企業をつなぐビジネスに奔走している。アスリートとしても全日本視覚障害者柔道大会で優勝を重ね、広州アジアパラ競技大会 90キロ級2連覇などを果たしている。

Yusuke Hatsuse.
Yusuke Hatsuse.
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  障害者雇用促進法が民間企業に義務付けている障害者の法定雇用率は2.0%。実際の雇用率は上昇傾向にあるものの、2014年6月1日現在ではなお1.82%にとどまっている。安倍晋三首相は10月の内閣改造ですべての国民が活躍できる社会実現を目指して「一億総活躍担当」のポストを新設。推進室の職員への訓示で「若者も高齢者も、男性も女性も、困難な問題を抱えている人も、また難病や障害を持った方々も、みんなにとってチャンスのある社会をつくっていく」と決意を述べた。

「共生できる社会」

  一億総活躍担当相に就任した加藤勝信氏は27日のグループインタビューで、「障害の有無にかかわらず、お互いの人格と個性を尊重し合う共生できる社会」の実現に取り組んでいきたいと表明。すべての国民が「夢や思いを実現できる」社会に向けて、一億総活躍国民会議の場を含めて議論していく方針を示した。国民会議にはパラリンピックのアルペンスキーメダリスト、大日向邦子氏もメンバーとして参加している。

  世界保健機関(WHO)と世界銀行が11年6月に公表した「障害に関する世界報告書」によれば、日本は障害を持つ生産年齢人口の雇用率で最も低いグループに属する。03年のデータによれば、生産年齢人口全体の雇用率6割に対し、障害者の雇用率は4人に1人に満たない水準となっている。

  独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」(JEED)は、本格的な人口減少社会の入り口に立っている日本が今後も経済社会の活力を維持していくためには、高齢者や障害者を含め働く意欲と能力を持つすべての国民が「生涯にわたってその能力を発揮していくことが不可欠」と訴え、雇用支援を展開している。

日本の役割

  コンサルタント会社のマッキンゼ ー・アンド・カンパニーは3月に公表したリポートで、日本の生産性の伸びが過去20年のかなりの期間にわたって2%未満にとどまっていたことを指摘し、生産年齢人口が縮小する中で経済成長のモメンタムを得るには、主に生産性の向上に頼らざるを得ないだろうと分析した。

  リポートは、「地球規模の人口問題の最先端を行く国として、日本は就労の増加に向けた解決策を切り開いていく必要がある」と指摘している。日本企業ははすでに海外の企業よりも人材を得るのが難しくなっているという。

Yusuke Hatsuse.
Yusuke Hatsuse.
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  人材活用の多様性(ダイバーシティ)や一体性(インクルージョン)などに関するサービスを昨年始めたEYアドバイザリーのパートナー、ナンシー・ナガオ氏は、日本ではこうした面からも能力やスキルを幅広い人材から求めることがますます重要になっていると話す。

  経産省は「ダイバーシティ経営によって企業価値向上を果たした企業」を表彰する「ダイバーシティ経営企業100選」を12年から公表している。ナガオ氏は「まだ労働力減少に伴うひっ迫をまだ感じていない企業もあるだろうが、多様な人材を従来の発想を超えて求めていく必要があると気が付き始めている企業もある」とみており、対応を誤れば労働コストの増加につながる可能性もあると話す。

  国際労働機関(ILO)によると、世界で約8億人が生産年齢にありながら雇用の場を得るのに重大な支障に直面している。それは人々の姿勢であったり、物理的な障害であったり、また情報の壁だったりする。

東京五輪・パラリンピック

  日本では、障害を理由とする差別の解消の推進を目的とした「障害者差別解消法」が来年4月に施行されるが、JEEDによると、障害者の法定雇用率を満たしていない企業はなお5割を超えている。未達成の企業には不足人数に応じて納付金が課され、逆に達成した企業には調整金が支給される仕組みになっている。

  北京パラリンピックにも出場した初瀬氏は9月15日、ブルームバーグのインタビューで、20年の東京五輪・パラリンピックを障害者の能力をアピールする機会にしたいと考えている。障害者スポーツを観戦する人は「かわいそう」という目ではなく、むしろ「すごいな」と見てもらっていると思う、と語った。

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