インフレ期待の低下が黒田日銀の頭痛の種に、昨年10月と状況が類似

  • 原油・商品価格や消費者マインドの指標が脅かすロジック
  • 総裁発言も徐々に慎重に、7月のコアCPIはマイナス予想

(ブルームバーグ):世界的な株価や原油など商品価格の下落が「インフレ期待は比較的維持されている」という日本銀行のロジックを脅かしている。市場関係者の間では、日銀がサプライズ緩和に踏み切った昨年10月との類似を指摘する声が出始めている。

債券市場のインフレ期待や消費者のマインド指標は先行きの物価が日銀の思うようには上昇していかない可能性を示唆している。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の鹿野達史シニアエコノミストは「足元の物価上昇率の鈍化や原油価格の下落を受けて、インフレ期待は弱めの動きとなっている」と指摘。市場の予想インフ レ率を示すブレークイーブンレート(BEI)や消費者庁の物価モニター調査でもそれが表れており、「直近の原油価格の一段の下落を受けて、こうした指標はさらに下げ幅を拡大する可能性がある」という。

原油価格

インフレ期待をめぐる動きは黒田東彦総裁にとって大きな頭痛の種になる可能性がある。現に、記者会見での発言は徐々に慎重になっている。5月22日の会見では、「予想物価上昇率は下がってきていない」「予想物価上昇率は安定している」としていたが、7月15日には「インフレ期待は比較的維持されている」に変わった。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「足元の原油価格、商品価格の下落、円高進行により、インフレ期待を示す指標はもっと下がるだろう。『インフレ期待は比較的維持されている』というロジックはこれまで以上に苦しくなっている」と指摘。「昨年10月と同じロジックを貫くのであれば、追加緩和は避けられない」と語る。

黒田総裁は7日の会見で、昨年10月の追加緩和について「急速かつ大幅な原油価格の下落が予想物価上昇率に大きく影響すると、需給ギャップと予想物価上昇率が物価の基調に大きく影響するので、そういったことが懸念され、量的・質的金融緩和の拡大を決定した」と述べた。

鹿野氏は「日本経済をめぐる環境は昨年10月と似てきた。原油価格の大幅な下落、それに4-6月のマイナス成長で需給ギャップも悪化している可能性がある。賃上げの動きも多少弱まる可能性がある」という。

ブレークイーブンレート

28日発表される7月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は、黒田総裁が量的・質的金融緩和を導入した2013年4月以来2年3カ月ぶりにマイナスに転じることが予想されている。

下方修正、追加緩和

日銀は10月30日の金融政策決定会合で経済・物価情勢の展望(展望リポート)を策定する。7月の中間評価では15年度の実質GDP成長率見通し(委員の中央値)を2.0%増から1.7%に下方修正。コアCPI前年比見通し(消費増税の影響を除く)を15年度0.7%上昇、16年度1.9%上昇、17年度1.8%上昇へ、いずれも0.1ポイント下方修正した。

上野氏は「海外発の下振れリスクが高まっているのは明白であり、需給ギャップの面でもリスクが高まっている。円高リスクも高まっている。これまでのような景気・物価の先行きに強気シナリオを維持することは不可能だ」と指摘。展望リポートでも「成長率、物価見通しともに下方修正せざるを得ないだろう」とみる。

上野氏はこれまで同様、10月の展望リポートと同じタイミングでの追加緩和を予想。鹿野氏は「日銀が9月に追加緩和を行う可能性が高まってきた」としている。