人民元切り下げでアジア通貨全滅、円は「黒田ライン」突破なるか

中国人民元の大幅切り下げを受け、アジア通 貨安が進んでいるが、円相場は、「黒田ライン」への警戒感もあり、今 のところ円安が加速する状況には至っていない。

RBCキャピタル・マーケッツのアジア通貨戦略責任者、スー・ト リン氏(香港在勤)は、市場は日本の当局による口先介入を誘ったドル ・円のレンジの上限に近づきつつあることにいくらか警戒感を抱いてい るのではないかと指摘。その上で、「中国は日本にとって最大の貿易相 手国かもしれないが、日本が中国からの純輸入国であるということは重 要だ。このため、ドル・円の反応は限定的になっているのかもしれない 」と話す。

中国人民銀行は11日、各営業日ごとに設定する人民元の中心レート を1.9%引き下げた。20年ぶりの実質的な大幅切り下げで、輸出部門の てこ入れと、価格設定における市場の役割拡大に向けた取り組みを強化 した格好だ。12日は中心レートを前日の水準から1.6%引き下げ、2012 年以来の低水準に設定した。

人民元切り下げを受け、外国為替市場では相対的な輸出競争力の低 下や新たな通貨安戦争勃発への懸念からアジア通貨やオセアニア通貨が 売られ、対ドルで数年来の安値を付けている。ブルームバーグ・データ によると、台湾ドルや韓国ウォン、オーストラリア・ドル、シンガポー ル・ドルはこの2日間で2%以上の下落。一方、円は12日に約2カ月ぶ り安値の1ドル=125円28銭を付けたが、同じ期間の下落率は0.5%程度 にとどまっている。

豪コモンウェルス銀行のジョゼフ・カパーソ通貨ストラテジスト( シドニー在勤)は、中国と日本の経済は競合的というより補完的な関係 にあるため、「人民元切り下げが円にとって重要な意味を持っていると は思わない」と話す。

円は6月5日に対ドルで02年以来の安値となる125円86銭まで下落 したが、その5日後に日本銀行の黒田東彦総裁が実質実効レートで「さ らに円安はありそうにない」と発言したことから急反発した。こうした 経緯から、市場では日本の当局は125円以上の円安を望んでいないとの 見方が広がり、125円前後の水準が「黒田ライン」や「黒田シーリング 」として警戒されてきた。

マネックス証券の山本雅文シニアストラテジストは、人民元安やア ジア通貨安が進むと実効相場上は円高になってしまうので、その分、ド ル・円相場での円安容認圧力は拡大することになると指摘。「黒田シー リングがあまり意味のないものになってくるということで、ドル・円は 上がりやすくはなる」とみている。

一方で、人民元安でドルの実効相場は上がりやすくなり、米国景気 やインフレへの下押し圧力の高まりから、米国の利上げが遅くなる可能 性もあるため、「ドル高のスピードは速いものにはならない」と山本氏 は予想。ドル・円の6月高値は「十分射程距離内だが、そこを抜けて定 着するかどうかは分からない」と話す。

12日午後1時59分現在のドル・円相場は125円19銭前後で推移。ブ ルームバーグがまとめた為替予測調査では、年末の予想中央値が125円 と足元とほぼ変わらずとなっている。

豪コモンウェルス銀のカパーソ氏は、日銀の追加緩和により円は 130円程度まで下落する可能性があると予想している。同氏は、「日本 経済は第2四半期に恐らく縮小しており、脆弱(ぜいじゃく)な景気と 低インフレによる日銀の追加緩和リスクが、ドル・円の上昇余地につな がる」と指摘。「日銀は10月に再び緩和に動くだろう」と語った。

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