「追加緩和あり」と「緩和なし」予想が徐々に拮抗-日銀サーベイ

足元の景気は低迷し、消費者物価指数もゼ ロ%近辺で低迷する中、日銀がエネルギーを除く物価の基調は着実に上 昇しているとの主張を強めていることもあり、「追加緩和あり」予想と 「追加緩和なし」予想が徐々に拮抗(きっこう)しつつある。

日本銀行が6、7両日開く金融政策決定会合は、ブルームバーグが 7月27日から8月3日にかけてエコノミスト37人を対象に実施した調査 によると、全員が現状維持を予想した。

10月の緩和予想は12人(32.4%)と前回(34.3%)からほぼ横ばい だった一方、「緩和なし」は16人(43.2%)と前回(37.1%)から増加 した。「追加緩和あり」予想は21人(56.8%)と前回(62.9%)から減 少し、「緩和なし」予想との差が徐々に縮まっている。

輸出と個人消費が低迷したことで、4-6月の実質成長率は前期比 年率1.9%減と3期ぶりのマイナス成長が予想されている。6月の生鮮 食品を除くコア消費者物価(CPI)は前年比0.1%上昇と引き続きゼ ロ近辺にとどまっており、7月の東京都区部のコアCPIは0.1%低下 と2年3カ月ぶりのマイナスとなった。

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「経済指標は思 いのほか悪い。4-6月の成長率も悪く、数字だけ見ると、追加緩和の 可能性が高まってもおかしくない」と指摘する。

その上で、「それでも緩和しないのは、政治的に円安がさらに進む のが歓迎されないと考えられるためだろう。黒田総裁は火中のくりを拾 ってまで急いで2%に近づこうとはしていないようにみえる」という。

日銀が新型コアCPIを公表

クレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは「日銀 は『目先のCPIのマイナスは想定内の動きで、物価の基調はむしろ改 善している。4-6月期の景気停滞も一時的で、7月以降は巡航速度で の成長に戻る』との見解を示すと予想され、早期の追加緩和となる可能 性は低い」とみる。

日銀は7月の金融経済月報で、エネルギーを除くコアCPIを独自 に公表。5月は前年比0.7%上昇と総合(0.5%上昇)、コア(0.1%上 昇)、食料(酒類を除く)とエネルギーを除く総合(0.4%上昇)のい ずれより高い伸びを示した。

スーパーマーケットのPOSデータを通じ全国約300店舗の商品を 対象とする東大日次物価指数、約1200店舗のデータから算出している SRI一橋大学消費者購買指数もこのところ伸びを高めている。中曽宏 副総裁は7月27日、熊本市内の講演で両指数に言及するとともに、会見 でエネルギーを除くコアCPIに注目していく姿勢を示した。

追加緩和は当面ないことを示唆

シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは「同指数への 言及が、日銀が政策決定を行うためのヤードスティック(尺度)を変更 する前触れであるとは考えにくい」と指摘。「むしろ、同指数にみられ るような『前向きな変化』を強調することで、インフレ期待と企業の価 格設定に影響を及ぼしたいと考えている可能性が高い」とみる。

大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストは日銀が月次で同指数の 公表を始めた背景について、「エネルギー価格の下押し圧力の強まりに 隠れて進んでいる『物価基調のポジティブな変化』に目を向けさせるこ とで、追加緩和の投入は当面必要ない、との認識を示唆したいためでは ないか」という。

一方、JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは「生鮮食 品とエネルギーを除くということは、食料品のみは物価の基調と関係が あるということになるが、なぜエネルギーは物価の基調と関係がなく、 食料品は関係があるのか、この点について日銀は分かりやすく説明すべ きだ」と指摘する。

その上で、「足下では食料品価格の上昇テンポが強まっているが、 基本的にはこれまでの円安の効果が顕現化したものだ。今後円安が一服 すると食料品価格の上昇テンポは鈍化するだろう。日銀はその時には食 料品は除くと言うのだろうか。物価の基調を示す指標を頻繁に変える と、日銀の信認の低下につながる恐れがある」という。

「10月緩和」予想は少数派

10月緩和予想は少数派となったが、依然として3人に1人を占めて いる。伊藤忠経済研究所の武田淳主任研究員は「景気は明らかに停滞し ている。消費増税前にデフレ脱却を確実にすることが不可欠だが、足元 の景気停滞によりその可能性は大きく低下した。日銀は遅くとも10月の 展望リポートまでに追加緩和を迫られる」と予想する。

ジャパンマクロアドバイザーズの大久保琢史チーフエコノミストも 「2%のインフレ目標を2016年内に達成するためには、速やかな追加緩 和が必要な状況といえる」という。

ただし、「日銀内のサイレントマジョリティは、短期的なインフレ 目標について懐疑的で、2%のインフレは数年程度のタームでの達成を 考えており、17年に消費税増税で日本経済が落ち込むことを考える と、16年に無理にインフレ目標は達成しなくてもよい、というのが大勢 なのだと考えられる」という。

着々と出口論の理論武装

野村証券の松沢中チーフストラテジストは「海外環境がよほどひど いことにならない限り、日銀が追加緩和に近付く可能性はかなり低いだ ろう」と指摘。一方で、「出口論は米国の利上げ成功が前提になると思 われ、今のところ表だって話が進む環境ではない」という。

もっとも、「底流では、量的・質的金融緩和がこれまで長期金利に 与えてきた効果の推計や、『均衡イールドカーブ』の研究結果を続々と 公表し始めており、出口論の際に必要な理論武装を着々と進めている感 がある」としている。

日銀ウオッチャーを対象にしたアンケート調査の項目は、1)今会 合の金融政策予想、2)追加緩和時期と手段や量的・質的金融緩和の縮 小時期および「2年で2%物価目標」実現の可能性、3)日銀当座預金 の超過準備に対する付利金利(現在0.1%)予想、4)コメント-。

1)日銀はいつ追加緩和に踏み切るか?            
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調査機関数                                               37            100%
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8月                                                       0            0.0%
9月                                                       0            0.0%
10月7日                                                   0            0.0%
10月30日                                                 12           32.4%
11月                                                      0            0.0%
12月                                                      0            0.0%
2016年1月                                                 5           13.5%
2016年2月                                                0            0.0%
2016年3月                                                0            0.0%
2016年4月以降                                             4           10.8%
追加緩和なし                                             16           43.2%
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2)追加緩和の具体的な手段                     
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マネタリーベースの増加ペースの引き上げ                                   14
長期国債の買い入れペースの引き上げ                                       13
ETFの買い入れペースの引き上げ                                            15
J-REITの買い入れペースの引き上げ                                          9
付利の引き下げ                                                           8
その他                                                     8               
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3)日銀は生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI)前年比が2%程度
に達するのは「2016年度前半ごろ」としてますが、この見通しは実現し
ますか。                                      
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調査機関数                                                 36              
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はい                                                       1               
いいえ                                                     35              
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4)日銀が2%の「物価安定の目標」が安定的に持続すると判断し、
量的・質的金融緩和の縮小を開始する時期はいつ? 
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調査機関数                                               37
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 2015年下期                                               0            0.0%
 2016年上期                                               2            5.4%
 2016年下期                                               4           10.8%
 2017年上期                                               2            5.4%
 2017年下期                                               3            8.1%
 2018年以降                                              14           37.8%
見通せず                                                 12           32.4%
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5) 物価の基調を測る上で最も適切と思われる指標を次の中からお選び下さい。
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調査機関数                                                               35
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総合CPI                                                                   0
生鮮食品を除く総合(コアCPI)                                               5
食料(酒類除く)・エネルギーを除く総合(コアコアCPI)                             13      
生鮮食品・エネルギーを除く総合                                             10      
持家の帰属家賃及び生鮮食品を除く総合                                       2       
その他                                                                    5
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問1に対しての回答の詳細                       
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メリルリンチ証券、吉川雅幸                    追加緩和なし     追加緩和なし
バークレイズ証券、森田京平                    2016年4月以降   2016年4月以降
BNPパリバ証券、河野龍太郎                     追加緩和なし     追加緩和なし
キャピタルエコノミクス、Marcel Thieliant                10月30日             10月30日
シティグループ証券、村嶋帰一                  10月30日             10月30日
クレディ・アグリコル証券、尾形和彦                    2016年1月           2016年1月
クレディ・スイス証券、白川浩道                2016年4月以降   2016年4月以降
第一生命経済研究所、熊野英生                  10月30日             10月30日
大和総研、熊谷亮丸                            2016年4月以降   2016年4月以降
大和証券、野口麻衣子                          追加緩和なし     追加緩和なし
ゴールドマン・サックス証券、馬場直彦                   10月30日             10月30日
HSBCホールディングス、Izumi Devalier                10月30日         追加緩和なし
伊藤忠経済研究所、武田淳                      7月                  10月30日
ジャパンマクロアドバイザーズ、大久保琢史              追加緩和なし     追加緩和なし
日本総合研究所、山田久                        追加緩和なし     追加緩和なし
JPモルガン証券、菅野雅明                      -                   2016年1月
明治安田生命保険、小玉祐一                    2016年1月           2016年1月
三菱UFJモルガンスタンレー証券、六車治美               10月30日             10月30日
三菱UFJモルガンスタンレー景気循環、景気循環研 嶋中雄二7月                  10月30日
三菱UFJリサーチコンサルティング、小林真一郎              10月30日             10月30日
みずほ銀行 、唐鎌大輔                         2016年1月           2016年1月
みずほ総合研究所、高田創                      追加緩和なし     追加緩和なし
みずほ証券、上野泰也                          10月30日             10月30日
ニッセイ基礎研究所、矢嶋康次                  10月30日            2016年1月
野村証券、松沢中                              追加緩和なし     追加緩和なし
農林中金総合研究所、南武志                    追加緩和なし     追加緩和なし
岡三証券、鈴木誠                              追加緩和なし     追加緩和なし
信州大学、真壁昭夫                            2016年4月以降   2016年4月以降
三井住友銀行、西岡純子                        -                追加緩和なし
SMBCフレンド証券、岩下真理                    追加緩和なし     追加緩和なし
SMBC日興証券、森田長太郎                      追加緩和なし     追加緩和なし
ソシエテジェネラル証券、会田卓司              10月30日             10月30日
スタンダードチャータード銀行、Betty Wang      10月30日             10月30日
東海東京調査センター、武藤弘明                追加緩和なし     追加緩和なし
東海東京証券、佐野一彦                        追加緩和なし     追加緩和なし
東短リサーチ、加藤出                          2016年1月        追加緩和なし
UBS証券、青木大樹                             10月30日             10月30日
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取材協力: 藤岡徹