夏の景気持ち直しが持続的物価上昇の鍵、緩和の有無も左右か

日本銀行は夏場の景気の持ち直しが持続的な 物価上昇にとって決定的に重要だとみている。

複数の関係者によると、4-6月の実質国内総生産(GDP)はマ イナス成長が予想されているものの、日銀は景気の落ち込みは一時的で あり、エネルギーを除く物価の基調は着実に上昇していると判断してい る。

もっとも、 7-9月も個人消費や輸出の低迷が続くようだと、来 年度前半ごろの物価目標2%の達成に黄信号がともる可能性があるた め、夏場の個人消費と日本の輸出を左右する海外経済、中でも中国経済 の動向、さらには、物価に直接的な影響を与える原油価格の推移に神経 をとがらせているという。

輸出と個人消費が低迷したことで、4-6月の実質成長率は前期比 年率1.9%減と3期ぶりのマイナス成長が予想されている。6月の生鮮 食品を除くコア消費者物価(CPI)は前年比0.1%上昇と引き続きゼ ロ%近辺にとどまっており、7月の東京都区部のコアCPIは0.1%低 下と2年3カ月ぶりのマイナスとなった。

一方で、日銀は7月の金融経済月報でエネルギーを除くコアCPI を独自に公表。5月は前年比0.7%上昇と総合(0.5%上昇)、コア (0.1%上昇)、食料(酒類を除く)とエネルギーを除く総合(0.4%上 昇)のいずれより高い伸びを示した。

さらに、スーパーマーケットのPOSデータを通じ全国約300店舗 の商品を対象とする東大日次物価指数、約1200店舗のデータから算出し ているSRI一橋大学消費者購買指数もこのところ伸びを高めている。 中曽宏副総裁は7月27日、熊本市内の講演で両指数に言及するととも に、会見でエネルギーを除くコアCPIに注目していく姿勢を示した。

2つの真逆のシナリオが綱引き

黒田東彦総裁は7月15日の会見で、4-6月の実質成長率は「1- 3月と比べかなり低下する可能性がある」としながらも、米国経済が明 確に回復していることや、中国経済が7%成長を維持していることか ら、「4-6月の若干の弱い状況が7-9月以降ずっと続くとは全く見 ていない」と述べた。

BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「足元のイン フレ率は日銀の見通しを大きく外れてはいないが、4-6月の実質 GDPは大幅なマイナスが予想される。需給ギャップ改善の遅れ、およ び原油価格の一段の下落により、日銀の想定するタイミングでの2%イ ンフレ実現は一段と厳しくなる」とみる。

バークレイズ証券の福永顕人、押久保直也両氏は7月31日のリポー トで、「非常に長い周期で見た債券ベアトレンドがついに始まるのか、 あるいは10月追加緩和説が急に現実味を帯びるのか、全く逆のシナリオ の綱引きが続いており、向こう1、2カ月のデータ次第で一気にどちら かのシナリオになだれこむ」と予想している。

想定を下回る原油価格

日銀はドバイ原油価格が1バレル=60ドルを出発点に、2017年度ま での見通し期間の終盤にかけて70ドル程度に緩やかに上昇していくと想 定。その上で、コアCPIが物価目標の2%程度に達するのは16年度前 半ごろになるとしている。しかし、ドバイ原油は5月前半の60ドル台後 半から足元では50ドル近辺に下落している。

JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは「足下では原油 価格が再び低下しているため、コアCPI前年比がマイナスになる期間 が長期化する見込みだ」と指摘。「今後円安が続かないと、16年後半か らは過去の円安の累積効果が剥落するので、インフレ率は1%を超えて 上昇することは困難だ」とみる。

その上で、「足元で中国をはじめとするアジア新興国経済が減速を 強めているので、日銀にとっては逆風が強まる。世界的にディスインフ レ傾向が強まる時に、日本だけ2%インフレを早期に達成するのは至難 の業だ」という。

10月追加緩和説

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケット エコノミストは「世界経済のけん引役が見当たらない中、輸出が伸び悩 んでいる。個人消費も回復が緩慢だ。設備投資計画は強めだが、最終需 要が下振れすれば計画の見直しや後ずれが起こる可能性がある」と指摘 する。

その上で、日銀は10月の展望リポートで成長率見通しの「一段の下 方修正を迫られる可能性が高い」と指摘。予想インフレ率も「7-9月 の実勢物価がマイナスに転じていき、一部では弱含みとなろう。日銀が 展望リポートの検討に入るころには、15年度、16年度の物価見通しの下 方修正が避けられない状況になっている」とみる。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「日銀が掲 げる物価目標2%が達成される時期はまったく見えていない。素直に考 えれば、10月末の展望リポート公表時に強気の景気・物価シナリオの修 正とセットで追加緩和となる可能性が高まっている」と指摘。六車氏と ともに10月緩和予想を維持している。

追加緩和は時間の問題か

上野氏は「むろん、日銀が4月や7月に続いて物価の基調的な部分 はしっかりしていると強弁することなどを通じて追加緩和に動かないケ ースも想定されるが、その場合でも2%目標への到達が不可能に近いこ とを考えると、追加緩和は結局のところ時間の問題ということになる」 という。

メリルリンチ証券の吉川雅幸チーフエコノミストは「7-9月に輸 出が下げ止まるか、消費に回復がみられるか、春闘の結果を反映して賃 金の伸びが高まってくるかが日銀の楽観シナリオの成否を判断する上で の鍵になる」とみている。