医療費や年金はどうなるか、負担増におびえる高齢者

高齢者向けの音楽イベントが開かれた東京都 杉並区のジャスレストラン。洋楽の生演奏を聴き終えた関根貞夫さん (75)は、ビールを飲みながら政府が30日に決定する財政健全化計画が 生活にどのような影響を与えるのか不安を募らせていた。

商社マンだった関根さんは心臓と腹部を指さしながら、「難しい問 題だ。2度も重い病気をし、進んでいる日本の医療保険制度にはとても 助けられた。でも、日本の財政の先行きを考えると見直しはやむを得な いかもしれない」とこぼした。

関根さんはじめイベントの参加者は高齢化で増え続けている年金受 給者だ。日本の65歳以上の人口は全体の4分の1を超えている。出生率 が低迷するなか、10年後の2025年には30%に達する見込みだ。国・地方 合わせて1000兆円を超える財政赤字に苦しむ政府にとって、少子高齢化 で増大する社会保障費の抑制が最大の課題となっている。

政府の20年度基礎的財政収支(PB)の黒字化目標の達成に向けた 計画は、社会保障関係費の増加幅を来年度から3年間で社会保障費1.5 兆円を含む1.6兆円に抑制する「目安」を設定。18年度にはPB赤字を 対GDP比1%程度に縮減する中間目標も示した。

高齢者は重要な支持基盤

昨年12月の衆院総選挙で大勝した安倍晋三政権にとって高齢者は重 要な支持基盤でもある。自民党きっての財政再建派の河野太郎衆院議員 は「自殺行為に近い」としながらも、行政改革推進本部長として社会保 障費の抑制を柱とした歳出削減策を提言してきた。

提言をもとに自民党がとりまとめた財政再建に関する特命委員会 (委員長・稲田朋美政調会長)の最終報告では、「財政赤字の拡大は高 齢化に伴う社会保障費用の増加によるところが大きい」と指摘。後発医 薬品の普及や軽度者の介護保険の給付見直しなどを挙げた。

これに先立ち、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が取りまと めた建議でも、「医療・介護分野の制度改革が不可欠」と明記。特に公 費負担の割合が高い75歳以上の後期高齢者医療制度について25年以降に 「団塊の世代」が仲間入りする前の負担見直しを訴えている。

日本の国・地方の長期債務残高は国内総生産(GDP)の2倍規模 の1000兆円を超える。モルガン・ スタンレーMUFG証券のチーフエ コノミスト、ロバート・フェルドマン氏も社会保障の給付削減は避けら れないと指摘するが、高齢者の「数の力」が政治を通じて社会保障の大 幅な見直しを阻止している現実も無視できないという。

団塊の世代

東京大学の玄田有史教授は「団塊の世代の影響力は大きく、自民党 や民主党ともに不人気な政策を実行するのは難しい」と述べ、与野党を 問わず、選挙結果に影響を及ぼす可能性を指摘する。

「まともな政治家であれば高齢者に重点的に1票を投じるよう訴え る。高齢者に関わる歳出のカットは政治的に大きな意味を持つ」。河野 氏の選挙区がある神奈川県では昨年の総選挙で投票した有権者のうち60 歳以上が半数を占め、20-30歳以下は4分の1以下にとどまる。

河野氏は団塊の世代が後期高齢者に移行する25年度以降の財政状況 はさらに厳しくなるとみる。特命委員会の報告書では「20年代初めには 団塊の世代が後期高齢者となり、社会保障費はさらに累積する。現状を 放置すれば、10年後、20年後には制度が持続不可能となるのは明らか」 だとし、今が改革に取り組む「ラストチャンス」と強調した。

高額所得者

財務省の資料によると、25年度に医療や介護にかかる費用はそれぞ れ12年度に比べて1.54倍の54兆円、2.34倍の19.8兆円と急増すると試 算。財源調達のベースとなるGDPの伸び(1.27倍)を上回って増加す る。社会保障全体では1.36倍の148.9兆円に上る見通しだ。

財政審の建議では、さらに25年に60兆円を超える年金の見直しにつ いて、支給開始年齢(65歳)の引き上げや高額所得者への給付停止など の具体策を示した。

政府は65歳以上の働く意欲のある高齢者の雇用促進に向けた施策を 進めている。その結果、65-69歳の就業率は03年の34%に比べて14年に は40%に増加。少子高齢化で減少傾向にある生産年齢人口の確保にもつ ながっている。玄田氏は「年金の受給年齢を70歳まで引き上げることも 検討すべきだが、まだタブー中のタブーだ」と語った。

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