家賃の品質調整で物価0.2%上げ-日銀が総務省に見直し要請

更新日時

日本銀行の前田栄治調査統計局長は、消費者 物価指数の2割を占める家賃について、老朽化による品質の劣化を調整 すれば、CPI全体を最大0.2ポイント押し上げる可能性があるとの見 解を示した。来年予定されるCPIの基準改定を機に、パソコンなどに 用いている品質調整の導入に向けて議論を行うよう要請した。

前田局長は25日、内閣府で開かれた統計委員会で、「日本では高齢 化・人口減少によって住宅ストックの老朽化が進んでいる」と指摘。 「こうした環境下において、現時点では家賃について、住宅が時間を経 るごとに劣化するという品質変化を考慮していないため、指数に下方バ イアスが発生している」と語った。

その上で、日銀が公表している企業向けサービス価格指数の事務所 賃貸と同程度の品質劣化が生じていると仮定すると、家賃は「消費者物 価(CPI)全体を0.1ポイント以上、場合によっては0.2ポイント」押 し上げるとの試算を示した。前田局長は統計委員会のメンバーで、個人 的な意見と断った上で述べた。

総務省は来年8月、5年に1度のCPIの基準年改定を予定してお り、近く意見募集を行う。日銀は来年度前半に生鮮食品を除くコア CPI前年比が物価目標である2%に到達するとしている。総務省が家 賃の品質調整を導入すれば、CPI全体を押し上げることになるため、 量的・質的金融緩和の出口論にも影響を与える可能性がある。

バークレイズ証券の福永顕人チーフ債券ストラテジストは5月12日 のリポートで、「今年後半より始まるCPIの基準改定の議論はアカデ ミックの場でかなり盛り上がることが想定される」と指摘。「家賃や通 信サービス等を含め、場合によってはCPI前年比の水準が現基準から 大幅に変わるリスクもあるだろう」とみている。

表面価格が横ばいでも品質調整後は上昇

前田局長は家賃について「時間の経過につれて品質が低下する分、 仮に表面の価格が横ばいでも、品質調整後の物価指数は上昇ととらえる べきだろう」と述べた。「仮に品質調整が実施されれば、家賃は指数を 押し上げることになるが、こうした品目でも品質調整に取り組むこと自 体がCPI全体の精度を向上させるために大切ではないか」と語った。

CPIでは既にパソコンなどの品目でこうした品質調整の手法であ るヘドニック法が用いられており、家賃とは逆に品質が向上しているた め、表面上の価格は同じでも指数は下がっている。

前田局長は「企業向けサービス価格指数では、事務所賃貸において 品質劣化率を推計して2010年基準から指数に反映させている。15年の品 質劣化による事務所賃貸へのプラスのインパクトは全国で0.7%、地域 によっては1%強に達している」と指摘。

その上で、「仮にCPI家賃でも同程度の品質劣化が生じていると 仮定すると、家賃はCPI全体の2割近くのウエートを占めるので、 CPI全体を0.1ポイント以上、場合によっては0.2ポイントの寄与とな る。そもそも変動が大きくないCPIにおいて、インパクトは小さくな い」と述べた。

4月の家賃は0.3%低下

消費者物価では持ち家に住むことも家計消費とみなし、実際に支払 うことのない帰属家賃が民間家賃から推計されて加えられている。家賃 はコアCPIの2割を占め、全体に与える影響が大きいが、一貫してマ イナスで推移しており、4月は0.3%低下した。

日銀は10年前の基準改定の際の意見募集で、「家賃の品質変化、特 に建物の経年に伴う品質低下を指数に反映させることを検討してほし い」と要望したが、総務省は「今後の課題として検討したい」と述べる にとどめていた。

石田浩二審議委員は2月の講演で、「持ち家の帰属家賃は長期にわ たり下落基調を続けているが、今後もそうしたトレンドが続く場合、特 に財・サービスの価格が上昇率を高めていく局面では、物価全体に対す る大きな下押し要因になる」と述べた。

日銀は10年前に煮え湯

日銀には基準改定で煮え湯を飲まされた経験がある。06年3月、コ アCPI前年比が安定的にゼロ%を上回るという条件を満たしたとして 量的緩和政策を解除した。しかし、同年8月の基準改定で1月の前年比 が0.5%上昇から0.1%低下に改定されるなど、旧基準の指数が大きく下 方修正されたことで、解除は時期尚早だったという批判を浴びた。

前田局長は家賃の品質調整について、「ユーザーの利便性、統計精 度の向上という点で非常に重要な課題だと思うので、是非ご議論いただ きたい」と語った。前日銀副総裁で統計委員会の委員長を務める西村清 彦東大教授も「今ご指摘いただいた点は、私自身も非常に重要だと思 う」と賛同の意を表した。

しかし、総務省は今のところ腰が重い。同省の上田聖物価統計室長 は5月29日のインタビューで、借家家賃について「われわれは実際に住 んでいる人に対して家賃をいくら払っているかを調べているので、実際 に払っている金額を的確にとらえているという自負がある」と語った。

海外では、欧州連合(EU)の消費者物価指数(HICP)にはそ もそも持ち家の帰属家賃は含まれていない。帰属家賃を取り入れている 米国のCPIは経年劣化による品質調整をしているが、上田室長は同様 の手法を「そのままストレートにやりすぎると過剰調整になり、CPI を上げ過ぎてしまう恐れもあるので、慎重な議論が必要だ」という。

消費増税除くCPIの公表も

前田局長が家賃の品質調整のほか、もう1つ重要な検討事項として 挙げたのが消費増税の影響を除くCPIの作成だ。CPIは年金の支払 いなどにも利用されているが、総務省は昨年4月の消費増税の影響を除 くCPIの公表はしていない。CPI前年比で2%の物価目標を掲げて いる日銀が自ら、増税の影響を除くCPIの試算値を作成・公表した。

前田局長は「公的統計としてのニーズもかなり高い」とした上で、 「本来なら統計作成部局である総務省統計局に作成してもらうのが自然 ではないか」と指摘。「次の消費増税が17年4月に予定されているの で、16年夏予定の今回の改定を機に、消費税を除いたベースの指数作成 を実現していただければ」と要請した。

この日の統計委員会で、サービス統計・企業統計部会の委員に東大 日次物価指数を開発した渡辺努東大教授が新たに任命された。CPIの 基準改定に関する議論は今後、同部会を中心に行われる。渡辺教授は 「今回の改定で、家賃の品質調整の導入を提案することが委員としての 責任を果たす上で大事だ」と意気込みを示した。

(更新前の記事は第3段落の企業向けサービス価格指数に関する記述を 訂正済みです)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE