三菱商の劣後債は一石二鳥-自社株買いでROEアップ、財務も下支え

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安倍政権が企業に株主資本利益率(ROE) 重視の経営を促す中、三菱商事は自社株買いとともに劣後債の発行を発 表した。劣後債は普通社債よりも格付けへの影響は限られ、ROE向上 に向けた原資として需要が増えるとの見方がある。

発表文によると、劣後債は総額2000億円の3本建てで、いずれも60 年債。うち第3回債(400億円)は当初10年の利率が1.68%と最も高 い。格付け会社は「調達額の50%」を資本として認めている。三菱商は 5月8日、劣後債発行計画と合わせ上限1000億円の自社株買いを発表し た。BOAメリルリンチのデータでは、年限10年以上の国内社債の平均 利回りは1.16%。

安倍政権は成長戦略の一環として、機関投資家を通じてROEなど 企業価値の向上を迫るスチュワードシップコードを推進。米議決権行使 助言会社ISSもROEの低調な企業の経営トップ選任案に反対するよ う助言しており、その底上げに向け、自社株買いの動きが強まってい る。野村証券の調べでは、4~5月の自社株取得枠の設定はトヨタ自動 車の3000億円を含め約1兆5000億円と3年連続で増加した。

ジャパン・クレジット・アドバイザリーの大橋英敏社長は、ROE を気にかける企業が増加する中で、「レバレッジを増やすのが一つの手 段」と述べ、社債で調達すれば「社債市場の活性化につながる」と指 摘。投資家サイドから見ると、三菱商事なら劣後債でもシングルA以上 の格付けを維持でき、「劣後というだけでスプレッドがワイド。これは 人気がある」と語った。

劣後債の格付けは格付け投資情報センターがA、ムーディーズ・イ ンベスターズ・サービスがA3、スタンダード・アンド・プアーズがA -。三菱商によると、事業会社としては初の資本性のある公募劣後債で あり、ハイブリッド市場を見据えながら「継続的に取り組んでいく」と している。同社の財務担当者は、発行の狙いは財務健全性の下支えにあ るという。同社の3月末のROEは7.5%。

株主還元

今回の劣後債の主幹事である三菱UFJモルガン・スタンレー証券 の諏訪一デット・キャピタル・マーケット部長は、「ROEの向上には デットでファイナンスして投資をすればよいが、格付けが下がってしま う」とし、ROE向上と財務の健全性の維持の両立を図ったものと説 明。「同じような財務戦略を検討している企業は多い」と見ている。

ブルームバーグ・データによると、TOPIX構成銘柄の平均 ROEはリーマンショック翌年の09年に急落した後、回復傾向にある が、過去10年の平均は6%台。14年度にTOPIX500構成企業中、武 田薬品工業やソニー、任天堂を含む114社のROEが5%を下回った。 世界企業平均は12%台。

野村証の調べでは、14年度の日本企業の総還元額(自社株買いと配 当額の合計値)は12.8兆円と7年ぶりに過去最高を更新しており、15年 度も14.6兆円と2年連続で過去最高を更新する見通しだという。

ただ、BNPパリバの中空麻奈アナリストは、株主還元の強化は 「社債投資家の方からみると手放しでは喜べない」と話す。信用力向上 に向け「内部留保がたまったら、有利子負債をまず削減することが第一 だ」と指摘し、その次に「設備投資に充てて収益を上げて欲しい」と語 った。

投資家の期待

野村証のチーフクレジットストラテジスト、魚本敏宏氏らは22日付 のリポートで、三菱商の劣後債について「優良発行体にもかかわらず、 スプレッドには十分な厚みが確保されたクレジット商品として、高い魅 力がある」とし、継続発行に期待を示した。

ただ、劣後債の格付けは発行体よりも2段階程度低くなるため、同 リポートは「A格プラス以上の企業でなければ、劣後債はBBB格ゾー ン以下となり、投資家層も限定されてくる」と指摘。劣後債の発行は優 良企業に限定されるとの見通しを示した。

--取材協力:Ken McCallum、院去信太郎.

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