GPIFの日本国債売り・株買い目標間近か、「鯨」不在をデータ示唆

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世界最大規模の年金基金、年金積立金管理運 用独立行政法人(GPIF)が新たな資産構成の目標値に向けて進めて きた国内債券の残高圧縮と内外株式などの積み増しは最終段階に近づい た可能性がある。市場関係者は「クジラ」と呼ぶ巨大な運用機関の不在 に気づき始めている。

日本証券業協会の統計によると、GPIFなど年金基金の売買動向 を映す信託銀行は5月に利付国債を2192億円買い越した。4月までの7 カ月間は合計4兆9078億円の売り越しだった。東京証券取引所の統計で は日本株を3カ月続けて売り越しており、財務省の統計では5月の外国 株式・債券の買越額が1911億円と昨年7月以来の低水準となっている。

TOPIXは、GPIFが資産構成見直しを発表した昨年10月末以 降、26%上昇した。一方、長期金利の指標となる新発10年物国債利回り は日銀の巨額の国債買い入れ拡大を背景に今年1月に過去最低の0.195 %を記録したものの、現在は0.4%台と昨年10月末の水準に戻している 。

野村証券の池田雄之輔チーフ為替ストラテジストは、GPIFが資 産構成を変えた昨年10-12月期の売買ペースを「1月以降も続けていた なら、株高・円安効果もあって、4資産とも5月末には新たな目標値に かなり近づいている」とみる。日本株や円相場の基調は変わらないが、 GPIFと10月から運用を一元化する「3共済が本格的に動き出すまで 相場は若干の空白期間に入るかもしれない」と言う。

GPIFが抱える厚生年金と国民年金の運用資産は昨年末時点で 137兆円超に上る。同年10月末の資産構成見直しでは、国内債の目標値 を60%から35%に下げた一方、内外株はそれぞれ12%から25%に、外債 も11%から15%へ引き上げた。公務員や教職員の年金もGPIFに追随 する方針だ。

みずほ証券の辻宏樹マーケットアナリストは「公的年金勢の資産構 成見直しに伴う国債売りは一巡してきたようだ。需給面では金利上昇要 因の一つが剥落したことになる」と指摘。10年債利回りは日銀の巨額買 い入れが続く半面、米欧金利の上昇にも左右されるため「一概に低下す るのではなく、7-9月期は0.35-0.60%程度のレンジ相場になる」と 見込んでいる。

あと2%ポイント前後

GPIFの四半期運用状況によれば、年金特別会計も含めた積立金 全体に占める国内債の割合は昨年12月末時点で43.13%と比較可能な 2008年度以降で最低だった。一方、国内株は19.8%、外債は13.14%、 外株は19.64%と、同年9月末から増えた。

モルガン・スタンレーMUFG証券の株式統括本部でエグゼクティ ブ・ディレクターを務める岩尾洋平氏の推計によると、GPIFの資産 構成は先週末19日時点で国内債が約40.8%、国内株が23.2%、外債が

13.3%、外株が22.7%。内外株と外債はそれぞれの目標値まで2%ポイ ント前後に迫っている計算だ。

岩尾氏は、GPIFは日本株に投資する海外勢にとって「これまで 相場の支援要因となってきた」と指摘。他の公的年金は目標値からまだ かなり離れているため、引き続き需給面での支え手になるが、将来ひと たび資産構成の変更が終わってしまうと、外国人投資家の不安が徐々に 募っていくのではないかと述べた。

日証協の統計では、信託銀行による5月の利付国債買い越しは昨年 9月以来。国庫短期証券(TB)等も含めた国債全体では12月に統計で さかのぼれる04年以降で初めて1兆529億円売り越したが、5月の買越 額は1兆6162億円と10カ月ぶりの大きさとなった。

東証の統計によれば、信託銀行はGPIFが新たな資産構成を公表 してからの4カ月間で日本株を合計1兆6412億円買い越したが、3月か らの合計では5066億円売り越した。財務省の統計では、信託銀行による 外株等・外債の買越額は昨年8月から1兆円前後の月が多かったが、5 月は外株等が3866億円と10カ月ぶりの低水準となった。中長期債は過去 最大となる1955億円の売り越しだった。

みずほ証の推計によると、GPIFの保有資産に占める国内債の構 成比は、年明け以降に入れ替え目的の売買を全く実施しなかった場合で も株高・円安などの影響で、5月末には昨年末より2%程度低下したも ようだ。残高圧縮のペースを昨年10-12月期よりかなり鈍化させたとし ても、すでに40%割れまで下がっていてもおかしくないと言う。

「あと1-2年」と伊藤教授

公的年金制度は09年度以降、高齢化で膨張する給付額を保険料や税 金などで賄い切れず、GPIFの運用益や積立金の取り崩しに依存。デ フレ脱却を目指す安倍内閣が発足した公的・準公的資金の運用・リスク 管理等に関する有識者会議は13年11月の提言で、GPIFや3共済に将 来の金利上昇で評価損の恐れがある国内債への偏重見直しやリスク資産 の拡大による収益向上を求めた。

有識者会議の座長を務めた米コロンビア大学大学院の伊藤隆敏教授 は5日のインタビューで、GPIFの資産構成変更は「時間はかかるが 、順調に進んでいる」との見方を示した。「あと1-2年でベンチマー クの中心値に行くだろう」と述べた。伊藤教授は昨年10月のインタビュ ーで、新資産構成は国内債35%、内外株25%ずつが望ましく、オルタナ ティブ(代替)投資を5%程度で新設する可能性もあると発言し、的中 させた経緯がある。

BNPパリバ証券の藤木智久チーフ債券ストラテジストは「GPI Fからの売り圧力は今のところ、止まっているようだ」と指摘。資産の 売買は「目標値まで一気に進めることはせず、乖離(かいり)許容幅の 範囲内だが目標値には至らないどこかの水準にめどを付けて実施してき た」とみている。リスク資産の構成比を高める株高・円安もあり、当面 の移行は「3月末までに一巡し、様子見姿勢に転じたのかもしれない」 と言う。

GPIFは新たな資産構成目標値の乖離許容幅について、国内債を 従来の上下8%から同10%に、国内株を同6%から同9%、外株を同5 %から8%に拡大。外債は同5%から4%に縮小した。15-19年度の中 期計画では、投機的でなく確度が高い見通しに限るが、許容幅の中で「 機動的な運用ができる」としている。

野村証の池田氏は、「機動的な」という表現の解釈について、「リ スク資産が目標値を超えた場合に無理に機械的に売ったり、市場にそう いうメッセージが伝わってしまうのは良くない。相場に水を差すような ことはしたくないという意味だろう」と言い、「目標値から離れる方向 に積極的に売買していくわけではない」と説明した。

悪材料が剥落

GPIFの資産構成見直しには公務員や学校関係者らが加入する共 済年金が追随する。運用資産が合計で30兆円規模に上る主要3共済は10 月にGPIFと運用を一元化し、利回り目標やリスク許容度などを共有 する。3月には共同で策定した資産構成の枠組みを公表。うち国家公務 員共済組合連合会(KKR)は2月、地方公務員共済組合連合会は3月 に、自身の資産構成をGPIFと同水準の目標値に変更した。

国内債の構成比がGPIFより高い3共済が一元化で共有する目標 値に合わせる場合に必要な規模は、直近の公表資料を基にした概算で、 国内債が約8.5兆円の圧縮となる一方、国内株が約3.6兆円、外債が約

1.9兆円、外株が約3.9兆円にそれぞれ積み増しとなる見込みだ。共済年 金は他に地方自治体が独自に運用する各種年金も約21兆円あり、資産の 合計は約51兆円に上る。

このほか、企業年金連合会も昨年11月末に資産構成を変更。積立水 準が105-110%未満の場合、内外債券の目標値を従来の67%から55%に 下げ、内外株を33%から45%に増やした。債務の約77%を占める厚生年 金の代行部分に関する年金財政上のリスクを避けるため、GPIFと同 様の運用を行う。3月末時点の運用資産は12.5兆円。資産構成の割合は 国内債が41.6%、国内株が17.2%、外債が12.8%、外株が28.5%だった 。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊シニア債券ストラ テジストは「GPIFによる国債売りの一巡で、債券市場のネガティブ 材料が一つ減り、日銀の買い入れオペがより効果を発揮しやすくなる」 と分析。3共済が国債売りに動いても「影響は限定的」だとみる。BN Pパリバ証券の藤木氏は「3共済の本格的な売買はまだかもしれないが 、株安や円高になれば進めやすくなる」と読む。

日銀はGPIFの運用見直し公表日と同じ昨年10月末に発表した追 加緩和で、長期国債買い入れオペを月8兆-12兆円に増額した。年率換 算では入札を通じた政府の15年度市中発行額152.6兆円に対し、最大9 割超にも及ぶ。

GPIFや共済年金、年金特会などの「公的年金」の国債等の保有 額は昨年末に57兆円と、前の年に比べ16.6%減少した。発行残高1023兆 円に占める割合は5.6%だ。民間の年金基金は同残高の3.4%に当たる35 兆円を保有。最大の保有主体は1年前より4割も増やした日銀で、残高 の4分の1に当たる256兆円だった。

--取材協力:酒井大輔

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