「日本株式会社」の大株主である日本生命保 険。同社株式部の尾嶋浩史課長は「物言わない投資家の代表と思われて いるかもしれない」と言うが、本格的な総会シーズンを前に「議決権行 使で反対することに意味があれば反対する」との考えを明らかにした。

安倍政権が成長戦略の一環として、機関投資家を通じて企業に価値 向上を迫るスチュワードシップコード(SC)を推進する中、今年の総 会では株主の主張が一段と強まりそうだ。中でも大株主でありながら、 営業上の取引がある企業の経営に口を挟みづらい立場にあった保険会社 は、収益性や株主還元などを基準に従来よりも厳しい姿勢で臨む。

日生は約2割の上場企業で10位以内の大株主に名を連ねる。過去に も配当性向が極端に低い投資先企業に「ノー」を突きつけたことはある が、今年はSCなど政府の後押しを受けて、「企業との対話のしやすさ には格段の追い風が吹いているのは間違いない」と、尾嶋氏は話す。同 社は株主資本利益率(ROE)が「5年連続で5%を下回る企業」を中 心に総会議案を精査している。

第一生命保険も、出席率が半分に満たない社外取締役や社外監査役 の再任に反対するほか、配当余力が高いのに株主還元率が市場平均の半 分以下の企業では利益処分案に反対する可能性を表明。堤悟副社長は23 日の自社株主総会で、投資姿勢を問われると、株式アナリスト15人と新 設のSC専属チーム7人が投資先1700社について、「我々のニーズを伝 えたり、経営計画にアドバイスしている」と説明した。

アクティビスト戦略のファンドを運営するストラテジックキャピタ ルの丸木強代表は、生保を含む金融機関の態度は「ちょっと変わってき た」と評価。「大手生保が議決権行使基準を作ったわけだから、本当に その通りにやると株主と企業の関係はすごく変わると思う」と述べた。

ROE

投資家からカネを預かる資産運用会社も生保と事情は同じ。しんき んアセットマネジメント投信の藤原直樹運用部長は、「企業のカネの使 い道を重視しないと私たちが投資家に見捨てられる」と話す。

日本企業の課題は、資本効率性の低さ。ブルームバーグ・データに よると、TOPIX構成銘柄の平均ROEはリーマンショック翌年の09 年に急落した後、回復傾向にあるが、過去10年の平均は6%台。世界企 業平均の12%台の約半分だ。尾嶋氏によると、リーマンショックで資金 調達に苦しんだ経験から、日本企業は積極的に資本を積み上げてきたた め、ROEは海外よりも低いという。

議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダ ー・サービシーズ(ISS)は今年、ROEの低調な企業について、経 営トップ選任案に反対するよう助言している。

生命保険協会の渡邉光一郎会長は、ROEなどの収益性指標につい て、業種や個別企業の状況を勘案せずに一律に論じるのは無理があるも のの、「株主還元の一層の充実につながる視点なので重要」と話す。同 協会は3月、国内の機関投資家は中長期的に望ましいROEとして、経 済産業省がまとめた「伊藤レポート」の8%を上回る11.4%を求めてい るとの調査結果を公表した。

中長期的な視点

日生の尾嶋氏は「中長期で株式価値が上がることを重視している」 とし、「長期で見てメリットがあれば、配当よりも投資に回すのを認め る場合もある」と話す。短期で増配要求したり、「手元資金を全部吐き 出すような要求をしてすぐに売り抜けてしまう」ようなアクティビスト とは一線を画している。

また「総会で議案を作成して世の中に出す前に対話をしないと本当 は意味がない」と語り、日ごろから企業との対話を重視。会社議案への 反対は最終手段と位置付ける。

同社財務企画部の三井慶一担当課長は、「企業価値を上げるために 参考になるアプローチをしているファンドもある」と指摘。いろいろな 投資家がいれば、対話や議決権行使などの方針も違い、「市場の厚みが 増してくる」と述べた。

企業の変化

SCに加えて、上場企業に収益力や資本効率の目標を提示させるコ ーポレートガバナンスコードが1日から適用されたこともあり、企業側 の対応にも変化が見られる。日生では3-4月にかけて企業が総会の議 案作成で相談に来る動きが目立ったという。

しんきんアセット投信の藤原氏は、「今までは安定株主がいたので ROEとかうるさいことを言っても、企業は関係ないや、という感じだ った」と振り返る。近年は株式持ち合いの解消が進み、「投資家の声に 応えないと議案が否決されるような状況になってきた」と見ている。

野村証券によると、上場企業と保険会社が保有する他の上場企業の 株式は、88年には市場全体の時価総額の50%を上回っていたが、13年度 は約16%となっている。

生保協の最新調査(14年度)によると、重視する経営目標として ROEを挙げた企業は全体の59.1%と、前年度に比べ6.8ポイント上昇 した。一方、93%の投資家がROEの重視を要望しており、投資家と企 業の意識のかい離は依然大きい。

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