黒田総裁の物価マインド戦略、消費者に浸透中-長期金利は上振れも

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日本銀行の黒田東彦総裁が示す2%の物価安 定目標の達成に対する強気の姿勢は、消費者の意識にも浸透しつつあ る。市場関係者からは、先行きの物価上振れの可能性を背景に長期金利 の上昇の可能性を指摘する声も聞かれる。

内閣府が9日に発表した5月の消費動向調査によると、一般世帯の 1年後の物価見通しは、「2%以上5%未満の上昇」が全体の4割程度 と、「2%未満の上昇」の2割程度を上回っている。また、4分の1強 が「5%以上の上昇」を見込む。10年物の固定利付国債と物価連動債の 利回り格差(BEI、ブレーク・イーブン・インフレ率)が示す予想イ ンフレ率は1%近辺と、年初の0.7%台から上振れている。

長期金利の指標となる10年物国債利回りは年初に付けた過去最低の

0.195%を底に上昇基調を強めており、4-6月は2011年1-3月以降 で初めて2四半期連続の上昇となる勢いだ。原油相場は3月に1バレル =40ドル台まで下落していたが60ドル付近まで持ち直し、16年度前半ま での物価目標達成を見通す黒田総裁にとって追い風となっている。

モルガン・スタンレーMUFG証券の河野研郎チーフ債券ストラテ ジストは、黒田総裁について、「インフレに対して自信を持っていると 思う」と指摘。市場は「インフレ率が低位安定から上がるかもしれない との見方に変わるとみている」とし、年末に10年債利回りが0.75%に上 昇する可能性があり、1%への上振れもあり得ると言う。

ブルームバーグがまとめた経済予測調査によると、消費者物価指数 (生鮮食品を除くコアCPI)の上昇率予想(中央値)は、16年4-6 月末に前年比1.0%上昇、7-9月末に1.2%上昇となっている。実際の コアCPIは4月に0.3%上昇となり、消費増税の影響を除くベースで は2カ月ぶりにゼロ%となった。

大和総研経済調査部の近藤智也シニアエコノミストは、「生活者が 実感するモノの値段は、上がってきている」とし、「元をたどれば、金 融緩和や消費税率の引き上げなど様々な政策対応の結果だと思う」と分 析。「実際のCPI統計ではデフレ脱却ができていないが、デフレ認識 が多少払拭(ふっしょく)されていることは、消費動向調査から観察さ れる」と話した。

インフレ見通しを裏付け

黒田総裁は10日の衆院財務金融委員会で実質実効為替レートが「さ らに円安に振れていくことはありそうにない」と述べた。外国為替市場 では、総裁発言をきっかけに要人からの円安けん制を警戒する雰囲気が 一時広がったが、ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフエコノ ミストは、インフレ見通しを裏付けるものだと指摘した。

馬場氏は、「今後、日銀が物価を十分に上昇させ、外国とのギャッ プを縮めることができれば、名目為替レートが不変であっても実質実効 レートは円高化する」とし、「総裁の発言は、日銀はCPI上昇を見込 んでいるので、実質実効円レートが今後大幅に低下するとは考えにくい と解釈できる」と説明した。

日銀は19日の金融政策決定会合後で政策方針を現状のまま据え置い た。黒田総裁は会合後の記者会見で、物価が2%程度に達するのは16年 度前半ごろになるとの姿勢をあらためて明示。また、金融政策は為替の 水準や変動を目標にしていないと前置きした上で 「いま円安になった ら日本経済に大きなマイナスということはない」との認識を示した。

日銀の物価目標達成に関して、市場では引き続き懐疑的な見方が根 強い。ブルームバーグが今月実施したエコノミスト調査では、16年度前 半ごろにコアCPIが前年比2%程度に達するとの日銀の見通しが実現 するかとの質問に対し、回答者32人中30人が「いいえ」と答えた。追加 緩和に関しては、回答者35人中13人がなしと答え、前回調査の10人から 増加した。

みずほ証券の末広徹マーケットエコノミストは、市場は追加緩和が ないという見方に傾いており、「債券にとってはネガティブ」としなが らも、今の超緩和的な状況は終わらないと指摘。「多少追加緩和期待が 後退したとしてもすぐに債券が売られて金利が上がるということでもな い」とみる。

賃金上昇傾向が鮮明

賃金上昇が消費者のマインドを改善させている面もある。厚生労働 省が発表した4月の毎月勤労統計によると、残業手当などの超過労働給 与を除いた所定内給与は前年比0.4%増と、2カ月連続で増加した。

農林中金総合研究所の南武志主席研究員は、「労働需給が逼迫(ひ っぱく)しかかっているというのが大きい」とし、「そういう面からの 賃上げ圧力は日銀は期待しているだろう」と指摘。「実際パートタイム の労働者の時間あたり賃金はここ数カ月急激に上がりはじめているので 、これから先そういったものが強まる可能性は十分ある」とし、コアC PIの伸び率が今年末に0.4%、来年3月末には0.7%まで加速すると見 込む。

日銀が4月に発表した四半期に1度の生活意識に関するアンケート 調査では、1年前に比べ物価が何%変化したか聞いたところ、平均値( 極端な値を排除するため上下0.5%を除いて計算)は5.6%上昇と前回調 査時の5.3%から加速した。

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