黒田発言後に日銀の早期緩和期待が総崩れ、年内も半数割れ-サーベイ

日本銀行の早期緩和期待が急速に萎んでい る。7月の緩和予想はごく少数となり、年内の緩和予想も半数割れまで 減少。「追加緩和なし」を予想するエコノミストが増えている。

ブルームバーグが8-15日にエコノミスト35人を対象に実施した調 査によると、7月の緩和予想は2人(5.7%)と前回調査(25.0%)か ら激減。10月の緩和予想は14人(40.0%)と引き続き最多回答となった が、年内の緩和予想は17人(48.6%)と前回(61.6%)から減少した。 「緩和なし」は13人(37.1%)と前回(27.8%)から増加した。

黒田東彦総裁は10日の衆院財務金融委員会で、為替相場について「 実質実効為替レートでみると円安になっているのは事実」と指摘。「こ こからさらに円安はありそうにない」との認識を示した。これを受けて 円買いが膨らみ、それまで124円台半ばで推移していた円ドル相場は直 後に一時1ドル=122円台まで円高が進んだ。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の嶋中雄二所 長は、現状のゼロインフレから出発し、16年度前半の2%達成のために は「可能な限り早目に追加緩和するべきだ」としながらも、日銀は「こ うした『べき』論に耳を貸さず、目先の需給ギャップ改善に注意を集中 しており、少なくとも7月での追加緩和の実現は不可能だ」という。

嶋中氏は「7月緩和」予想を撤回した上で、「実際に追加緩和があ るとすれば、米国利上げに絡んで、10月に株式相場が不安定化した場合 だろう」とみる。

追加緩和の蓋然性は低下か

SMBCフレンド証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは 「5月下旬以降のドル円の新たなステージが定着できるのであれば、追 加緩和なしで乗り切れる可能性が高まったように思う」と指摘。

「これまでも、積極的に追加緩和というよりも、あるとすれば正念 場は10月30日と考えていた。今回、メインは追加緩和なし、リスクシナ リオは外部環境の変化があった場合で10月30日という位置付けを明確に した」という。

「来年1月」緩和予想から「緩和なし」に転じたSMBC日興証券 の森田長太郎チーフ金利ストラテジストは「景気が回復方向にあり、こ れ以上の大幅な円安を日本政府、米国政府とも望まなくなっている状況 では、追加緩和の蓋然(がいぜん)性は低下している」と指摘する。

「緩和なし」予想を維持した野村証券の松沢中チーフストラテジス トは「黒田総裁の円安けん制発言は、少なくとも口が滑った訳ではな く、むしろ円安スピードの抑制という点で政府要人の発言とも平仄が合 っている」と指摘。

その上で、「金融政策へのインプリケーションをどこまで内包した かはまだ不透明だが、もともと追加緩和からは距離を置いている。会合 でも火消し的な(債券フレンドリーな)発言は期待しない方が良いだろ う。日銀自身からこの路線で追加的な言動はなくとも、市場の緩和期待 が低下してくるだろう」とみる。

緩和見送りで期待インフレ低下も

一方、引き続き「7月緩和」予想を維持する伊藤忠経済研究所の武 田淳主任研究員は「景気は1-3月こそ予想以上の高成長となったもの の、4月以降はもたつき気味であり、予断を許さない状況にある」と指 摘。

そうした中で、「黒田発言をきっかけに円高に振れたドル円相場に おいて、米国の利上げ時期の後退観測や日本の経常黒字拡大などを材料 に円高が進み、株価も下落すれば、展望リポートの中間評価を求められ る7月にも追加緩和を迫られる可能性が高い」としている。

もう1人、「7月緩和」を予想する三菱UFJリサーチ&コンサル ティングの小林真一郎シニアエコノミストは「コアCPIがマイナスに 陥る可能性が出ている中で、物価下落を放置すれば、日銀自らインフレ 期待を消滅させることになりかねない。従来の主張を維持し、量的・質 的緩和の効果を持続させるためには追加緩和が必要」としている。

日銀ウオッチャーを対象にしたアンケート調査の項目は、1)今会 合の金融政策予想、2)追加緩和時期と手段や量的・質的金融緩和の縮 小時期および「2年で2%物価目標」実現の可能性、3)日銀当座預金 の超過準備に対する付利金利(現在0.1%)予想、4)コメント-。

1)日銀はいつ追加緩和に踏み切るか?            
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調査機関数                                                        35   100%
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                                           6月                     0   0.0%
                                           7月                     2   5.7%
                                           8月                     0   0.0%
                                           9月                     0   0.0%
                                       10月7日                     0   0.0%
                                      10月30日                    14  40.0%
                                          11月                     0   0.0%
                                          12月                     1   2.9%
                                     2016年1月                     2   5.7%
                                    2016年2月                     0   0.0%
                                    2016年3月                     1   2.9%
                                 2016年4月以降                     2   5.7%
                                  追加緩和なし                    13  37.1%

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2)追加緩和の具体的な手段                     
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マネタリーベースの増加ペースの引き上げ                            15
長期国債の買い入れペースの引き上げ                                13
ETFの買い入れペースの引き上げ                                     16
J-REITの買い入れペースの引き上げ                                   8
付利の引き下げ                                                    8
の他                                                               7

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3)日銀は生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI)前年比が2%程度
に達するのは「2016年度前半ごろ」としてますが、この見通しは実現し
ますか。                                      
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調査機関数                                                        32
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                                         はい                      2
                                        いいえ                    30

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4)日銀が2%の「物価安定の目標」が安定的に持続すると判断し、
量的・質的金融緩和の縮小を開始する時期はいつ? 
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調査機関数                                                        34
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                                    2015年上期                     0   0.0%
                                    2015年下期                     0   0.0%
                                    2016年上期                     2   5.9%
                                    2016年下期                     2   5.9%
                                    2017年上期                     2   5.9%
                                    2017年下期                     3   8.8%
                                    2018年以降                    14  41.2%
                                      見通せず                    11  32.4%

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5)日銀の白井、原田両審議委員はここまでの円安は日本経済にネットでプラスの影響を
与えるという見方を示しました。125円の円安は日本経済にネットでプラスとお考えですか。
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調査機関数                                                          30     
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はい                                                                20     
いいえ                                                              10     
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6)政府は月内に財政健全化計画を公表する予定ですが、同計画により日銀の出口戦略は、
どう思いますか?                               
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調査機関数                                                          34     
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1)より容易になる                                                  4      
2)より困難になる                                                  13     
3)影響は受けない                                                   17     
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問1に対しての回答の詳細                       
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                                                                前回       今回    
メリルリンチ証券、吉川雅幸                             10月30日            12月    
バークレイズ証券、森田京平                             7月                 2016年4月以降
BNPパリバ証券、河野龍太郎                              追加緩和なし        追加緩和なし
キャピタルエコノミクス、Marcel Thieliant                         7月                 10月30日
シティグループ証券、村嶋帰一                           7月                 -       
クレディ・アグリコル証券、尾形和彦                             2016年1月           2016年1月
クレディ・スイス証券、白川浩道                         10月30日            2016年4月以降
第一生命経済研究所、熊野英生                           10月30日            10月30日
大和総研、熊谷亮丸                                     10月30日            10月30日
大和証券、野口麻衣子                                   追加緩和なし        追加緩和なし
ゴールドマン・サックス証券、馬場直彦                            10月30日            10月30日
HSBCホールディングス、デバリエ・いづみ                       10月30日            10月30日
伊藤忠経済研究所、武田淳                               7月                 7月     
ジャパンマクロアドバイザーズ、大久保琢史                       追加緩和なし        追加緩和なし
日本総合研究所、山田久                                 追加緩和なし        追加緩和なし
JPモルガン証券、菅野雅明                               2016年1月           2016年1月
明治安田生命保険、小玉祐一                             11月                10月30日
三菱UFJモルガンスタンレー証券、六車治美                        10月30日            10月30日
三菱UFJモルガンスタンレー景気循環、景気循環研 嶋中雄二         7月                 追加緩和なし
三菱UFJリサーチコンサルティング、小林真一郎                       7月                 7月     
みずほ銀行 、唐鎌大輔                                  10月30日            10月30日
みずほ総合研究所、高田創                               10月30日            2016年3月
みずほ証券、上野泰也                                   10月30日            10月30日
ニッセイ基礎研究所、矢嶋康次                           7月                 10月30日
野村証券、松沢中                                       追加緩和なし        追加緩和なし
農林中金総合研究所、南武志                             追加緩和なし        追加緩和なし
岡三証券、鈴木誠                                       追加緩和なし        追加緩和なし
スタンダードチャータード銀行、Betty Wang               7月                 10月30日
信州大学、真壁昭夫                                     6月                 10月30日
三井住友銀行、西岡純子                                 追加緩和なし        -       
SMBCフレンド証券、岩下真理                             -                   追加緩和なし
SMBC日興証券、森田長太郎                               2016年1月           追加緩和なし
ソシエテジェネラル証券、会田卓司                       10月30日            10月30日
三井住友アセットマネジメント、武藤弘明                          追加緩和なし        追加緩和なし
東海東京証券、佐野一彦                                 追加緩和なし        追加緩和なし
東短リサーチ、加藤出                                   2016年4月以降       追加緩和なし
UBS証券、青木大樹                                      7月                 10月30日
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