ホンダ:八郷新社長登板、課題山積-調和型で心機一転の期待

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主力車の相次ぐリコールやタカタ製エアバッ グ問題など品質問題に見舞われたホンダでは、八郷隆弘氏が17日の株主 総会を経て新社長に昇格、山積する課題に取り組む。

新たに就任する八郷氏は、部品調達の購買部門に長く従事したほ か、主力市場の米国、欧州や中国の現地法人で勤務経験がある。歴代社 長は技術分野出身で、研究開発部門の本田技術研究所の社長を経るのが 恒例だったが、八郷氏は研究所社長の経験がない。前任の伊東孝紳社長 とはまったく違ったタイプのトップとなる。

伊東氏は金融危機で業績が悪化した2009年にホンダ社長に就任、11 年には東日本大震災やタイで洪水による工場浸水に遭遇する中、ホンダ の再生を推し進めてきた。しかし、任期後半には品質問題も続出し、同 業他社に比べ収益が伸び悩んでいた。

昨年のホンダで相次いだリコールの遠因には社内コミュニケーショ ン不足を指摘する声もあった。伊東氏は2月、中期経営計画で世界販 売600万台の目標を掲げたことで「開発現場に相当負荷がかかったこと は認識している」と述べ、目標台数が「社内のコミットではないつもり だったが、現場はそうは受け止めていなかった」と振り返っていた。

池史彦会長は、車両構成部品の約8割が部品メーカーから来ている とした上で、八郷氏が購買部門に明るいと指摘。海外勤務の経験もある ことから、「こうした経験が全部つながってコミュニケーションが良く なる」と期待を示した。

一方、アドバンストリサーチジャパンの遠藤功治アナリストは、課 題山積の中、リーダーシップより調和を重んじるトップ誕生に疑問を呈 する。特に世界の自動車メーカーが次世代環境対応車の開発にしのぎを 削っており、研究所トップの経験がない八郷氏がどこまで開発陣を引っ 張っていけるのかが課題とみている。

力量を試される

遠藤氏は「創業時の本田宗一郎の時代から、ホンダはトップがエン ジニアで独創的な技術の開発を進め、それをナンバー2である金融、経 営のプロが支える形をとってきた」という。歴代社長が開発部門トップ から就任していたのは研究所と本社をコントロールできる力量が必要と されていたためで、八郷氏が今後2、3年の開発・販売戦略をどのよう に構築していくかが最初の課題になるだろうとみている。

ホンダが今年2月に開催した社長交代の発表会見で、伊東氏と八郷 氏は対照的だった。6年間を振り返りながら進めてきた戦略や思い出を 快活に語る伊東氏に対し、八郷氏は「伊東社長の進めてきた世界6極体 制を進化させることが私の役割」と控えめな発言に終始した。八郷氏は これまでメディアへの登場や、投資家やアナリストとの接点もほとんど なかった。

協調・調整

柔らかな語り口で、目立たない印象の八郷氏だが、社内では「協 調、調整がうまい」との評価がある。3月まで広報担当だった安藤明美 氏は約7年前の部長クラス会議の出来事が印象的だったと語る。広報担 当になったばかりで広報方針を示せなかった安藤氏に対し、出席者が苛 立ち議題がおろそかになってしまったことがある。すると八郷氏は控え めに出席者をなだめ、具体策を探りましょうと建設的な話し合いに戻し たという。

13、14年の中国在勤中に、八郷氏は車両の現地開発・生産に向けて サプライヤー戦略などに関わっていた。現地法人広報担当の浅沼なつの 氏は、八郷氏が中国に残した成果は開発と、調達・生産の部門の関係を 深めたことだと電話取材に語った。

対照的に伊東氏は豪快な人柄だった。軽自動車の大幅刷新や生産移 管など自らの構想を研究所に伝え、迅速に実現したのも伊東氏だからで きたことだと遠藤氏は語る。大型バイクが愛車で、ブルームバーグがイ ンタビューした12年1月、手首にギブス姿で現れ、レース仕様のバイク で転んだと笑いながら明かしていた。

自動車調査会社カノラマの宮尾健アナリストは、金融危機からの立 ち直りには伊東氏の強力なリーダーシップが必要だったが、今後のグロ ーバル自動車メーカーの戦略をけん引していくには違った人材で変化を 図るという姿勢がみて取れると述べた。具体的には調達を含めた世界規 模での調整や協調が新社長に求められるだろうとしている。

品質問題が足かせ

立花証券アナリストの林健太郎氏は、ホンダに「日本の家電メーカ ーと同じ轍を踏まないようにしてほしい」と述べた。日本の家電メーカ ーが衰退した要因の一つに、内部登用のトップがしがらみの多い内側の 論理で運営し、取捨選択などの英断ができなかったことがあるとよく言 われているいう。

主力車で13年9月に発売した新型「フィット」をめぐり、ホンダは 昨年10月に5度目のリコールに踏み切った。発売後の約1年間に制御関 連の不具合が続出し、リコールは「ヴェゼル」でも相次いだ。こうした 品質問題が新車投入の遅れにつながり、販売の伸び悩みや関連コストの 増大で収益の足かせとなった。社長をはじめとする役員は、顧客に迷惑 をかけた責任を重く受け止めて報酬を一部返上した。

前期(15年3月期)の1年間の株価上昇率を比較すると、トヨタの 約44%、日産自動車の約33%に対し、ホンダは7.4%にとどまった。

タカタ問題

ホンダが4月に公表した今期(16年3月期)純利益は5250億円の見 通しで、前期比では微増。販売管理費の増大などが足かせとなってい る。タカタ製エアバッグ問題では、米国でリコール対象車が従来のほぼ 2倍の約3400万台に拡大するなど、部品交換の対応に追われる中、根本 的な原因の究明がまだ続いている。

池会長は八郷氏の社長抜擢について「社内の雰囲気も変わるだろう し、変えたいという意思が伊東にはあったと思う。彼なりに良い答えを 出したと思う」と述べ、心機一転に期待を示した。

調査会社オートパシフィックの業界アナリストのエド・キム氏は、 八郷氏の進路には大きな課題があると指摘。「リーダーシップをより控 えた形で仕事を進め、ホンダが直面している問題を迅速で効率的に解決 して、手腕を発揮していかなければならないだろう」と指摘した。

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