【FRBウオッチ】市場が代行する「最終利上げ」、景気の山接近

金融市場は米国の雇用統計を中心に回ってい るように見える。雇用統計は金融市場の太陽と言っても過言ではないか もしれない。雲がかかって数字が放つ光が弱くなると、利上げ時期の予 測が後ずれし、晴れてくると市場参加者の気分も明るくなり、利上げ時 期の予測が前倒しされる。

6月5日に発表された5月の雇用統計では、ヘッドラインとなる非 農業部門の雇用者数が28万人増加した。4月の22万1000人増、市場予想 の22万6000人増を上回ったことから米連邦公開市場委員会(FOMC) による初回利上げの予測時期が前倒しされ、債券利回りは急上昇。ドル 相場も大きく上昇した。なかなか動かないFOMCを尻目に、市場がデ ータを見ながら金融引き締めを代行しているようなものだ。

これはFOMCメンバーが「利上げはデータ次第」という姿勢を市 場に示し続けているためだ。特に連銀法に規定される責務の一つである 「最大限の雇用確保」の達成を見極めるため、市場は雇用統計に注目し ている。

「最大限の雇用確保」が連銀法に追加されたのは1977年だった。当 時はインフレと景気後退を併発するスタグフレーションの時代であり、 連邦議会はFOMCに対して「最大限の雇用確保」と「物価の安定」の 達成を義務付けた。つまり、インフレを招かないぎりぎりのところまで 雇用を拡大せよということだ。

しかし、いまやインフレよりデフレの不安が高まりやすい環境にな ってきた。勢い最大限の雇用確保のために超金融緩和を続けても、イン フレは招きにくい。FOMCが物価安定の目標とする個人消費支出 (PCE)の価格指数は、4月に前年比0.1%上昇と目標の2%上昇を 大きく下回り、マイナス圏入り寸前で踏みとどまっている格好だ。

市場とFOMCの分析にギャップ

さらに見逃せないのは、米経済の構造劣化で雇用創出能力が減退し てきたことである。市場はこうした経済の構造変化を考慮に入れず、毎 月発表される雇用統計の増減にもっぱら焦点を絞って反応している。

ここで、雇用統計ばかりではなく、より幅広く分析している FOMCメンバーとの間で齟齬(そご)が生じることになるわけだ。

例えば雇用統計の非農業部門の雇用者の増減は、毎月の全雇用創出 から自発的離職者と解雇者を差し引いたネットの数値である。雇用創出 がたとえ減少しても、自発的離職者と解雇の合計であるセパレーション がさらに大きく減少すれば、ネットの雇用者数は増加する。4月はまさ にこのことが発生していた。

イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長がたびたび言及する求 人・労働移動調査(JOLT)を見ると、政策当局が利上げに慎重にな る理由が浮かび上がってくる。JOLTは当該月の月末までを調査対象 とするため、毎月12日を含む週を調査対象期間とする雇用統計より発表 が1カ月遅れるが、トレンドを把握する上で貴重な手掛かりを提供して くれる。

低下する雇用創出力

労働省が9日に公表した4月のJOLTを見ると、同月の全雇用創 出(季節調整済み)は500万7000人で、3月の508万8000人から8万1000 人減少していた。

一方、4月のセパレーションは前月から18万4000人も減っている。 内訳は自発的離職者が266万9000人と、前月の276万9000人からちょう ど10万人減少した。米国では定期昇給制度が一般化していないため、景 気が良くなると給与の引き上げを求めて自発的離職者が増える。その減 少は景気減速を映し出している。

解雇は181万7000人で、前月から7万7000人減少した。これは表面 的には明るいニュースだが、3月に前月比で20万6000人も増えた反動の 要素が大きい。実際、解雇者数は2013年10月の152万6000人でボトムア ウトしている。なお、セパレーションではその他項目が8000人減少し た。

さらに、FOMCメンバーを慎重にさせているとみられる要因は、 JOLTの集計が開始された2000年12月からの推移を見ると雇用創出 が2001年1月の580万1000人でピークを付けていることである。米国の 雇用創出能力は21世紀に入って確実に低下に向かっているのである。今 回の景気拡大局面では2014年12月の523万9000人でピークアウトした可 能性がある。

「最終利上げ」も市場が代行か

雇用創出のピークアウトは景気循環の山の接近を示唆している。こ のピークはバックミラーでしか確認できないが、それを裏付けるデータ は既に相当数に上っている。そもそも雇用統計の毎月のネットの変化を みれば、その兆しがうかがえる。このように「データ次第」とは新しい データばかりではない。過去のデータも振り返る必要がある。

雇用者数の伸びは、昨年11月に記録した42万3000人増が今回の景気 拡大局面のピークを形成している。2010年5月に51万8000人急増してい るが、これは10年に一度の国勢調査に伴う連邦政府の一時雇用が影響し たもので除外した。

景気の山の確認は事後になってしまうが、市場による代理引き締め が今回の景気循環に大きな影響を与えていることは間違いないだろう。 FOMCは「データ次第」というガイダンスを市場に送り続けることに より、年内に絶好の初回利上げの機会が訪れるというシナリオを描いて いる。しかし、市場は既に「最終利上げ」の仕上げにかかっているのか もしれない。

(【FRBウオッチ】は記者個人の見解です)

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