ソフトロボットの開発進む、人に優しく力持ち-利用拡大見込む

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まるでライオン調教師のように、ケビン・ア ルバート氏は自分の頭をロボットの4本指の中に突っ込んでみせた。開 発したソフトロボットの安全性を示すためで、31歳のエンジニアは引っ かき傷一つなく無事に出てきた。

アルバート氏はサンフランシスコに本拠を置くロボットベンチャー 企業、ニューボティクスの共同創業者だ。従来型ロボットの素材である 金属やモーターを布や空気ポンプに置き換えることでより安全なロボッ ト作りを目指している。1年ほどで人に優しいインフレータブル(空気 注入式)ロボットを完成させることができるという。

産業用ロボットは、米ゼネラル・モーターズ(GM)が1961年に自 動車生産ラインに初導入してから急速に普及した。ロボットの作業速度 は高まり、力は強くなったが、危険な作業機械という位置付けに変わり はない。安全性が高まれば、倉庫業や建設、農業といった分野でも生産 性は高まる可能性がある。

「私たちがやろうとしていることはロボットの活用領域を広めるこ とだ」とアルバート氏は述べた。もう一人の共同創業者、サウル・グリ フィス氏(41)は、インフレータブルロボットなら安全になるだけでな く、もっと安く、強くすることができると話す。

アルバート氏は起業する前はロボットメーカーのボストン・ダイナ ミクスに勤務、4本足ロボット「ビッグドッグ」の開発に携わった。そ の後同社はグーグルに買収されている。

ニューボティクスのオフィスはサンフランシスコにある元パイプオ ルガン工場で、ロボット工場というよりもソフトウエア関連のスタート アップ企業といった雰囲気だ。ロボットの周囲に安全柵はない。

象の鼻

4本指に続いてアルバート氏が見せたのは触手のようなロボットだ った。「象の鼻」とニックネームが付けられたロボットは、浮き輪に空 気を入れるような音をたてながらアルバート氏の体に巻きついた。この ロボットには関節も骨組みもない。厚手のナイロン布で出来ていて、主 軸となる部分は多くの袋で覆われている。そこが膨らんだり縮んだりし て曲げ伸ばしする。

「物を持ち上げたり本当に役立つロボットがほしいなら、それは強 くなくてはならない」とCLSAアジア・パシフィック・マーケッツで ファナックを担当しているモルテン・ポールセン日本部長は言う。そし て「ロボットが強くなれば、どうしても危険になる」とも話す。

硬い素材で出来ている従来型のロボットが稼働するには、周囲に障 害物のない空間が必要だが、インフレータブルロボットなら周囲の環境 に順応することができる。ロボットの強さを犠牲にすることもない。象 の鼻をオフィスの鉄製の柱に巻きつけてねじったり、ひねったりしても 鼻は元の形に戻った。

ムーアの法則

これまでロボット導入が一部産業に限られたこともあり、労働生産 性改善にばらつきが見られた。米労働省統計局によると、2010年まで20 年間に同国製造業の労働生産性は2倍以上高まったが、時間当たりの生 産の伸びは輸送業と倉庫業で約35%にとどまり、サービス業で22%、建 設業では伸び率がマイナスとなった。いずれも、ロボットに作業をさせ るのは危険すぎると考えられてきた業種だ。

柔らかな素材は、コンピューターの能力を活用する面でも優れてい る。インフレータブルロボットは気体力学と素材の張力を毎秒1000回の スピードで計算するアルゴリズムによってコントロールされている。ム ーアの法則で集積回路の性能が指数関数的に高まっていることの恩恵を 受けている。

「硬い機械の動力に関する部分は力を生み出すところであって、情 報を生み出す部分ではないので、ムーアの法則の恩恵を受けることはな い」と話すのはカーネギーメロン大学のクリストファー・アトケソン教 授(ロボット工学)だ。同教授のインフレータブルロボットのヘルスケ ア分野への応用研究がディズニー映画「ベイマックス」のヒントになっ たとされる。

たわいない動機

グリフィス氏がロボット事業に入ったきっかけは、たわいない動機 からだった。当時6歳の姪にクリスマスプレゼントとして大きな象の風 船を贈ったものの飽きられてしまい、これを歩かせてみようとあれこれ 考えたのだという。象の膝の周りの空気ポケットを膨らませたりしぼま せるプログラムを書き、モーターやシャフトなしで象を歩行させること に成功したのだった。

喜んだのは姪だけではなかった。米国防総省高等研究計画局( DARPA)からも研究費を受けることになった。グリフィス氏はその 資金で6本足の怪獣のような乗り物を製作した。大人2人を運ぶことが できる。

次の課題は商業的に有用な仕事をこなすロボットを作ることだ。ア ルバート氏によると、ニューボティクスは流通や建設、医療の現場で物 を持ち上げる作業をする廉価なロボットを早ければ1年後に提供する計 画という。

「電気機械式ロボットが現状より2倍進化したとしても、それで十 分ではないだろう。しかもどうやって2倍進化させるかが分かっていな い。ゲームを変えるような根本的な変化が必要だ」とグリフィス氏は語 った。

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