原田日銀委員:円高は修正、「かなりいいところ」に来た可能性

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日本銀行の原田泰審議委員は4日のブルーム バーグのインタビューで、過去数年にわたり日本の製造業を苦しめてき た過度の円高は修正されたとの見方を示した。

原田氏は宮尾龍蔵氏の後任として3月に審議委員に就任した。就任 後、報道機関のインタビューに応じるのは今回が初めて。原田氏は異常 な円高は修正されたとの見方を示した上で、現状の為替円安について 「いろんな産業が競争力を取り戻しているところを見ると、かなりいい ところまできたのかもしれない」と述べた。

原田氏の発言は、日本の政策当局がこれ以上の円安を望んでいない との見方を裏付ける証左と言える。円の対ドル相場は2011年に1ドル =75円35銭の戦後最高値を付けた後、黒田東彦総裁率いる日銀の異次元 緩和により40%下落。07年に始まった世界金融危機以前の水準に戻して いる。

原田氏は物価上昇率が2%に達するのは「16年度前半ごろ」という 日銀の見通しについては、「経済にはいろいろなことが起こるので、実 際には後ずれすることはあり得る」と述べた。ただし、失業率や需給ギ ャップが改善を続け、物価を上げる方向に向かっている限り、たとえ達 成時期が後ずれしても追加緩和は必要ないとの見解を示した。

原田氏の発言を受けて、それまで124円40銭近辺で推移していた円 相場は円高方向に振れ、一時123円98銭を付けた。午後5時現在、124円 台前半で取引されている。

近い将来、追加緩和はない

クレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは原田氏 の発言について、ブルームバーグの電話取材に対し「日銀が近い将来、 追加緩和は必要ないとみていることを示している」と指摘。「政府は家 計や中小企業に対する円安の副作用を気にし始めており、日銀もそれを 無視することはできないだろう」と述べた。

原田氏は02年のインタビューで「700兆円近い国と地方の長期債務 残高があるが、日銀がそれを全部買ったらどうなるか。必ずインフレに なる。途中で止めれば、ちょうど良いインフレになる」と指摘。13年に は岩田規久男副総裁と浜田宏一内閣官房参与と共著で「リフレが日本経 済を復活させる」(中央経済社)を出版している。

円安は日本経済にプラス

原田氏は「一般論として言えば、円安は輸出企業の収益改善、輸出 増、雇用増をもたらし日本経済にプラスだ。輸入品と競合する国内産業 にもプラス効果がある。観光産業も価格競争力は高くなるので、雇用が 増える」と指摘。「輸入物価の上昇が消費者心理を引き下げるという議 論があるが、全体としてみればプラスの方が大きい」と述べた。

さらに、「プラスの効果は雇用の拡大を通じて出てくる。もし雇用 が伸びない状況で無理に円安にすれば物価だけが上がることになるので 良くないが、今の状況でみれば、輸出産業などで雇用が増えているの で、プラスの方が大きい」としている。

一方、米国が利上げに踏み切った場合の影響については「投資家は 日本の緩和はこのまま続く可能性が高い一方で、米国は金利を上げる可 能性が高いと分かっており、それを先取りして円安になっている」と指 摘。既に織り込み済みであり、「米国が実際に上げても、必ずしもさら に円安になることはないのではないか」と述べた。

付利の引き下げ、緩和効果も

追加緩和の手段については、買い入れ対象資産として「国債残高は 巨額なので、これは余地がある」と指摘。一方で、「指数連動型上場投 資信託(ETF)は株式市場にあまり影響を与えるのもいかがなものか ということもあるし、不動産投資信託(J-REIT)もそうだ。一般 論で言えば制約がある」と述べた。

日銀は金融機関が保有する日銀当座預金の所要準備を上回る超過準 備に対し、0.1%の金利を付している。金融市場では日銀の次の一手と して付利引き下げが行われるとの見方もある。日銀は追加緩和が必要な 際には、付利の引き下げや撤廃を含め、あらゆる手段を排除しない方針 であることが複数の関係者への取材で5月15日に明らかになった。

原田氏は「付利については、今どうすべきか考えているわけではな く、あくまで一般論だが、付利をしていれば、それだけマネタリーベー スの緩和効果は弱まる」と指摘。

「金融機関が国債を買えば、マネタリーベース、より正確には当座 預金に置き換えられるが、0.1%でも金利が付いていれば、そこに預け ておこうということになる。これが0%ならもう少し他の投資をしなけ ればならない、ということになるので、ポートフォリオリバランス効果 が強まる。マイナスであればさらにその効果が働くだろう」と語る。

地方債は可能性あるが困難も

買い入れ対象に地方債を加えることについては「可能性はあると思 うが、ただ、それほど買えるものでもない」と指摘。さらに、「たくさ ん発行している県の地方債を買うとなると、たくさん借金している県が 得をするのか、という話になる。これも難しい」としている。

原田氏はこのように述べた上で、「これからもし物価がさらに下落 するという状況になったときは、もちろん、あらゆる可能性を考慮して やるべきだ。どれを今やるべきか、どれを次にやるべきかを考えている わけではない」と述べた。

日銀は4月30日に公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート) で、消費者物価(生鮮食品を除いたコアCPI)上昇率が2%程度に達 するのは「16年度前半ごろ」として、従来の「15年度を中心とする期 間」から後ずれさせた。

原田氏は「肝心なことは、2%に向かって上がっていくというメカ ニズムが続いているかどうかだ」と指摘。注目すべき点として、1)予 想物価上昇率が下がらない、2)失業率や需給ギャップが順調に改善 し、物価を上げる方向に向かっているかどうか、3)現実の物価が上昇 に向かっているかどうか-を挙げた。

2%遅れても上昇軌道維持なら緩和必要ない

原田氏は「これら3つの指標がひどい状況になれば、『躊躇(ちゅ うちょ)なくやる』ということになる」と言明。一方で、「この3つが 崩れていなければ、物価は安定的に上がっていく経路にある。その経路 にいることが一番大事だ」と述べた。問題は、3つの指標が微妙に悪化 した場合だ。

その場合は、「よく考えるしかないが、物価がちゃんと上がってい くメカニズムが続いていれば、そんなに『躊躇なくやる』ということで なくてもいいのではないか」と指摘。2%達成が見通し通りに行かなく ても、「安定した物価上昇が続くという期待がアンカーされていれば、 3年超かかっても、それはそれでいいのではないか」としている。

原田氏はまた、2%物価目標の達成には3%の賃金上昇が必要との 指摘があることについて「労働生産性が1%、物価が2%だったら、賃 金は3%になる。結果としてそのくらいになる可能性は強い」と述べ た。ただ、「実際にはやってみなければ分からないので、現実の経済の 動きを見ながら、物価安定目標を優先してやっていく」としている。

前任の宮尾氏は追加緩和に賛成

日銀の最高意思決定機関である政策委員会の定員は、正副総裁3人 と審議委員6人の計9人。原田氏は前早稲田大学教授で、3月に退任し た宮尾龍蔵前審議委員の後任。宮尾前委員は5対4と票が分かれた昨 年10月31日の追加緩和決定で賛成に回った。

2日の東京外国為替市場は年内の米利上げ期待が強まったことを受 けて、円相場が一時2002年12月以来の1ドル=125円台に乗せた。4日 午後は124円台で推移している。黒田東彦総裁は同日午後、首相官邸で 安倍晋三首相と会談後、記者団に対し「為替レートは経済のファンダメ ンタルを反映し安定的に推移することが望ましい」と述べた。

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