日銀の国債含み益、フェイスブックCEOの資産上回る-出口にも備え

更新日時

日本銀行は巨額の国債買い入れによって、世 界的な大富豪の資産を超えるほどに含み益が膨らんでいる。異次元緩和 の終了過程では莫大な損失に転じる恐れもあり、過去最大の受取利息な どで増えた剰余金を利用して、自己資本の増強も進めている。

日銀が5月27日に公表した2014年度決算によると、国債からの利息 収入は前年度より3割多い1兆440億円と同一基準で比較可能な04年度 以降で最高を記録した。3月末の国債評価益も過去最高の4兆8145億円 で、ブルームバーグのデータによれば、米フェイスブックのマーク・ザ ッカーバーグ最高経営責任者(CEO)の個人資産349億ドル(約4兆 3328億円)を上回る。

黒田東彦総裁が2%の物価目標を掲げて進める異次元緩和で、日銀 は国債等発行残高の4分の1を保有するまでに至っている。金融政策の 判断材料となるインフレ率は横ばい圏にとどまっており、市場では追加 緩和観測が根強く残っている。日銀は長期金利の上昇で評価損が今後生 じても計上しない、と黒田総裁は説明しているが、純利益に当たる当期 剰余金から国庫に納める割合を下げて自己資本の積み増しを加速してい る。

みずほ証券の丹治倫敦シニア債券ストラテジストは、異次元緩和に ついて、「実施中は日銀に利益を生むが、出口で利上げしていく過程で は逆に損失をもたらす」と指摘。「16年度末から17年度初めにテーパリ ングを始められればバランスシートの拡大も軽くて済む」が、遅れれば 遅れるほど「自己資本の積み立ても進むが、その後の損失も巨大になる 」と言い、「山高ければ谷深し」だと語る。

日銀によると、14年度に計上した当期余剰金は前年比4割増の1兆 90億円と01年度以来の高水準。うち2522億円を自己資本に算入される法 定準備金に積み立て、国庫納付金は剰余金の75%に当たる7567億円とし た。13年度は国庫に同8割相当の5793億円を納めたので、納付額は増え たが剰余金に占める割合は低下した格好だ。

「両刃の剣」

日銀の総資産残高は3月末に323.6兆円と前の年に比べ34%膨らん だ。その主因となった国債は36%増の269.8兆円と全体の8割強に達し た。一方、総負債残高319.7兆円が増えた要因は、国債買い入れオペな どを通じて資金供給を受けた金融機関が積み上げた当座預金201.6兆円 で、全体の63%を占めた。

日銀は5月、財務の健全性を確保するため、14年度決算で当期剰余 金の25%相当額を法定準備金として積み立てるため、麻生太郎財務相に 認可申請した。日銀法で義務付けられた水準は5%。異次元緩和を始め た13年度に20%を積み立て、14年度は最高を更新した。外国為替関係の 引当金も3800億円増やした結果、3月末の自己資本比率は8.20%と13年 ぶりに8%台を回復した。

国債運用利回りは異次元緩和の導入前に当たる12年度は0.593%だ った。導入から1年以上が経った14年度は0.443%と量的緩和を実施し ていた05年度以来の水準に低下。上半期は0.473%で、追加緩和した下 半期は0.416%まで下がった。

SMBC日興証券の末沢豪謙金融財政アナリストは、異次元緩和の 低金利について、「両刃の剣だ。緩和効果を生むが、日銀が保有国債か ら得る利回りも下がる」と指摘する。「運用利回りが低い分、出口の過 程で当座預金への付利を引き上げていけば、フローで赤字が出てくる」 と言い、異次元緩和は「やればやるほど、反動のリスクも高まる。早く 止めて、テーパリングに着手した方が副作用も小さい」と話す。

日銀は金融機関の当座預金残高のうち法定準備額を超える分に年

0.1%の利息(付利)を提供している。準備預金制度の適用対象は直近 の月中平均が189.9兆円。うち、所要準備は8.7兆円にすぎず、付利の対 象となる超過準備は181.3兆円に上った。所要準備は前の年に比べ4.2% 増にとどまる一方、超過準備は6割を超える伸び率だ。準備預金に占め る割合は95%に高まっている。

22年度に債務超過も

みずほ証券の丹治氏は、日銀が長期国債買い入れを17年度初めから 1年程度かけて段階的にゼロまで減らし、18年度から3年程度で3%ま で利上げした場合の影響を試算。日銀は19年度から赤字決算に転落し、 当期剰余金の25%を法定準備金に積み立て続けても20年度と21年度はと もに3兆円を超える赤字となる。当座預金の超過準備に巨額の利払いが 生じる一方、保有する国債の利回りは低いためだ。

丹治氏は、日銀が出口の過程で保有国債の売却を伴う資金吸収をせ ずに利上げするには、付利も同水準に上げざるを得ないと説明。利払い 負担による単年度赤字が自己資本を食い潰し、22年度には債務超過に陥 ると分析する。法定準備金は「出口で被る損失を吸収する重要な役割を 果たす。剰余金の25%では不十分で、全額でも良いくらいだ」と指摘。 国庫納付を休止するなら財務省との協議になると述べた。

日銀の国債保有額は5月20日時点で285兆円。一方、株式は1.4兆円 、指数連動型上場投資信託(ETF)は5兆円、不動産投資信託(J- REIT)は2.2兆円だった。合計しても国債の30分の1未満で、出口 で売却益を計上しても、赤字を相殺するには至らない可能性がある。

日本の付利制度は世界的な金融危機下の08年10月末、白川方明日銀 総裁(当時)時代に導入された。潤沢な資金供給により短期の指標金利 がゼロ近辺まで低下して市場機能が損なわれる副作用を抑えることが目 的だった。今のところ、赤字決算や債務超過時に国庫から補てんを受け る仕組みはない。国内総生産(GDP)の2倍超に及ぶ公的債務と巨額 の財政赤字に直面する政府にとって、日銀からの国庫納付金は一般会計 予算の一部となっている。

米連邦準備制度理事会(FRB)もバーナンキ議長(当時)時代の 08年10月、リーマンショックの混乱の最中に、日銀に先んじて付利制度 を導入した。量的緩和を進める一方で、損失発生時は国庫から補てんを 受ける取り決めを米財務省と締結していた。付利の水準は現在0.25% だ。

FRBよりはるかに不利

SMBC日興証券の末沢氏は、出口での付利引き上げに伴う損失発 生の可能性は国債利回りと付利水準の格差に左右されると言う。米国は 10年物国債利回りが2%超に対して付利が0.25%。半面、日本は同国債 利回りが0.4%前後に対して付利が0.1%なため、日銀の方がFRBより はるかに不利だと分析する。

日銀は2%の物価目標を達成するため、マネタリーベースを積み増 す「量的・質的金融緩和」を13年4月から導入している。14年10月末の 追加緩和で示した長期国債買い入れを年換算すると、入札を通じた政 府の15年度市中発行額152.6兆円に対し、最大9割超に及ぶ。

それでも、消費増税の影響を除いた全国消費者物価指数(生鮮食品 を除いたコアCPI)は4月にゼロ%と低迷している。日銀は4月末の 「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、物価目標への到達時期 を従来の「15年度を中心とする期間」から「16年度前半ごろ」に後ずれ させた。ブルームバーグが5月下旬に実施したエコノミスト調査では、 日銀が10月末までに追加緩和すると34人中23人が予想した。

日本の長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは1月に0.195 %と過去最低を記録。ブルームバーグがアナリストらから集計した国債 利回り予想では、10年物が年末に0.47%、来年半ばには0.60%に上昇す ると見込まれている。ブルームバーグの分析データによると、日本国債 の投資収益率は昨年度3%だった。

--取材協力:近藤雅岐、酒井大輔.

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE