アベノミクスの先に潜む財政リスク-活況で批判の声届かず

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日本銀行による量的・質的緩和の導入から2 年が経ち、黒田東彦総裁をはじめリフレ派が主張する「マネタリーベー ス・コントロール」の効果に批判的な声が強まっている。

5月16日に都内の大学で開かれた日本金融学会の春季大会。収容人 数300人以上の教室で開かれた「中央銀行パネル」は、土曜日にもかか わらず学会員で埋まった。壇上には量的緩和を支持する日銀の原田泰審 議委員ら2人と、その副作用を懸念する2人が並んだ。

パネルでは、2%の物価目標の達成に自信を見せた原田氏に対し、 異次元緩和下の日銀による国債の大量購入が、1000兆円を超える債務を 抱える日本の財政規律の弛緩につながると批判が上がった。

「両方の立場で白熱した議論が交わされた」。学会員以外非公開の 議論を傍聴した日銀出身の横浜国立大学の高橋正彦教授は「量的・質的 緩和の導入から2年余りが経ち、金融政策とその効果に対する関心が高 まっている。参加者も去年に比べて多かった」と語った。

黒田総裁は一昨年の4月、金融調節の操作目標を金利からマネタリ ーベースに変更し、2年で2%の物価目標を達成するとした異次元緩和 を導入。円安・株高を誘発したが、反リフレ派の間では経済成長は引き 続き弱いとの見方が強く、先行き不安が広がっている。

パネリストの1人として登壇したBNPパリバ証券の河野龍太郎チ ーフエコノミストは4月3日、ブルームバーグとのインタビューで「こ れだけ極端な公的債務を持っている国で財政規律の弛緩につながる政策 をやっていいのかという懸念があった」と語っていた。

その上で、「議会制民主主義の下で、財政膨張の唯一の歯止めは長 期金利の上昇だ。政府は金利を抑制している日銀の国債購入に頼り、財 政健全化が進められない」と強調。結果的に、消費増税10%への引き上 げの先送りにもつながったとの見方を示していた。

しかし、少数派だったリフレ派は政治との連携で主導権を握った。 このような組織的な動きは「反リフレ派」にはみられない。リフレ派の 急先鋒だった浜田宏一エール大名誉教授らは、自民党の山本幸三衆院議 員を通じて自民党の総裁候補だった安倍晋三首相と金融政策をめぐって 意見を交わし、2012年末の政権発足後に表舞台に躍り出た。

今や、浜田氏は内閣官房参与として安倍首相のご意見番を務める。 このほか、浜田氏が13年3月に出版した「リフレが日本経済を復活させ る」の共著者の岩田規久男・元学習院大教授は日銀副総裁、原田泰・元 早稲田大教授は審議委員にそれぞれ就任している。

多数派の動き

黒田日銀の金融政策に警笛を鳴らしてきた元日銀理事で富士通総研 エグゼクティブ・フェローの早川英男氏も学会でパネリストを務めた。 早川氏は3月のインタビューで、リフレ派は「確かに戦略としては成功 したかも知れない」としながらも、「われわれは政治的な動きはしてい ない。新聞や学術誌でより積極的に訴えたい」と語っていた。

その上で、インフレが加速した際の金利急騰の可能性に触れ、「日 本の財政の健全性を非常に懸念している。多くの人が注目していない 中、われわれが強く主張する必要がある」と重ねて強調した。

現行の日銀の金融政策への厳しい見方が広がりを見せない背景に は、株価が2万円を超える市場の活況と円安による企業収益の好調があ る。慶応大学ビジネススクールの小幡績准教授はブルームバーグに対 し、「株も上がり、アベノミクスに対して世論的に賛成という雰囲気の 中で、日銀の政策だけ反対というのは難しい。政権に反対の人は黙っ て、擦り寄る人は擦り寄るのが多数派の動きだ」と語った。

自民党の行政改革推進本部長として財政健全化に向けた歳出削減に 取り組む河野太郎衆院議員は4月のインタビューで、日銀資金によって 財政を補てんする財政ファイナンスを続けると出口が大変になるとし、 「そろそろ出口戦略について議論しなければならない」と指摘する。し かし、党内では特に問題視されていないのが実情だ。

昨年10月の追加緩和で一段と進んだ円安は、28日には一時1ドル =124円46銭と12年半ぶりの水準まで急速に進み、輸入関連企業や中小 企業への悪影響が指摘されている。早稲田大学ファイナンス総合研究所 の野口悠紀雄顧問は「足元の金融政策を転換する唯一の方法は、国民が これ以上の円安は容認しないと声を上げることだ」と述べた。

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