知られざる高収益企業、ファナックが株主還元拡大に転じたワケ

産業用ロボットなどをつくるファナックの稲 葉善治社長は、株主との対話や報道機関の取材対応など広報活動にも力 を入れていく方針に転換したことについて、会社への誤ったイメージが 広がらないよう自ら情報発信する方が得策と判断したためと話した。

稲葉社長は山梨県忍野村の本社での22日のインタビューに、「誤っ たイメージをお客さまに与えてしまうことで本業に影響を与えるのを恐 れている」と述べ、「1回誤ったイメージが伝わってしまうとそれをひ っくり返すのは大変」と話した。最初から正しく伝えていく努力をした 方が、少ないエネルギーで済むと判断して方針を変えたと説明した。

最寄りの新幹線駅から車で約1時間、富士山のすそ野近くに本社や 生産工場を構えるファナックはこれまで外界と距離を置いてきた。黄色 いビルが建ち並ぶ生産施設に部外者が立ち入りを許されることはまれだ った。窓のない工場では年中無休24時間体制で、黄色のロボットがロボ ットを生産している。アナリストやメディアへの対応も極めて限られて いたことから会社の内情は外部にあまり知られていなかった。

シンボルカラー

会社のシンボルカラーで製品や工場の建物などさまざまな場で使わ れる黄色のジャケットを着用して、稲葉社長は取材に応じた。広報活動 の強化については、株主還元とは別問題とした上で、これまでインタビ ューなどをほとんど受けてこなかったことについては「時間がもったい なかっただけの話。本業にプラスにならない」と述べ、メディア対応は 今後も必要最小限にとどめる考えを示した。

株主還元拡大について、稲葉社長は2013年ぐらいから考えを暖めて いた計画だと明らかにした。内部留保が増え、手元資金が目安とする1 兆円程度になったことで「そういうタイミングでキャッシュをどうする かということを考える時期だった」という。「必要以上のキャッシュを 貯める必要はない」と述べる一方、今後については会社が成長し規模が 大きくなれば手元資金の目安の水準も上がっていくとも話した。

ダニエル・ローブ氏率いる米投資ファンドのサード・ポイントはフ ァナック株を取得し、2月に自社株買いなどを求めるなど、変革を求め るキャンペーンに乗り出していた。高収益企業のファナックは3月に株 主との対話促進のためシェアホルダー・リレーションズ部を新設すると 発表。稲葉社長は、ローブ氏に対して2月に書簡を送り、4月にファナ ック本社で面会したことを明らかにした。

「最悪に備える」

ファナックは4月27日、配当性向を従来の30%から60%に引き上げ ると発表。自己株式も取得し、取得額と配当金との合計が今後5年間の 純利益の合計の8割の範囲内になるようにするとした。3月末の決算短 信で、流動資産の現預金と有価証券の合計額は9912億円となった。

手元資金について、稲葉社長は「生産材のメーカーなので波が大き い」と述べ、「どんな経済環境でもしっかり生き残れるよう、創業期か ら最悪に備えるようにしてきた」と語った。今後5年間で純利益の合計 の2割が会社に残れば、「今の規模では十分な将来投資ができると考え ている」と話した。

こうした対応に関して、稲葉社長は、政府の要請を受けたことはな いと述べ、安倍晋三政権が推進する企業ガバナンス強化の方向性とファ ナックの進めてきたことが一致したものだとの認識を示した。

サード・ポイントは、ファナックが多額の現預金を保有し無借金で あることは事業の質や成長機会、低い資本集約度からすると理解し難い と指摘していた。ファナックのロボドリル(小型切削加工機)はアップ ルの「iPhone(アイフォーン)」の金属形成工程に使われる。

今期(16年3月)の純利益は前期比7.9%減の1912億円の予想で、 年間配当は1株当たり636円62銭の予定。

--取材協力:Kanoko Matsuyama.