黒田緩和に国債売り手不足の懸念、ゆうちょ銀の「売り余力縮小」で

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巨額の国債買い入れを進める日本銀行の黒田 東彦総裁が売り手を確保し続けられるのか懸念が広がっている。日本国 債保有額で日銀に次ぐゆうちょ銀行が前年度に過去最大の残高圧縮を行 ったことで、今後の売り余力が縮小するとの見方が出ているためだ。

ゆうちょ銀は2015年3月期に国債残高を19.6兆円削減し、3月末 に106.8兆円とした。かんぽ生命を合わせた圧縮幅24.1兆円は07年10月 の民営化後で最大となる。日本郵政グループ全体の残高は154.9兆円。 メリルリンチ日本証券の試算によると、日銀が残高を年80兆円増やすに は他の保有主体から約45兆円分を得る必要があるが、ゆうちょ銀の残高 圧縮は今年度は10兆円程度にとどまるとみている。

異次元緩和の導入から2年余り経過したが、インフレ率は原油安を 背景に低迷しており、2%の物価目標の達成に向けた大規模な国債購入 は長引く見通し。目下の主な売り手の年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF)は昨年末までの3四半期で国内債券を約10.6兆円削減し、 運用見直しの目標値が近づいており、ゆうちょ銀がGPIFに代わる売 り手として市場の期待を集めていた。

メリルリンチ日本証の大﨑秀一債券ストラテジストは「日銀への売 りは今年度も公的部門が中心だろう。ただ、売り余力は縮小してきてお り、異次元緩和の継続が厳しくなりつつあるのは間違いない」と分析。 ゆうちょ銀の国債削減も「金利が低過ぎて償還分を買えなかった面もあ る。収益性の高い代替投資先はなかなか見つからず、今後は昨年度ほど の大量売却にはなりにくい」とも語った。

ゆうちょ銀の運用資産は3月末に205.9兆円と1年前より5.5兆円増 加。国債は最も多かった7年前の156.8兆円から約3分の2に減り、5 年前には8割だった構成比も51.9%と過去最低となった。かんぽ生命の 総資産は2.2兆円減の84.9兆円。国債は4.4兆円少ない48.1兆円で全体 の56.6%だ。両社合計では3.3兆円増の290.8兆円。国債は53.3%を占め た。

GPIFの2倍近い売り

国債・財融債の純増額は昨年29.2兆円だったが、日銀はその2倍超 の59.3兆円も買い越した。主な売り手はGPIFなど公的年金の12.4兆 円と、ゆうちょ銀を含む中小企業金融機関等の23.9兆円。両者の売越額 は日銀が追加緩和した昨年10-12月期、ともに過去最大となった。一 方、異次元緩和が始まった13年4-6月期に最大の17.2兆円を売り越し た国内銀行は14年には6724億円の買い越しに転じた。

日銀の国債保有額は昨年末に総額1023兆円の25%に当たる256兆 円。前年比39.5%も増えた。減少率が最も大きかったのは公的年金 で16.6%減の57兆円。ゆうちょ銀など中小企業金融機関等は11.4%減 の144兆円、かんぽ生命と民間の生損保からなる保険は201兆円と4.4% 増えた。国内銀行は9.6%減の122兆円だった。

SMBC日興証の末沢豪謙金融財政アナリストは、今年度も大きな 構造変化は見込めないだけでなく、追加緩和で日銀の残高増が年30兆円 分も拡大したため、日銀は利付国債を純増額の約2.9倍も積み上げると 予想。このペースが続けば、発行残高に占める日銀のシェアは年末 に32%程度に達し、18年末には5割を超える可能性があると読む。

厚生年金と国民年金の運用資産137兆円を抱えるGPIFは昨年10 月末の資産構成見直しで、経済活性化による将来の金利上昇を視野に国 内債の目標値を60%から35%に下げ、内外株式の目標値を12%ずつか ら25%ずつに、外国債券は11%から15%へ引き上げた。リスク資産は全 体の35%から65%に、円相場に直接影響する外国株と外債は合計23%か ら40%と約2倍に上昇させた。

しかも、公務員や教職者らが加入する約30.4兆円規模の3共済年金 は10月からGPIFと運用を一元化し、利回り目標やリスク許容度など を共有する。3月には共同で策定した資産構成の枠組みを公表。うち国 家公務員共済組合連合会(KKR)は2月、地方公務員共済組合連合会 も3月、GPIFと目標値が同水準の資産構成を導入した。

GPIFは国内債の構成比が昨年末に43.13%に低下。積立金全体 の規模が一定なら、目標値まで償還分も含めて約11.2兆円だ。メリルリ ンチ日本証の大﨑氏は、この売り余力は3月末に5兆円強まで減った一 方、3共済は今年度に最大で約13兆円削れると分析。日銀が国債残高を 年80兆円増やすには他の投資主体から約45兆円分が必要だとし、公的年 金勢に加えて、かんぽ生命が最大20兆円、ゆうちょ銀が10兆円程度を分 担すると見込む。

外債・株に14兆円

ゆうちょ銀とかんぽ生命を傘下に抱える日本郵政グループは今秋以 降の上場を目指し、収益力の向上を図っている。2月には豪物流大手の 買収や株式投資の体制強化を発表。政府に対し、ゆうちょ銀の預金限度 額引き上げも求めている。超低金利の国債を減らして貸し出しや株式・ 外債を増やす方針で、17年度の連結純利益4500億円程度のうち、ゆうち ょ銀が4分の3近い3300億円を稼ぎ出す計画だ。

郵便貯金・簡易生命保険管理機構が3月末に公表した安全資産の保 有状況によると、ゆうちょ銀は今期(16年3月期)の国債投資を14.4兆 円と前期計画比6割近く減らす一方、かんぽ生命は3.7兆円と同3割近 く上回る。先月発表した中期経営計画では、リスク資産を3月末の外 債31.6兆円、株式2兆円など合計46兆円から、17年度までの3年間で60 兆円に増やす方針を示した。

国内の民間銀行による国債保有額は12年3月に171兆円と過去最高 を記録した後、異次元緩和の導入直前に当たる13年3月の166.6兆円か ら昨年7月の126.4兆円まで1年4カ月で40兆円超も減少。2月に は124.8兆円と09年12月以来の水準まで減った。

三菱UFJみずほ三井住友の大手邦銀3グループは異次元緩和 が始まった13年度の国債削減幅が、ゆうちょ銀の2.5倍に当たる合 計29.3兆円。14年3月末の保有額は76.3兆円となった。しかし、昨年度 はゆうちょ銀が19.6兆円減らす一方、3メガグループは約半分の9.9兆 円。3月末の残高は66.4兆円となった。三菱UFJが35.2兆円と5.4兆 円削減。みずほは約4.6兆円減らして17.2兆円、昨年度にほぼ半減させ た三井住友は14兆円で1472億円増やした

UBS証券の井川雄亮デスクストラテジストは、大手都市銀行の15 年3月期決算では国債残高の圧縮は短中期債が中心で、長期債や超長期 債は微増だったため、国債保有に伴う金利リスク量は横ばいだと指摘す る。低金利下で収益性の低い短中期債は日銀に売却しても、金利収入を 稼げる長期債は維持していると分析。金利リスク量を落とす余力は乏し く、日銀に売却可能な債券は着実に減ってきていると読む。

金利上昇なら買いも

日銀は2%の物価目標を2年程度で達成するため、マネタリーベー スを積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入。昨年10月末の 追加緩和で、増加ペースを年80兆円程度に高めた。資金供給手段である 長期国債買い入れオペは月8兆-12兆円に増額。入札を通じた政府の15 年度市中発行額152.6兆円に対し、年率で最大9割超に及ぶ計算だ。

長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは追加緩和後に低下に 拍車が掛かり、1月には0.195%と過去最低を記録した。しかし、約1 カ月半後の3月10日には0.47%と2倍超に上昇。4月下旬にかけて下げ たものの、先週は2度も年初来の最高水準に並んだ。

BNPパリバ証券の藤木智久チーフ債券ストラテジストは、ゆうち ょ銀は「国債残高を削減する方向性は変わらないが、最近1年間のペー スは少し速かった」と指摘。年10兆円程度なら「あと1年間は続けられ る」と見積もる。金利が低過ぎるので償還分の再投資を手控えている可 能性があり、金利が上昇すれば買いが出てくるのではないかと言う。

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