【FRBウオッチ】利上げ後ずれは「隠れ利下げ」-市場が代行

初回利上げはデータ次第と米金融当局は公言 しているが、そのデータはこのところ景気の減速を示すものが多く、利 上げ見通しは後ずれしている。市場では昨年10月末で当局による大規模 資産購入計画(いわゆる量的緩和=QE)が終了したあと、初回利上げ を巡る予測を軸に相場が変動してきた。

連邦公開市場委員会(FOMC)は初回利上げまでの時間軸として 機能してきた「金融政策スタンスの正常化の開始に際しては辛抱強くな れる」というガイダンスを、3月の定例会合で声明から削除。その上 で、「データ次第」で政策を決定していくという海図なき航海に乗り出 している。

「正常化の開始」とはゼロ金利の解除、つまり初回利上げを意味す る。利上げはもちろん金融引き締めだ。それを決めるのは今回はデータ である。そのなかでも、前月の経済を最も早く収録する雇用統計が最重 要データとなる。

データ次第の政策が注目を集める中で労働省が4月3日に発表した 3月の雇用統計では、非農業部門の雇用者数速報値が前月比12万6000人 増加と、2013年12月以来の低い伸びに減速してしまった。それまで6月 にもあり得えるとしていた市場の利上げ時期予想は、この統計発表を受 けて9月に後ずれした。

3月の雇用者数は5月6日に公表された改定値で大幅に下方修正さ れ、8万5000人増。さらに4月の小売売上高、鉱工業生産など重要統計 が軒並み低調な数値をはじき出す過程で、初回利上げは年内から来年と いう見方も説得力を強めてきた。

市場が金融緩和を代行

通常の株式市場なら、重要統計が低調な結果になると経済失速は企 業収益のマイナス要因のため売り材料とされるが、現状では初回利上げ が遠のいたという理由で買い手掛かりになる。

これまでFOMCが初回利上げを模索する一方で、日銀、次いで欧 州中央銀行(ECB)が追加緩和に動いたことからドル相場は急伸して いたが、米利上げの後ずれで反落。市場がFOMCの金融緩和を代行す る格好になっている。

FOMCにまだ十分な政策金利引き上げの能力があった前回の景気 拡大局面では、利上げでバブルが抑制され、最終的に破裂させられた。 たとえばバーナンキ議長(当時)は2006年6月に政策金利であるフェデ ラルファンド(FF)金利誘導目標を5.25%まで引き上げ、この水準 を2007年9月18日まで維持することにより、住宅・金融バブルを崩壊に 導いていた。

金融政策の98%は「市場との対話」

一方、株価はこの間の利上げも消化してなお上昇を続け、07年9月 の利下げも手伝って同年10月9日には史上最高値まで駆け上がってい た。しかし、実体経済の悪化に伴い、さしもの株高もその後の連続的な 大幅利下げにかかわらず、下り坂をころげ落ちるように落下していっ た。

今回の景気拡大局面はほぼ6年が経過しようとしているが、政策金 利は事実上ゼロ%に張り付き、一見すると異常な金融緩和が継続してい るようだ。しかし金利や貨幣の量では測れないものもある。バーナンキ 氏はことし3月に始めたブログの冒頭で、金融政策の98%は「市場との 対話」だったと述懐している。

同議長は退任が視野に入った2013年5月22日の議会公聴会で、「年 内にQEと呼ばれる債券購入の縮小(テーパリング)を始め、14年半ば ごろに終了する」と述べていた。この「市場との対話」が正常時でいう 初回利上げに相当する。

疑似緩和で景気浮揚は困難

 10年物米国債利回りは13年5月2日の1.6255%を底に上昇に転じ ていたが、バーナンキ議長のテーパリング発言のあった同月22日には一 気に加速して2%台に達し、同年末には3%を付けた。住宅市場はこの 長期金利上昇で失速してしまった。

米国債利回りは13年末をピークに低下に転じ、ここで第1次引き締 めが終わる。2014年になるとFOMCのQE終了から初回利上げを視野 に入れた一連の市場との対話が第2次金融引き締め効果を発揮した。こ の米国の疑似引き締めをにらみながら、日銀やECBが追加緩和への傾 斜を強めていったことを背景に、ドル相場が急伸。このドル高が米国経 済に対して強い引き締め効果を発揮したのは言うまでもない。

こうした「市場との対話」という強力な引き締めにより米経済は急 激に勢いを失ってきたというシナリオが描ける。このシナリオに基づけ ば、利上げの後ずれといった「隠れ利下げ」では実体経済も株式市場も ピーク圏を維持することは難しいだろう。正常時には利上げにより景気 がピークアウトすると、強力な連続大幅利下げも、もはや効果がなく強 烈なバブル崩壊と大恐慌以来最悪のグレートリセッションに突入してい た。

ゼロ金利と量的緩和を駆使した「市場との対話」という異次元緩和 で巨大に膨れ上がったバブルは、自らの重みで崩壊し、「隠れ利下げ」 程度では下支えは困難だろう。

(【FRBウオッチ】の内容は記者自身の見解です)