詐欺師にだまされた詐欺師-「モーゼ」と祭り上げられた末

米国で有罪の判決を受けているデ ービッド・スミス被告が、38歳の誕生日を忘れる日はそう簡単にやって こないだろう。

あの日はジャマイカのキングストンの豪邸で、自身の通貨ファンド に投資する200人ほどの前に立ち、師匠でヒーローとあがめるジャレッ ド・マルティネス氏が自分を紹介してくれるのを聞いていた。同氏はス ミス被告について、人々を約束の地に導いたモーゼのようだとし、「デ ービッドはこの地で多くの人を自由にしてくれた。ジャマイカのモーゼ に感謝しよう」と語った。ファンドの月10%のリターンをたたえた言葉 だった。

46歳になったスミス被告はその瞬間について、複雑な思いだったと 振り返る。ブルームバーグ・マーケッツ誌6月号が報じている。マルテ ィネス氏(59)は規制の緩やかな個人投資家の外為取引を対象にしたト レーディング塾を開いている。カリスマ性の強い同氏をスミス被告は、 父親のように尊敬し信頼するようになっていた。マルティネス氏の指導 の下で同被告はファンドを成長させ、200万ドル(約2億4000万円)の 海辺の別荘や個人用ジェット機が買えるほどに個人資産を増やした。し かし同氏は自分がモーゼではないことを知っていた。ファンドは詐欺だ ったからだ。

3年後の2010年8月、米検察当局はスミス被告と共犯者らが2億ド ル余りの投資家資金のマネーロンダリング(資金洗浄)に関わったとし て摘発した。検察側は資金洗浄にはマルティネス氏と2人の息子が作っ た複数の米銀の口座が利用されたとし、こうした取引を理由にスミス氏 に資金洗浄や共謀で19件の罪状を示した。マルティネス親子は共謀が認 められたものの不起訴だった。スミス被告は4件の詐欺罪にも問われ た。

スミス被告は自身を、自分より上手の詐欺師にだまされた詐欺師だ と考えている。西インド諸島に属する英領タークス・カイコス諸島のプ ロビデンシャルズ島にある拘留施設に収容されている同被告は1月にブ ルームバーグ・マーケッツ誌のインタビューに応じた。11年3月に米当 局との司法取引の一環で有罪を認めた時は、マルティネス親子の有罪を 立証するため検察側の証人となるつもりだったという。既にタークス・ カイコスでの裁判で2010年に有罪となり禁錮6年半の判決を受けていた が、減刑を期待していた。

しかしマルティネス親子が訴追されることはなく、スミス被告は11 年8月に、米連邦裁判所から30年の禁錮刑を言い渡された。同氏は現 在、米国への身柄引き渡しに抵抗している。マルティネス氏の会社はス ミス被告のビジネスをしっかり調べなかったとして、業界自己規制団体 の全米先物協会から25万ドルの罰金を科されただけだった。

「有罪答弁をすると決めてからは迷わなかった。何もかも話し、検 察が求めたことは全てやった。見返りは何もなかった」とスミス被告は 青い海とかつてマルティネス一族を接待した海辺の別荘からほど近い拘 留施設で語った。

マルティネス親子はこの記事に向けたコメントを控えた。米検察当 局はブルームバーグ・マーケッツに対し、マルティネス親子を訴追しな かった当時の判断を支持すると文書で伝えた。

今年1月23日、スミス被告は刑期満了よりも2年早くタークス・カ イコスの施設から釈放された。その夜を妻と4人の子供たちと過ごした 同氏は電話インタビューで、「今この瞬間を楽しんでいる。いつ米当局 がつかまえにくるか分からない」と語っていた。

釈放から24時間未満で、同被告は米司法省の要請によって再び身柄 を拘束され、今は6月5日にプロビデンシャルズで開かれる予定の身柄 引き渡し審問を待っている。

原題:Currency Con Man Says He Got By With Some Help From a Big Friend(抜粋)