【コラム】独善主義のギリシャ人、ドイツに出没すれば-ルイス

米カリフォルニア州バークリーは州 内で同等規模の都市の中で、最も車にひかれる歩行者が多い地域だとい うデータが数年前に出た。しかし、住民の誰もが分かっているように、 バークリーに特に危険なドライバーが集まっているわけではない。

むしろ、バークリーの歩行者に自己破壊の欲求があるようだ。昼間 は耳にイヤホンを付け、危険を察知できないようにしたまま交差点に飛 び出す。夜は夜で黒っぽい服装で物陰から薄暗い通りへ忍び出る。まる で忍者のように。自殺願望があるわけでもひかれたいわけでもないのだ ろう。歩行者である自分の方がドライバーよりも優位に立っているのだ と、相手に対し、また恐らく自分に対しても顕示したいのだと思われ る。それによって、救急車で運ばれる確率を高めているのだが。

この話はギリシャ人がドイツ人との間で現在繰り広げているドタバ タ劇につながる。

ギリシャの新財務相はなかなか強気だ。首相は上から目線でドイツ 人に説教し、ギリシャ国民はドイツの指導者らがナチスの制服を着てい る漫画が大好き。こういうところにバークリーの歩行者と同じ気質がう かがえる。違うのは独善性の根拠だ。ギリシャ人はドイツ人が過去の罪 を恥じて罪を滅ぼす義務を感じるべきだと考えている。

その証拠というべきかギリシャ財務省は最近、第2次世界大戦中の ナチスの残虐行為についてドイツが支払うべき賠償金の額を試算した。 もちろん、試算によってドイツが支払う公算が大きくなったわけではな い。むしろ逆効果で、ギリシャが助けを求める相手であるドイツの政治 家を怒らせた。それでも、ギリシャ人が依然として自分たちの正当性を 主張しているということを皆に思い出させる効果はあった。

ギリシャ政府の腐敗、改革への抵抗などは問題ではない。ギリシャ 人がドイツの高速道路を走って横断したければ、ドイツ人はブレーキを 踏まなければならないのだ。

今のギリシャはどこを見ても、自衛本能が停止してしまっている。 債権者側と対立するつもりの政党を政権の座に就けてしまったことが、 最も明白にそれを示している。ほかにもある。例えば、ギリシャ人が銀 行から預金を大量に引き出しているという毎週のデータだ。もっと安全 なドイツかスイスの銀行に預けるつもりなのだろうが、それは驚くに当 たらない。驚くべきなのは、まだ引き出す預金が残っていることだ。

今ではギリシャ人は皆、同国のユーロ圏離脱の可能性が現実味を帯 びていることを知っている。そうなればギリシャの銀行に預けられてい るユーロは一晩で「新ドラクマ」に変わり、恐らくは価値の半分を失う だろう。これは実在するリスクなのに、ギリシャの銀行にはまだ1400億 ユーロ(約18兆9000億円)前後の預金が残っている。明日ギリシャがユ ーロ圏を離脱すれば約700億ユーロの貯蓄が消えることになる。

ギリシャの預金者が世界中が認識していないことを知っている可能 性もあるし、宿命論者で最悪の事態に備えるのがおっくうなのかもしれ ない。しかし私は、ギリシャの銀行にまだ預金が残っているのはバーク リーの歩行者が危険を冒すのと同じ理由からだと思う。つまり、「ひけ るものならひいてみろ」という気持ちだ。この5年間繰り返してきたお かげで、ひかれない確信は強まっている。

ある金融状況に対して人がどう行動するかを予測するには、何が彼 らの利益になるかを考えればいい。遅かれ早かれ人はそれに沿って行動 するものだ。しかし、人の行動が自分の利益という狭い経路から外れて しまっている場合はそうはいかない。ギリシャ人がどう動くかを予見す るのが難しいのはこのためだ。彼らがBMWの前に飛び出してきた時、 ただひいてしまいたいという気持ちを強める理由でもある。(マイケ ル・ルイス)

(マイケル・ルイス氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Self-Righteous Greeks Saunter Into the Autobahn(抜粋)

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