【コラム】実体経済から乖離し始めた黒田日銀総裁-ペセック

日銀の黒田東彦総裁は日本のデフレ脱却に向 けた取り組みで、トラウマを抱えた世帯、慎重な銀行業界、後ろ向きな 企業経営者、力強さに欠ける世界経済といった多くの課題に直面してき た。しかし、4月30日に黒田総裁はリストに新たな1項目を加えた。そ れは受け入れがたい状況を認めようとしない「否認」だ。

日銀が同日、金融政策の維持を発表した後、黒田総裁は記者会見に 臨んだ。それはまるで心理学で言う認知的不協和の勉強会だった。認知 的不協和とは矛盾する認知を抱えた状態を指し、人はそれに伴う緊張や 不快感を低減しようとするという。自身が掲げる2%のインフレ目標の 達成がますます達成困難の様相を強めているものの、黒田総裁は物価の 基調は着実に改善していると自信を示した。以下にブルームバーグが速 報した5つのヘッドラインを示し、黒田総裁が日本の実体経済と乖離 (かいり)し始めている様子を検証してみよう。

*日銀総裁:物価2%の達成時期の後ずれは原油価格が原因

これは現実とかけ離れている。ごくわずかな賃金の上昇と人口動態 を背景に、日本の消費者物価上昇率は再びマイナス圏となりつつある。 大手輸出企業は円安の恩恵を受けているが、労働者への分配は少ない。 日本のエコノミストは何カ月も失業率3.5%と労働市場がタイト化する ことで大規模な賃上げが近いと分析しているが、なぜ人手不足となって いるかの議論が欠けている。理由は人口の減少と高齢化であり、デフレ の根本的な原因だ。商品相場だけに責任を負わせても無駄だ。

*日銀総裁:市場との対話で問題生じていない

本当なのか。黒田総裁が量的緩和についての訳の分からない話を止 めるなら、この発言の妄想度合いは低下するかもしれない。必要ならち ゅうちょなく追加緩和を行うと語る一方で、量的緩和からの出口政策の 議論についても多く語る。では、どっちなのだ。

*日銀総裁:政府が財政改革への取り組みを継続すると強く期待

黒田総裁はもちろん、格付け会社フィッチ・レーティングスが先 月27日に日本の長期発行体デフォルト格付けを「A+」から「A」に1 段階引き下げたことは承知している。安倍晋三首相は世界最大の公的債 務の問題に何ら手を打たず、日本の格付けはマルタと同水準とされた。 政府は財政改革を推進しつつあると黒田総裁が本当に思っているとすれ ば、間違った新聞を読んでいるのだろう。

*日銀総裁:国債買い入れで今後問題生じると考えていない

2つ目の妄想発言。日本の金融市場は現在、流動性の欠如に見舞わ れている。英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループ (RBS)など一部で、日本のトレーディング業務から撤退の動きが見 え始めている。日本の10年物国債の奇異な低金利(現在0.32%)も、こ の国の市場で何かが間違っていることを示唆している。日本のケースは 巨額債務を抱える国に関する経済の基本的理論を逸脱している。

*日銀総裁:株価は企業収益の見通しを反映

黒田総裁は図らずも自らの説に冷水をかけた。日経平均株価は4 月30日に2.7%安の1万9520円で終了。企業業績が材料となったのでは なく、日銀の金融政策維持の発表を受けてだった。日本株は2年にわた り上昇してきたが、その間、実際に変化してきたのはこの国の金融政策 だ。黒田総裁が低金利の資金供給で日経平均を押し上げ、市場が企業の ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)を先取りしていることは否めな い。

黒田総裁の意図的に「否認」は、その地位がかくも影響力のある人 物でなければそれほど問題ではない。今の状況は、総裁が自らのデフレ 脱却戦略の欠陥について修正を急いでいないことを示唆している。さら に悪いことは、成長促進に向け政府に対し真剣に構造改革に取り組むよ う促す努力を、黒田総裁が諦めてしまっているように見えることだ。

つまり、金融政策のミスを実演中なのだ。黒田総裁が現時点で日本 経済の状況に満足しているとすれば、この国の中央銀行を率いるという 難局には挑まないということだ。

原題:Bank of Japan Is Beginning to Part With Reality(抜粋)

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