英国へようこそ、働いてくれてありがとう-でももう出て行って

廣野美和氏は荷物をまとめ、英国 から日本に帰った。ノッティンガム大学での職に問題があったわけでは ない。雇用主は同氏に勤務を続けてもらいたがっていた。中国の外交政 策に関する同氏の研究は貴重で、英国防省と外務省に協力もしていた。 問題を引き起こしたのは、キャメロン首相がしてしまった約束だ。

保守党党首のキャメロン氏は2010年の選挙で勝利を目指し、移民を 「数万人」規模にすると約束した。しかし欧州連合(EU)加盟国であ る英国は域内からの移民を制限することはできない。そこでEU外から の移民を標的にしたわけだが、この中には科学者や技術者や学者など高 いスキルを持つ人々が含まれている。

5月7日に総選挙を再び控えた今、移民についてキャメロン首相が よく問われるのは、目標がなぜ達成されていないのかというものだ。首 相は再選されれば達成できると繰り返している。見落とされているの は、移民の制限が果たして本当に良いことかどうかという点だ。

英国にとってのリスクは、こうしたスキルの高い人々はどこでも仕 事ができるのでスキルを持ってよそへ行ってしまうかもしれないという ことだ。移民政策を担当する内務省と1年間法廷で争った末、廣野氏は うんざりして京都の大学での職を受け入れることにした。

「海外で働く同僚たちにはいつも、英国の大学で働けて幸運だと言 ってきたが、今は逆だ。あまりにも不安定な環境なので、来ない方がい いと言っている」と同氏は語った。

こうした結論に達するのは同氏だけではない。イミグレーション・ ロー・プラクティショナーズ・アソシエーションの法務ディレクター、 アリソン・ハービー氏によれば、移動性の高い労働者で英国外への移住 を検討する人は増えている。英国の雇用主も困っているという。「企業 に必要なのは確実性だ。物事が変わらないという確信が必要だ」と同氏 は話した。

廣野氏は2008年に渡英しノッティンガム大学で研究生活を送ってき た。専門は中国が発展途上国に影響を与える上で軍を活用する方法なの で、さまざまな国へ出かけて調査する必要がある。09、10年の両年 は200日以上を英国外で過ごした。同氏はビザを更新するつもりだった が、10年のキャメロン政権の誕生で移民のビザ更新はできなくなった。 代わって永住権を申請しなければならなくなったが、年間180日を超え て海外で過ごした人には認められないことが分かった。

14年7月、同氏はオーストラリア人の夫と息子の「家族とともに直 ちに英国を出なければならない」という書簡を受け取った。ノッティン ガムでの生活を続けたいと考えた同氏は訴えた。昨年12月初めにピータ ー・ホリングワース判事が同氏の主張を認めた時は「とてもうれしかっ た」と同氏は言う。ところがクリスマスの直後に、内務省が控訴。同氏 は「こんな生活はできない」と考え、英国を去ることを決めたという。

ハービー氏によると廣野氏の体験は典型的なものだ。内務省は複雑 な申請手続きなどで移民の永住を妨げ、裁判で敗れるとほとんどの場 合、理のあるなしにかかわらず控訴するという。

マンチェスター大学で政治学を教えるロブ・フォード氏によれば、 移民が実際には減っていた1964年でさえ、多くの英国人は移民は多過ぎ ると考えていた。キャメロン首相と英独立党(UKIP)のファラージ ュ党首は移民の人数を1980年代の水準程度に戻したいとしている。当時 のピークは1985年の5万8000人だった。

移民を減らす約束がそれを望む有権者を満足させることは決してな いとフォード氏は話す。「移民問題を強く意識する有権者は、全ての問 題をそれに結びつけて考える。移民を減らしたいということは要する に、自分たちが気に入らない形で進んできた文化の変化を反転させたい ということなのだ」と説明した。

原題:Welcome to Britain. Thanks for the Hard Work. Now Get Lost (抜粋)

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