森トラストの次代担う女性経営者、創業家出身の重圧克服

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急成長するアジアの主要都市に負けない国際 都市、東京への脱皮に一役買いたい-。総合不動産の森トラストグルー プの中枢に座る伊達美和子氏(43)は、「男社会」と言われる不動産業 界には珍しい女性経営者だ。グループを率いる父の森章氏(78)は「近 い将来、森トラストの社長だ」と話し、後継者に指名している。

伊達氏は、持ち株会社の森トラスト・ホールディングス(HD)社 長の森章氏を父に持ち、傘下の中核デベロッパー森トラストの専務と、 森トラスト・ホテルズ&リゾーツ(H&R)の社長を兼務。不動産開発 とホテル運営の両輪を担う。森トラストHDの筆頭株主でもある。

米フォーブス誌で「世界一の資産家」にランクされたこともある祖 父の森ビルグループ創業者、故・森泰吉郎氏の遺伝子を引き継ぎ、幼少 期から「不動産に興味があった」という。小学生の時にはリゾート開発 の現場に足を運び、アークヒルズの完成を親族の横で見守った。聖心女 子大学時代の卒論は「田園調布の再開発」だ。

森トラストと袂を分かち、六本木ヒルズを手掛けた森ビルは叔父の 故森稔氏から、プロパーの辻慎吾社長に代替わりしている。一方、創業 家出身の伊達氏は、「新しい発想で何か達成しないと何ら評価されな い。評価されない立場で親族だから何かになるというのは、自分にとっ ても周りにとっても不幸だ」と重圧を感じ、卒業後も他社などで武者修 行。98年、森ビル開発(現森トラスト)に入社した。

外資系ホテルがまだ少なかった当時、米コンラッドウェスティ ンマリオットなど高級ホテルの開業に関与し、大型再開発に尽力。自 社ビルとの賃貸契約やフランチャイズ契約、国内ホテルの外資ブランド への衣替えなどで事業を拡大してきた。グループのホテル事業は10年間 で売上高で1.8倍、利益は4倍になったという。

みずほ証券の石沢卓志上級研究員は、「不動産業界は基本的に男の 世界」とした上で、女性経営者の伊達氏について、創業家出身というバ ックボーンがあるのは強みだとし、課題は「カリスマ性を前面に出して いけるかどうかだ」と話す。

意識のリノベーション

伊達氏は正月になると親戚一堂が集まり、経済の話をするような雰 囲気の中で育った。帝王学を授けられた記憶はないというが、祖父の泰 吉郎氏が「面接のように質問をたくさんしてきて、的確に答えようと懸 命だった」と振り返る。

聖心女子大3年時には泰吉郎氏に「自分の手元で育てたい」と言わ れたが、「親族がどうだからということではなく、自分がやりたいこと をやるには実績が必要」との思いから、誘いを振り切り、慶応大大学院 に進学。家業を継ぐ前にコンサルタント会社のほか、ホテル・ニューオ ータニで「ホテル関係を経験したいと思い、企画の仕事に関わった」。

外部の空気に触れることで、「リーダーになるには経験や組織を束 ねる力が必要」との思いを強くした。社長を務める森トラストH&Rで は、求心力を維持するために、トップダウンで物事を決めるのではな く、むしろ「課題を与えて、自分の力で答えを出してもらう」という経 営スタイルを取っている。自ら考える「意識のリノベーション」を進 め、従業員が納得しながら業務改善に取り組むボトムアップ方式だ。

男社会

伊達氏が活動する舞台は男社会。安倍政権は成長戦略の一環とし て、社会のあらゆる分野で20年までに女性が指導的地位に占める割合 を30%以上とする目標を掲げたが、労働政策研究・研修機構によると、 不動産業界の女性管理職割合(部長)は1.4%。医療・福祉の31.5%に 比べ、極端に低い。

「これからは女性自身が働いていく時代になる、と小さい時から母 に言われた」。家業への興味と同時に、両親の理解が相まって美和子氏 は学生のころから不動産業を志すようになった。父の森章氏は、「伊達 は事業意欲が旺盛で、能力がある。度胸もある」と話し、実力を見込ん でグループの中枢に引き上げたという。

ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)が昨年11月、都内で開催 した「ホテル・不動産投資フォーラム」。パネリストだった伊達氏の様 子を、司会のJLLグループの沢柳知彦氏はよく覚えている。約350人 の聴衆の前でホテル戦略について熱弁を振るい、沢柳氏は「大手ホテル のトップが人前で話すのはまれだ」と感心する。

アビームコンサルティングの松本康宏シニアマネージャーもホテル 事業での伊達氏の実績に注目し、「大手不動産業界で初の女性社長とな る可能性がある」と指摘。「今後、日本の大手企業の中でも女性のトッ プが出てこないといけない。伊達さんがモデルケースになると思う」と 語る。

粘り腰

森トラストグループは、デベロッパーの強みを生かし駅に近い都心 立地型のホテルが幾つかある。総事業費2000億円をかけた東京駅八重洲 側の超高層ビル「丸の内トラストシティ」もその一つ。伊達氏は東京都 や千代田区との2年越しの交渉で、ホテル建設にこぎ着けた。

同社は「国際都市にふさわしいホテルの整備」を訴え、特区として 容積率引き上げを求めたが、当時の行政は「ホテルは商業施設であり、 公共性のある設備ではない」との立場。同氏は、容積率引き上げの条件 を駅との接続性などハードインフラに限定せず、ホテルには街全体への 「経済波及効果もあり、ソフトインフラとして評価してほしい」と主張 した。

国際ビジネス街への脱皮が求められる東京駅周辺の在り方を熱心に 説き続け、05年に特区として容積率の900%から1300%への引き上げが 認められた。37階建てが可能となり、オフィスや商業施設に加えて上層 階に「シャングリ・ラ ホテル東京」が09年に開業した。特区認可にホ テルが評価された先駆けとなった。

外資ホテル

東京五輪の20年に訪日外国人2000万人という安倍政権の旗印の下、 昨年は過去最高の1340万人が日本を訪れた。割安ホテルを求める観光客 と同時に、ビジネス目的の企業幹部や富裕層も増加。しかし、その受け 皿の「ラグジュアリーホテルが日本にはなかった」と伊達氏は話す。シ ンガポールや香港などのように国際都市にふさわしいホテルの必要性を 強調し、今後も国際ブランドホテルの誘致を進める考え。

14年度の森トラストグループのホテル関係事業の営業収益は前期 比26%増で、3年連続のプラスの見込み。みずほ銀行産業調査部がまと めた国内ホテル大手5社の売上高(営業収益)予想5.4%を大きく上回 っている。改修や新規投資で04年からの10年間で約2000室を開発した が、このうち1200室が外資系ホテルだった。

ホテル投資の助言事業などを行うJLLホテルズ&ホスピタリティ の沢柳知彦氏は、「森トラストはホテルのブランドが幅広く、タイプも 様々だ。そこが他の不動産大手と大きく異なる点だ」と分析する。

伊達氏は社長を務めるH&Rにとどまらず、森トラストグループ全 体の経営も視野に入れ始めている。「森トラストの開発の在り方や方向 性は常に考えている。そういう意味では準備というか、わたしがやらな ければならないことは前に前に駒を進めていくという意味では考えてい る」。