「出口はまだ考える段階ではないというより 、考えること自体が悪夢だ」-。内海孚元財務官は日本銀行の異次元金 融緩和からの出口戦略についてこう指摘する。巨額の国債購入で膨らん だ日本銀行のバランスシートを民間部門が円滑に吸収する可能性は低い とみている。

内海氏(80)は15日のインタビューで、国債の買い入れ年限を長期 化している日銀は、国債需要が減る中で、償還による自然減だけでは資 金回収が追いつかないと言う。市場で「売らなくてはならない」が、金 利急騰の恐れがあるので「売れるわけがない」と語った。

対国内総生産(GDP)の債務比率が先進国の中で最も大きい日本 の財政健全化をめぐっては、一般歳出総額から国債の償還と利払い費を 除いた基礎的財政収支(PB)の黒字化だけでなく、国債費も含めた財 政赤字全体を解消していくべきだ、と内海氏は指摘する。「これが視野 に入らない限り、日銀の出口もない。予見可能な未来には考えられない 」と言う。

日銀の異次元緩和は、デフレ脱却を最優先課題とする安倍晋三内閣 の経済政策「アベノミクス」の一環。黒田東彦総裁は19日に米ミネソタ 州で講演し、同政策によって20年にわたる日本のデフレが終わりつつあ る状況を「山が動く瞬間」と表現した。

総裁は1日の参院予算委員会で、巨額の国債購入を伴う異次元緩和 は物価目標を達成するためで、漫然と継続するものではないと説明した 一方、8日の金融政策決定会合後の記者会見では出口戦略の議論は時期 尚早だと語った

マネタイゼーション

日銀が2%の物価目標を達成するためにマネタリーベースを積み増 す「量的・質的金融緩和」を導入してから2年が経った。昨年10月末に は、「デフレマインドの転換が遅延するリスクがある」として追加緩和 に踏み切り、長期国債買い入れは、政府の15年度市中発行分157.3兆 円に対し、年率で最大9割超に及ぶ勢いとなっている。買い入れの平均 残存年限は7-10年程度と最大で約3年延びた。

黒田総裁は15年度を中心とする期間に物価目標を達成する可能性が 高いとの見方を示すが、全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は昨年 5月を直近のピークに水準を切り下げている。今年2月の同指数は前年 比で消費増税の影響を除くとほぼ横ばいだった。ブルームバーグのエコ ノミスト調査では34人中22人が10月末までの追加緩和を予想している。

内海氏は「日銀はやるべきことをやっているのに、黒田総裁は気の 毒だ」と言う。量的・質的緩和は財政赤字を紙幣増刷で補てんする「マ ネタイゼーションではないかという海外からの批判に対し、反論してき た」が、政府による財政健全化の進捗(しんちょく)が鈍いため、徐々 に物を「言いづらくなってきた」と話す。

国債・借入金・国庫短期証券(TB)を合わせた国の債務残高は14 年度末に過去最大の1062.7兆円に達したと見込まれている。国際通貨基 金(IMF)は日本の政府債務残高が昨年、GDPの246.4%と過去最 高を更新し、少なくとも20年の251.6%まで増加傾向に歯止めが掛から ないと予想している。米国が100%ちょうど付近で安定するのと対照的 だ。

国の今年度一般会計予算では、税収が景気回復と消費増税で54.5兆 円と1991年度以来の水準を回復。新規国債発行額は36.9兆円と7年ぶり 、公債依存度も38.3%と8年ぶりの低水準だ。PB赤字の対GDPの比 率を半減する目標も達成する見通し。半面、国債費は債務残高の拡大を 背景に総額の24.3%に当たる23.5兆円となっている。

財務省の試算では、消費税率を17年4月に予定通り10%に引き上げ 、名目3%成長を持続的に達成できても、PB収支は20年度に8兆円の 赤字。国際公約でもある同年度の黒字化には一段の対策が必要だ。租税 と社会保障を合わせた国民負担率は今年度43.4%と過去最高を更新する 見通し。それでも、経済協力開発機構(OECD)によると、日本は12 年度に40.5%と33カ国で7番目に低かった。ドイツは52.2%、フランス は65.7%だった。

ピケティ氏に反論

OECDは15日公表した対日審査報告書で、日本の政府債務残高は 対GDPの比率が「未知の領域」にあると指摘。高水準の残高が及ぼす 悪影響は非常に低い金利により緩和されているが、信認が弱まれば大幅 な金利上昇を引き起こす恐れがあるとした。困難だが極めて重要な歳出 抑制とともに、大規模な歳入増加が不可欠だとし、消費税率を17年に予 定の10%からさらに高めるべきだとした。

昨年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられて以降、国内景 気は停滞している。今年10月の予定だった10%への再増税は17年4月に 延期された。安倍首相は、20年度のPB黒字化目標を堅持したが、先月 13日の衆院財務金融委員会では税率10%超への消費増税は想定していな いと言明した。

内海氏は今回のインタビューで、「経済成長は大事だが、それだけ では財政問題は解決しない」と指摘。日本は急速な高齢化と現役世代の 負担増、世界最悪の公的債務に直面しており、消費税率は「どう考えて も最低20%程度にしないとやっていけない」と述べた。

実際、2月の一般会計税収は前年同月比19.4%増の4兆2614億円。 うち、昨年4月に税率を3ポイント引き上げた消費税が51.9%も伸び、 全体の42.1%を占めた。所得税は6.8%増、法人税は2.4%増だった。

格差拡大を批判する著作「21世紀の資本」が世界的なベストセラー となったフランスの経済学者トマ・ピケティ氏は1月末に都内で、日本 は所得税の累進性を強化できると発言。インタビューでは「消費増税は 日本の格差を減らす上であまり良い手段ではないだろう」と述べた。

内海氏は、ピケティ氏は日本の実情を踏まえていないと指摘。「労 働人口の減少は所得人口の減少だ。そこにいくら増税しても限度がある 」と反論した。その上で「消費税なら高齢者も消費に応じて負担する。 社会保障の恩恵を受けるだけでなく、ある程度の負担も分かち合う仕組 みにしないと持続可能ではない」と話した。

関連ニュースと情報: PIMCO:日本の超長期債に期待、購入慎重論は「ナンセンス」 【クレジット市場】黒田緩和の限界説に現実味、市場縮小で札割れも 【クレジット市場】GPIFの売りに共済など追随、超長期債の重しに

記事に関する記者への問い合わせ先: 東京 野沢茂樹 +81-3-3201-3867 snozawa1@bloomberg.net; 東京 Chikako Mogi +81-3-3201-7237 cmogi@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先: Garfield Reynolds +61-2-9777-8695 greynolds1@bloomberg.net 崎浜秀磨, 山中英典, 青木勝

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE