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【クレジット市場】在日外銀が黒田氏支える、円キャリー6年ぶり活況

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金利がゼロに近い円を借りてより高利回りの ドル建てなどの資産に投資する円キャリー取引がリーマンショック直後 以来の活況を呈している。2%の物価目標を掲げる日本銀行の黒田東彦 総裁には朗報だ。

円キャリー取引動向を測る指標の一つとなる外国銀行の在日支店に よる本店向け貸出残高は、黒田総裁が金融機関向けの貸出増加支援制度 を拡充した2014年6月から直近の1月まで、前年比18%超の伸びが続 く。昨年11月には10兆2473億円と6年ぶりの高水準を記録した。円相場 は対ドルで先週、約7年8カ月ぶりの水準に下落。円キャリー取引でド ル資産を買った投資家の収益率は過去1年間で約20%に達する計算だ。

貸出増加支援制度は円高・デフレ対応に苦慮した白川方明総裁(当 時)が安倍晋三内閣の発足した12年12月に導入した。円安は輸出競争力 の向上や企業収益増、輸入インフレを通じた物価押し上げ要因となる。 消費者物価は事実上ゼロ%近くまで鈍化。エコノミストらは日銀が15年 度を中心とする期間に2%の物価目標を達成するには1ドル=140円の 円安が必要だとみている。

クレディ・スイス証券の塩野剛志エコノミストは、貸出増加支援制 度には「円キャリー取引を促す効果があり、円安基調に貢献している」 と指摘。「外銀は円資金を調達して本店向け貸し出しを増やしている。 邦銀の海外向け融資も一部は円キャリー取引的な面もあるのではない か」と読む。日米金融政策の方向性の違いと金利差を背景に円安・ドル 高のトレンドが続き、年末には127円と予想する。

外銀・円キャリーに狙い

日銀の統計によると、外銀の在日支店による本店向け貸出残高は今 年1月に前年比18.1%増の9兆7501億円。世界的な金融危機前の07年2 月に23兆1906億円と過去最高を記録した後、リーマンショックを経た10 年10月には3兆9031億円と超円高だった1995年5月以来の水準まで減っ た。12年9月からは2年5カ月連続で前年を上回っている。

外銀が抱える日銀当座預金残高は2月に過去最大の19兆5040億円。 1年で83.2%も増えた。地方銀行や信託銀行を大幅に上回り、都市銀 行、ゆうちょ銀行を含むその他に次いで大きい。外銀の当預は所要準備 額470億円の415倍に及ぶ。都銀は所要準備3兆6850億円に対し、当預 は71兆4680億円で19倍にとどまる。

貸出増加支援の資金供給は導入当初、金融機関が貸出増と同額ま で、日銀から0.1%の固定金利で最長4年間、借り入れできる仕組みだ った。対象先を「外銀の在日支店を含む」、対象となる貸し出しも「企 業・家計向けなら国内外や表示通貨を問わない」と明記した。

白川総裁は導入時の記者会見で、中央銀行として異例の「ファンド 向けや非居住者向け、邦銀海外店における貸し出しなども含めた」と説 明。「円建てで借り入れた資金を外貨に転換する動きが広がれば、円高 是正方向への資金の流れが強まる面もある」と指摘した。

「倍返し」で加速

同制度は13年6月に始まり、四半期ごとに実施。黒田総裁は14年2 月に金融機関への融資上限を貸出増加額の2倍までに拡充。同制度を通 じた資金供給が最終的に30兆円程度に膨らむとの見通しを示した。同年 6月に初めて適用すると、貸付額は過去最高の4兆9368億円と従来平均 の2.3倍に急増した。

日銀は1月、同制度の期限を1年延長するとともに、非取引先金融 機関が各々の系統中央期間を通じて利用できる枠組みを導入すると発表 した。資金供給残高は今月10日に18兆9773億円と1年前の3.7倍。16日 公表の3月分は4兆4000億円で、残高は22兆3454億円に膨らむ。すで に30兆円程度の約4分の3を達成。一方、外銀の円貸し出しは2月に前 年比11.5%減の1兆8945億円。7カ月連続で縮小している。

クレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは、米国 が9月に利上げを始める一方、日銀は10月末に追加緩和すると読む。 「円キャリー取引は昨年以上にやりやすい環境」にあり、円相場は対ド ルで年末に130円、16年末は138円まで下落すると予想。円安・ドル高は 「輸入インフレ圧力などを通じて日銀の物価目標達成に追い風に働くの は間違いない。黒田総裁にとってはありがたい話だ」と指摘する。

ドルが独歩高

日銀は2%の物価目標を2年程度で達成するため、マネタリーベー スを積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入。昨年10月末の 追加緩和で、増加ペースを年60兆-70兆円から約80兆円に高めた。資金 供給手段である長期国債買い入れオペは月6兆-8兆円から8兆-12兆 円に増額。政府が入札を通じて機関投資家などに販売する2015年度市中 発行額152.6兆円に対し、年率で最大9割超にも及ぶ計算だ。

金融政策予想に左右され、為替相場に影響する2年物国債利回りの 日米格差は昨年12月に77.7ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%) と10年4月以来の水準に拡大。今月6日も71.1bpまで開いた。市場関 係者は0.64%前後の米2年債が年末に1.40%に上昇するが、日本 は0.02%とほぼ横ばいを予想。日米金利差は138bpと2倍超に広がる 見通しだ。

主要6通貨に対する強弱を示すドル指数は13日に100.39と03年4月 以来の高値を付けた。利上げが近い米国とは対照的に、前例のない金融 緩和を背景に債券利回りが低下する国・地域が続出。ブルームバーグの 通貨指数によると、ドルは過去1年間で先進国通貨に対して約22%上昇 と最も強かった。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラ テジストは「ドル高基調が強いが、量的・質的緩和は円安要素だ」と指 摘する。「名目国内総生産(GDP)が480兆円程度しかないのに国債 保有を年80兆円も物価目標達成まで無期限で増やすと約束している」と 指摘。「為替市場は鮮度の高い情報に飛びつきがちだが、すぐに追加緩 和がなくても、円安圧力は容易なことではほぐれてこない」とみる。

統一地方選とG20

円の対ドル相場は日銀が異次元緩和を導入した13年に21%と79年以 来の下落率となり、追加緩和があった昨年も14%下げた。10日には122 円03銭と07年7月以来の安値を記録。市場関係者は今年末に125円、16 年は128円まで円安・ドル高が進むと予想する。

それでも、全国消費者物価指数(生鮮食品を除いたコアCPI)の 前年比上昇率は原油安を背景に1月に2.2%に鈍化した。昨年4月に実 施された消費増税の影響を除くと0.2%程度で、物価目標の10分の1に 過ぎない。10年物の固定利付国債と物価連動債の利回り格差(ブレーク イーブンレート、BEI)が示す市場の予想インフレ率は1月に底入れ したが、足元で1%前後にとどまる。

甘利明経済再生相は2月17日の記者会見で、円安は「現状ではプラ スの方が大きい」が、過度に進めば「経済ファンダメンタルズから離れ る」と述べた。本田悦朗内閣府参与は20日、円相場は「心地の良い」水 準で、追加緩和は必要ないと発言。内閣官房参与の浜田宏一・米エール 大名誉教授は25日、原油安を考慮すれば、物価目標の達成期間は3年程 度への延期が可能だと語った。

クレディ・アグリコル証の尾形氏は、円安けん制と取れる発言が目 立つのは「4月の統一地方選を控えて円安の恩恵が地方には浸透してい ないとの認識と、G20で通貨安競争が議論の俎上(そじょう)に乗りか けた影響がある」と読む。「黒田総裁の姿勢に変化はなく、米国内での ドル高懸念も一部に限られている」と指摘。「状況が一服すれば、円 安・ドル高傾向がまた強まってくる」とみている。

安定度が高い円安

黒田総裁は先月18日の記者会見で、円安はファンダメンタルズ(経 済の基礎的諸条件)を反映して安定して推移している限り「経済にマイ ナスになることはない」と言明。金融政策運営では「今、物価の基調に 変化がない中で、何か追加的なことをやる必要はない」が、「仮に物価 の基調に変化が生じて、物価安定目標の早期達成が難しくなるという事 態が生じた場合は、当然ちゅうちょなく調整する」と語った。

日銀は15年度を「中心とする期間」に消費者物価が2%程度に達す る可能性が高いとするが、ブルームバーグ・ニュースが5-11日にエコ ノミストらに聞いたところ、実現するとの回答は30人中3人しかいなか った。10月末までに追加緩和するとの見方は34人中23人を占めた。

三菱モルガン証の植野氏は「年末に125円まで円安が進むが、円キ ャリー取引などでオーバーシュートすれば130円もあり得る」と読む。 ただ、今の円安は「巻き戻しリスクもある円キャリー取引には依存せ ず、異次元緩和と実需の円売りに支えられて安定度が高い」と指摘。貿 易赤字と海外M&A(企業の合併・買収)ブーム、年金積立金管理運用 独立行政法人(GPIF)など公的年金勢の資産構成見直しに伴う外貨 建て資産買いを挙げた。

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