2011年の東日本大震災で町の多くを津波にさ らわれた岩手県陸前高田市。創業208年の醤油会社、八木澤商店も工場 を流され、社員1人が犠牲となった。河野通洋社長は「借金抱えて大丈 夫かな」と眠れない日が続いたが、昨年に自社生産を再開し、売上高は 震災前の7割に回復。4年目の今年は黒字が見込めるまでになった。

がれきの下から発見されたもろみを使い、昨年から「奇跡の醤(ひ しお)」を販売。再建が軌道に乗った背景には、インターネット上で全 国の人々から資金を集められるクラウドファンディング(CF)の支え がある。手続きに時間のかかる補助金よりも早く資金調達できた上、同 社長は「ファンド出資者が当社の顧客になってもらえた」と話し、食品 加工など地元業者相手だった震災前に比べ販路が大きく広がった。

陸前高田は1808人の犠牲者(不明含む)を出し、住民の転出も相次 いだため、人口は1万9300人余りと震災後16.7%減少。地元の市場が縮 小する中で、銀行にはないネットの「つなぐ力」が被災企業と日本各地 の消費者を結び付け、東北の被災地では八木澤商店も含め計38社が同じ クラウドファンドの下で再建を進めている。

東京商工リサーチの調査によると、東日本大震災に伴う企業倒産 は、取引先・仕入れ先被災による販路縮小など「間接被害型」が92.1% を占め、95年の阪神・淡路大震災(45.8%)と様相が異なる。同社情報 本部長の友田信男氏は、阪神・淡路は隣接の大阪経済圏を背景に復興し たのに対し、「東北経済は近隣同士の取引で成り立っており、互いに被 災して一挙に崩れた」として、復興には域外との連携が重要だと話す。

戸羽太市長は「まだまだ復興、自立というところまで行かない」と 話し、「得意分野を持っている人たちが被災地にご協力いただけるとあ りがたい」と、外部からの本格支援に期待している。

応援ファンド

同社を支えたファンド運営会社ミュージックセキュリティーズ (MS)の「セキュリテ被災地応援ファンド」は、ネット上で被災企業 の実情を紹介、出資を呼び掛けている。バンド経験者の小松真実社長が ミュージシャン支援のための金融手段として、00年に同社を立ち上げた が、震災を目の当たりにしてCFを復興に活用することを思い付いた。

一口1万円(手数料500円を除く)のうち5000円が出資で、残りは 寄付。出資には分配金が支払われ、商品や現地訪問など特典もあるが、 1万円が丸々返ってくる訳ではない。それでも資金が集まる理由につい て、同社長は「強い思いで地域に根差している会社が多いし、出資者は 利益目的よりもがんばる気持ちに共感している方が多い」と説明する。

復興の手助けをしたかったという飲食コンサルティングの子安大輔 さん(38)は、「顔の良く見えないところに寄付するよりも、はっきり と分かっているところに入れたかった」とし、八木澤商店と宮城県気仙 沼市の丸光製麺の2社に出資した。自らも丸光製麺のセミナーを開催、 出資者や顧客が一段と広がるきっかけになったという。

応援ファンド全体で10億8000万円(38社分)集まり、八木澤商店だ けで出資者は延べ4000人強に上る。同社は被災直後の11年4月からわず か4カ月でファンドを通じ5000万円調達。河野社長は「雇用維持しなが らの再開はスピード勝負」と早く調達できて助かったと話す。さらに同 年11月募集開始の追加ファンドで1億円を調達、工場を再建した。

雇用を守る

河野社長の脳裏には今でも、「3・11」の記憶が焼き付いていると いう。当時、公民館で幹部社員と経営計画作成の勉強会をやっていた時 に経験したことのない大きな揺れに襲われ、「津波が来る」と察知。社 に戻り全員を高台の神社に避難させた。しかし、消防団員の社員だけは 水門を閉めに行くと言ったきり、帰らぬ人となった。

「津波で家を流され、家族を失って、コミュニティー自体もない状 態で解雇されたら、絶望するだろう」。河野社長は歯を食いしばって 「全員の雇用を維持する」との思いで頑張ってきた。製造担当の社員も 駆り出して、東京まで飛び込み営業に走り回ったこともあるという。

研究用として釜石市水産技術センターに預けていたわずか4キロの もろみががれきの下から発見され、これを仕込み、昨年11月から「奇跡 の醤」として販売。「この味を忘れないでくれ」と昔の顧客が訴えてい たかつての八木澤商店の味を復活させた。ネット通販で全国の消費者に 受け入れられるようにドレッシングや味噌チーズケーキなど商品開発に も取り組み、個人向けの比率は震災前の2割から4割に増えた。

即断即決

同社の成功に刺激を受けて、市内のおかし工房木村屋も応援ファン ドを活用。被災直後に仮設店舗開設に向け、11年に国と県のグループ補 助金を申請したが、採択されず、木村昌之社長は八木澤商店の河野社長 の紹介を受け、朝一の新幹線で東京・丸の内のMSまで足を運んだ。

MSに補助金申請時の事業計画書を見せると、「知りたい情報は盛 り込まれていると言われ、その場でファンド立ち上げが決まった」と木 村社長。補助金の使途は、機械なら新品などと条件が付くが、同ファン ドは安くて手入れの行き届いた中古設備でも承諾してくれた。

国の震災復興関連費用は5年間で25兆円に上るが、復興庁の資料に よると、自治体との調整難航から13年度予算の消化率は65%にとどまっ ている。

木村社長はファンド資金を元手に機械を購入。応援ファンドを通じ て全国向けに原料全て「メイドイン岩手」のバウムクーヘンを販売し、 大企業から「株主総会の手土産に」と大量発注を受けたという。これま でに3人新規採用し、今後も追加で10人雇う予定だ。再申請でようやく 補助金も獲得し、3月にカフェ併設の新店舗の出店を決定した。

資本性資金

応援ファンドの提供資金には、被災企業の財務悪化に歯止めを掛け る機能もある。MSの小松社長が金融庁に働き掛けたこともあり、同庁 は11年11月から金融検査マニュアルで、被災企業の再建支援に向け、借 入金の一部を資本とみなす条件を緩和した。

八木澤商店は被災後、債務超過に陥ったが、マニュアル改定後に募 集した追加ファンド1億円の一部が資本とみなされ、国の機関からの金 融支援もあって、債務超過から脱却。河野社長は「おかげで通常の運転 資金の融資を震災前とあまり変わらない条件で受けている」と話す。ま た、銀行の新規融資も引き出し、工場建設につながった。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの中田雄介副主任研究員は CFについて、銀行にはない顧客開拓機能があり、投資利益を追求する ファンドとも異なると指摘。「東日本大震災を機に急速に台頭した」と し、「規模は小さくても復興に一定の貢献をしている」と評価する。

復興・ふるさと支援

商工リサーチの友田氏は、「東北の被災企業が再建して行くには域 外や海外への展開を積極的に考える必要がある」とし、CFは「復興に 役立つ一つの手法であり、政府も後押しするべきだ」と話している。

政府は「ふるさと投資」の連絡会議を昨年10月に設立し、個人投資 家の資金で地域活性化を促進する案を検討。三菱UFJリサーチの中田 氏は、助成金に頼らずに地域課題を解決する手段としてCFに関心を持 つ自治体が増えていると語った。

--取材協力:持田譲二.

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