【コラム】アベノミクス2.0、首相動かすのは黒田氏-ペセック

週末の総選挙で勝利を収めた安倍晋 三首相が「アベノミクス」の第2幕でどのような政策を遂行するかに世 界は注目しているが、私の関心は別のところにある。日本銀行の黒田東 彦総裁だ。結局のところ、安倍首相のデフレ脱却への取り組みの成果は ここまでのところ恐らく90%が日銀総裁の手柄だろう。ここから、日本 が必要としている実質的な構造改革を安倍首相が進めていくかどうか は、他の誰よりも黒田総裁が鍵を握る。

安倍首相の選挙での勝利は第一印象ほどは圧倒的なものでない。首 相が総裁を務める自民党と連立を組む公明党で衆議院での議席3分の2 を維持したものの、投票率は戦後最低を更新し、自民党は選挙公示前よ りわずながら議席を減らす結果に終わった。いつものことだが、与党の 政治家は政治的に難しい改革についてはあまり語らず、有権者に向けた 手厚い支出を前面に打ち出す。

アナリストらは来年の早い時期に新たな財政政策が相次ぎ発表され ると予想している。黒田総裁もまた、19日まで2日間の日程で開催され る日銀の政策委員会・金融政策決定会合でさらに一歩進めるよう求める 圧力に直面することになる。薬物依存者が次の注射を待ち望むように、 市場は黒田総裁に2013年4月の異次元緩和と今年10月31日のハロウィー ンに打ち出した意表を突く追加緩和に勝るような対策を期待している。

黒田総裁は今こそ正反対の行動を取るときだ。総裁は自らの銃器を 収め、安倍首相に「第3の矢」で構造改革を推し進め政治の責任を果た すよう促すべきだ。黒田総裁はこれまで忠実かつ用意周到な中銀総裁 で、恐らくはその度が過ぎていた。

負託

米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)との5月のインタ ビューで、安倍首相の足取りの鈍さに若干のいら立ちをわずかに見せた 以外、黒田総裁は口を閉ざしている。同紙とのインタビューで総裁は、 実行が重要で、行動は迅速であるべきだと述べている。しかし、黒田総 裁は数十年前のボルカー米連邦準備制度理事会(FRB)議長や現在の ラジャン・インド準備銀行(中央銀行)総裁に至る中銀当局者が担って きた金融政策を通じて率直に状況を説明するという役割を演じる責任が ある。

黒田総裁が19日に記者団に対し明言すべきは、「選挙が終わった 今、国民の負託を受けた安倍首相が経済における規制緩和を進める番 だ」ということだ。「今のところ、日銀はできることは全てやっている し、アベノミクスを成功させるために行動するつもりだ」と語るべき だ。

この2年弱、大幅な上昇相場を享受してきた株式トレーダーたち は、中銀からのそうした物言いを嫌うだろう。しかし、黒田総裁のよう な巧みな戦術を持つ賢明なエコノミストであれば、安倍首相がイノベー ション(技術革新)を促し、関税を引き下げ、官僚組織を改めるなどの 改革を断行しなければ、今回の日本の実験は大きな失敗に終わるという ことを承知していなければならない。日本国債の利回りが上昇し、格付 け会社が日本に襲い掛かれば、その責任は黒田総裁に正面から降りかか ることになろう。

HSBCのストラテジスト、デービッド・ブルーム、ポール・マケ ル両氏は「危険な年」と題した最近のリポートで、安倍首相が日銀に一 段の行動を迫れば、円相場の下落が秩序を失った急速なものになるとい うシナリオは絵空事でなくなる」と指摘した。追加刺激策へと向かう流 れが見られることに両氏は懸念を示し、日本政府が公然とマネタイゼー ションへの道を突き進む兆しがあれば円相場は極めて悪い反応を示すだ ろうと分析した。

わな

投資の世界では、黒田総裁は全てのルールを打ち破る「一匹オオカ ミ」と見られている。しかし実際には黒田総裁は、量的緩和の先駆者で ある速水優元日銀総裁と同じわなに陥っている。当時と同様、経済を再 活性化させる責任を負い、日銀は意図せず、既得権の打破に及び腰の理 由を探すことに懸命な政治家のつえのような存在となっている。

黒田総裁のここまでの政策は本当に大胆なものだ。しかし、その日 銀の政策が安倍政権による責任回避を許している。アベノミクスが生命 維持装置を外せるようになれば、その政策はやめなければならない。黒 田総裁は19日、安倍首相を肘でつつき始めるべきだ。なすべき政策を推 進するために行動せよと。(ウィリアム・ペセック)

(ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。コラ ムの内容は同氏自身の見解です。同氏のツイッターは@williampese)

原文:BOJ’s Kuroda Should Turn Up Heat on Abenomics 2.0 (抜 粋)

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