GPIF三谷理事長:内外株式の一体運用検討へ、トヨタかGMか

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年金積立金管理運用独立行政法人( GPIF)の三谷隆博理事長は、株式投資で国内外の区分を設けず、運 用資金を柔軟に配分できる仕組みを検討する方針だ。企業の事業展開や 競争が世界中に広がる中で、投資収益を向上させるためだ。

三谷理事長(65)は3日のインタビューで、株式のグローバル運用 的な手法は「これからの検討課題」であり「そのうち始めようかと思っ ている」と発言。現在は日本株と外国株の委託先は全く別だが、例えば 運用担当者が1000億円の預託資金を内外の株式にどれくらいずつ投じる か「裁量でウエートを変えられる」枠組みだと説明した。

日本株か外国株のどちらかに絞らず「グローバル企業を相手にグロ ーバルに運用する」ファンドが「段々増えてきている」とも指摘。自動 車産業を例に挙げ、「トヨタか日産か」だけでなく「トヨタかGMかフ ォルクスワーゲンか」と内外無差別に運用したほうが投資効率や収益が 上がるなら「前向きに考えても良い」と述べた。

世界の主要年金基金の株式一体運用の例では、全米最大の公的年金 、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)が運用資産2950億 ドルの51%程度を米国内外の上場株式に投じている。GPIFは政府・ 日銀が経済活性化と2%インフレを目指す中、将来の金利上昇で評価損 が生じる恐れのある国内債券偏重の見直しやリスク資産の拡大で収益向 上を求める圧力に直面。新たな資産構成を10月末に公表したばかりだ。

委託先の入れ替え

三谷理事長は内外株式の一体運用を導入する場合は、運用委託先を 見直す際や、現在の4資産とは別に「グローバル・インベストメント」 を新設する選択肢があり得ると指摘。「システム的な対応も要る」と述 べた。GPIFは委託先の見直しを原則3年ごとに実施。国内株の委託 先は今年4月、外株アクティブ運用は昨年9月に入れ替えを発表した。 3月末時点の委託先は国内株が24ファンド、外株は21ファンドだ。

GPIFは新たな資産構成で国内債の目標値を従来の60%から35% に下げる一方、内外の株式は12%ずつから25%ずつに、外国債券も11% から15%へ引き上げた。「国内株が外株を下回らない」との制約条件は 撤廃した。しかし、世界の株式時価総額は約65.3兆ドル。米国が約24.4 兆ドルと最も大きく、日本は約4.5兆ドルで6.9%程度に過ぎない。先月 27日には中国に抜かれ、世界3位に転落した。

GPIFの運用委員を4月まで4年間務めていた慶応大学ビジネス スクールの小幡績准教授は5月のインタビューで、同法人はホームバイ アス(自国資産選好)が強すぎで、日本株は内外合計の「せいぜい1割 」が妥当だと発言。内外株式の区分を設けず、機動的に資金配分すべき だとした。安倍晋三首相が株価支援のために資産構成見直しを利用して いると疑念を持たれてもやむを得ないと指摘した。

資産構成

三谷理事長も1日に共同通信とのインタビューで、GPIF改革と アベノミクス成功を関連づける安倍首相らの発言について「政治に負け て見直したような誤解を受ける。注意してほしい」とくぎを刺した。

3日のインタビューでは、新たな資産構成はホームバイアスも考慮 せず、4資産の相関係数や期待利回りなどに基づき「純粋に計算した結 果で、意図的なものはない」と説明。内外株式の時価総額を勘案した資 産構成は「これからの課題だ」と述べた。

GPIFの9月末の保有実勢は、国内株が23兆8635億円で全体の

18.23%、外株が22兆7828億円で17.41%だった。仮に資産額が変わらな ければ、目標値まで値上がり分や為替損益も含めて8兆8577億円、9兆 9384億円の増加余地があることになる。

天地の違い

三谷理事長は「デフレはもう脱却しつつある」とみている。物価と 賃金が上昇しているのに金利は超低位とあって「国内債は実質的には逆 ざやだ。保有資産の実質価値がどんどん減っていく」と言う。賃金上昇 率を1.7ポイント上回る運用利回り目標は、賃金の下落で低収益でも達 成できたデフレ局面とは「天地の違いだ」と述べ、資産構成見直しの意 義を説明した。

三谷理事長によれば、GPIFは新たな資産構成の発表前に「大ま かな形が見えてきた段階」で保有資産の入れ替えを始め、現在も継続中 だ。ただ、リスク資産の市場を荒らさず、高値つかみを避けて買い増す ため、日本銀行による巨額の国債買い入れという好機にもかかわらず、 国内債の売却に「ブレーキをかけることもある」と言う。短期資産は利 回りがほぼゼロなので、待機資金を置くとしても「10%も20%も持つ」 のは難しいと語った。

TOPIXはGPIFの資産構成見直しと日銀の追加金融緩和があ った10月31日から約8%上昇。円相場は昨日、対ドルで2007年7月以来 初めて120円台を付けた。長期金利の指標となる新発10年物国債利回り は先週28日に0.415%と昨年4月以来の水準に低下した。

リスク「当然大きい」

GPIFは今回の資産構成見直しで、経済・金融環境が長期的な均 衡状態に至るまでの今後10年間は金利が大幅に上昇するという年金財政 検証の前提を踏まえ、運用目標を達成できないリスクを推計。全額を国 内債で運用すると約25年後に所定の積立金を確保するのはほぼ不可能だ とした。

三谷理事長は、価格の振れ幅が大きい株式の割合を高めたため、資 産全体の価格変動リスクは「当然大きくなる」と指摘。標準偏差は12.8 %だが、旧資産構成について今回の経済前提で計算すると7%程度にと どまると説明した。ただ、長期的には経済成長に見合って「相応のプラ スが残る」と言う。賃金上昇率を差し引いた期待収益率は経済中位ケー スで国内債がマイナス0.2%、国内株が3.2%、外株が3.6%だ。

経済環境や金融政策が正常化に向かう移行期には特殊な金利上昇リ スクも大きいと、三谷理事長は指摘した。長期的な均衡状態なら債券の 価格変動リスクは小さいが、今は異常な超低金利で先行きは上がると考 えれば、株価の上下動とは異なり「価格は下がるばかりで、戻ってこな い。これはリスクそのものだ」と述べた。一方、超低金利のままで資産 の実質価値が目減りしていくのもリスクだと語った。

塩崎恭久厚生労働相は10月31日、GPIFの使命を記した「中期目 標」を変更。年金財政の安定に貢献するため、①名目賃金上昇率を1.7 ポイント上回る運用利回りを最低限のリスクで確保すること②新たな資 産構成はフォワードルッキングなリスク分析を踏まえて長期的な観点か ら設定すること③名目賃金上昇率からの下振れリスクが全額を国内債で 運用した場合を超えないこと-を指示した。

厚労省社会保障審議会の年金部会やGPIFのガバナンス(組織統 治)改革を検討する作業部会では先月以降、GPIFが取り得るリスク の管理が焦点の1つになっている。三谷理事長は今回のインタビューで 、ガバナンス改革の議論を歓迎しつつも、バリュー・アット・リスク( VaR)などによる資産管理は「調整する金額が馬鹿でかいので、なか なか難しい」と話した。

GPIFの資産運用で「最大のリスクは必要な積立金を下回ってし まうことだ」とも述べた。「ある程度の持続的成長とほどほどのインフ レが実現している社会では、株価は振れは大きいが、長い目で見れば上 がっていくものだ」と説明。株式投資には「必ずそれなりのメリットは ある。そんなに一方的に怖がるものではない」と語った。

三谷理事長は「何が起こるか分からない」市場で運用するGPIF には独任制より合議制が適していると指摘。「裁判所でも日銀でも、そ れなりの正しい結論を出そうと努めている組織は合議制を採用している 」と述べた。

将来の合議制への移行を視野に、三谷理事長と来年1月に理事と最 高投資責任者(CIO)に就任する英プライベートエクイティ(未公開 株)投資会社コラー・キャピタルの水野弘道パートナーほか数人による 「投資委員会」の設立を検討していると言う。会合は週1回程度開く可 能性があるとしている。抜本的な組織再編には法改正が必要だが「今の 法律でも出来ることをやっていくということだ」と語った。

三谷氏はGPIFの理事長に10年4月に就任し、来年3月末で任期 満了となる。今回のインタビューでは、巨額の積立金運用は「面白いが なかなか責任が重い」と話していた。任命権は厚労大臣だと断った上で 「私としては予定通り退任したい」と言う。

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