マレーシアの妊婦事故死で露呈-エアバッグ危機の世界拡散

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「マミー、車!」。常日頃、愛情を 込めて妻を「マミー」と呼んでいたウェルヘルモ・ロドリゲス・カイド さん(41)はホンダ「シティ」の助手席から運転席の妻に叫んだ。その 直後、シティはサワラク州シブの交差点で別の車と衝突。凄い勢いで膨 らんだエアバッグの強打でウェルヘルモさんは意識を失った。

タカタが製造した運転席側のエアバッグのインフレーター(膨張装 置)は不具合を起こし破裂。飛散した1インチ(約2.5センチメート ル)幅の金属片が妻のラオ・スクレさん(43)の首を直撃した。

事故が起こった7月27日の時点で妊娠8カ月半だったラオさんは病 院に搬送中に死亡。世界の自動車産業を揺るがしているエアバッグ問題 で米国外の最初の犠牲者となった。米国内では4件の死亡事故およ び139件の負傷事故がエアバッグ不具合に関係していたと指摘されてい る。

このマレーシアの事故は自動車業界のグローバル化に伴い、自動車 の安全性も世界的な問題になっているという現実を浮き彫りにした。そ して自動車安全性を管轄する連邦や州の当局間の連携やリコール(無料 の回収・修理)制度が整い、メーカーの責任を追及する弁護士が数多く いる米国と異なり、アジアの運転者はリスクにさらされている。アジア では自動車安全性に関する法制度の整備が遅れており、当局も死亡事故 につながりかねない欠陥のドライバーへの通知を怠るケースが多い。

アジアへの警鐘

JSCオートモーティブ・コンサルティングのマネジングディレク ター、ヨッヒェン・シーベルト氏は「この事故はマレーシアや他のアジ ア諸国への警鐘と言える」と述べ、「マレーシアを含むアジア諸国の消 費者は自分の車は大丈夫かホンダに問い合わせることが予想される。そ うなれば政府は乗用車の安全規制の法制化プロセスを急がざるを得ない だろう」と指摘した。

タカタの高田重久会長は2日、エアバッグに関する今後の対応を説 明する声明を発表。その中で、「タカタはエアバッグ・インフレーター の破損に係る事故で死亡・負傷された方が出たことを大変遺憾に思って いる」と述べた。同社広報の松本英之氏は3日、マレーシアでの事故に ついてはコメントを控えた。

ウェルヘルモさんの中古の2003年製ホンダ・シティは、タカタ製エ アバッグの不具合を理由に世界で起こされたリコールの対象車両1300万 台に含まれていなかった。ホンダの広報担当、加地耕祐氏は電話インタ ビューで、マレーシアでの死亡事故調査後の11月に同社は17万台の追加 リコールを実施したと説明した。ホンダはリコール対象車の所有者に郵 便ないし電話で通知するとともに、ウェブサイトにリコール情報を掲載 した。

公的機関は周知せず

米国では運輸省道路交通安全局(NHTSA)がエアバッグ問題で 数回警告を発し、自動車メーカー各社にリコールを急ぐよう求めた。し かしそれでもNHTSAの対応が不十分だとして一部議員から批判され ている。

一方、マレーシア警察はエアバッグ不具合の通知をホンダとタカタ に委ねた。同国連邦交通警察のモフド・フアド・アブドゥル・ラティフ 氏によれば、公的機関による不具合情報の周知は予定していない。

ホンダはラオさんと胎児の死亡につながったマレーシアでの事故を 8月に知ったにもかかわらず、11月13日まで公表しなかった。

アジアでタカタ製エアバッグの不具合が一般に通知されなければ、 特にリスクが増大する。アジアの途上国のほとんどは、不具合が特に発 生しやすいとされる多湿地域にあるからだ。

また米国ではエアバッグのリコールにより自動車の価値が低下した としてタカタに対しては少なくとも50件の集団訴訟が起こされている が、アジアの国の多くでは集団訴訟が制限されている。

原題:Pregnant Woman’s Death in Malaysia Reveals Global Airbag Crisis(抜粋)

--取材協力:Siddharth Philip、Craig Trudell、Ma Jie、Margaret Cronin Fisk、堀江政嗣、Andrea Tan、Anuchit Nguyen.

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