極上のすしを意外な場所で静かに堪能、成田空港のゲート前店

成田国際空港第1ターミナル、ソウ ルへの乗り継ぎ便のゲートに向かう途中、「すし」の2文字が目に入っ た。

空港のすしには目がない。機内食の代わりに空港でパック入りのべ たべたしたサンドイッチを食べるくらいなら死んだ方がましだと思うほ どだが、空港のすしにはいいイメージしかない。しかし成田でこの経験 をしてからは、成田以外の空港ではもうすしを食べないことに決めた。

この謎めいたすし屋は右にカウンター席、左には滑走路を眺められ る窓際に席が並ぶ。外国人も日本人も、敬意に近いほどの満足感に浸り ながら静かにすしをつまんでいる。極上の一品に遭遇したのかもしれな いという思いで胸が高鳴る。

メニューに「すし京辰」と店の名前があった。きょうのお薦めは 「天然本マグロ」。その下には「築地で最高級の仲卸、石宮より入荷の 和歌山産」とある。宣伝文句としては極めて大胆だ。

私の父は1980年代にメーン州ポートランドで水産会社を営んでい た。何度か釣った本マグロを見せてもらったが、床に横たわる巨大なマ グロの、死んでもなお美しいその姿に目を奪われたのを覚えている。父 にとって最大の夢は、そうしたマグロが東京の築地魚市場で売られるこ とだった。築地のマグロは世界一とみなされているからだ。2013年に1 本が1億5540万円で競り落とされたという記録がある。

すしネタ偽装、夜明け前の築地

13年に米国のレストランではすしネタの偽装がまん延しているとい う調査結果を知ってから、あまりすしを食べなくなった。滑走路を見な がらつまむここのすしは、本当に世界の一級品なのだろうか。

築地のすしを一度だけ食べたことがあった。1999年、東京の投資会 社で働く身内に連れられて築地市場に着いたのは朝の4時半ごろ、夜明 け前だった。航空機を格納できるほど巨大な市場を、黒銀色に輝く大き なマグロや数え切れないほどの海の生き物を見て回った後、ビールとす しで朝食を取った。今でもあの時の新鮮なマグロは、世界中のすしを食 べるときのうまさの基準になっている。

京辰のメニューに「築地」という言葉を見た瞬間、これらの記憶が 一気によみがえった。宣伝文句に偽りがない可能性に賭けて注文したに ぎりのコースには、マグロが入っていた。入口で垣間見た静かなる満足 感を理解できた。サーモンは弾力と柔らかさの間に位置する完璧なポイ ントを突き、桃一切れのような口どけだった。ウニはこの世のものとは 思えないような奥深さで舌に絡みつく。そしてマグロはこれこそ本来の 味というものを思い出させてくれる。これまでに慣れてしまった舌触り の悪い味気無さはみじんも感じさせない。

忘れていた本物の味

単に魚を味わうのではなく、その命の一部を味わうかのごとく、海 水魚特有のほのかな甘さを堪能する。言葉では言い表せないうまさと舌 触り、酢飯。本物が教えてくれる基本に心が躍る。今まで月並みなすし ばかりを食べてきたから、私は本来のすしのおいしさを忘れていたの だ。

すしネタの代表格であるマグロは乱獲の犠牲になっている。ピュ ー・エンバイロンメント・グループのリポートによると、マグロの生息 数は2000年以降96%も減っている。すしネタ偽装スキャンダルは、後先 も考えずに食べ尽くそうとするわれわれの欲が招いたも同然だ。

だから、ささやかな誇りを持って自分で行動したい。海を守り、イ ンチキなすしネタをつかまされないよう、私と一緒に誓わないか。もう 極上のすししか食べませんと-。

原題:Extraordinary Sushi, Unexpected Place: The Airport Food Court(抜粋)

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