年金積立金管理運用独立行政法人( GPIF)は、安倍晋三首相が構造改革の断行などで本格的な経済活性 化に成功する見通しが強まれば、国内株式の運用方法について、買い増 しの強化や乖離(かいり)許容幅の中での保有比率上昇を容認する可能 性がある。

清水時彦調査室長は26日のインタビューで、アベノミクスには構造 改革や日本自体が変わるのではないかとの市場の期待があることを「き ちんと理解、留意しておかなくてはならない」と発言。逆張りが有効な 「ボックス相場における投資行動とは別のコミットの仕方が出てくる。 特に日本株をどう見るのか、フォーカスしていくべき点だ」と語った。

GPIFによる過去最大の資産構成見直しは先月末に公表したばか りだが、今後も「少なくとも1年に1回はきちんと検証する必要がある 」と言い、さらなる資産構成の見直しも必要に応じ、あり得ると説明。 経済・金融情勢や市場に大きな影響を及ぼしかねない出来事があれば、 1年という目安にこだわらず、随時検証する見通しを示した。

TOPIXは第2次安倍内閣の発足につながった前回の衆院解散か らの2年余りで倍近くに上昇している。日本銀行の黒田東彦総裁が大規 模な追加金融緩和を打ち出し、GPIFが資産構成の見直しを発表した 先月末以降は上昇相場に弾みが付き、25日に2008年6月以来の高値を更 新した。それでも日経平均株価は1989年末に付けた最高値3万8957円44 銭の半値未満だ。新発10年物国債の335回債利回りは0.42%と、新発債 としては昨年4月5日以来の低水準となっている。

政府・日銀が経済活性化とインフレ上昇を目指す中、GPIFは将 来の金利上昇で評価損が生じる恐れのある国内債券偏重の見直しやリス ク資産の拡大による収益向上の一環として、内外の株式と債券が半分ず つで、国内資産が6割・外貨建て資産が4割という分散型の資産構成に 変えた。国内株比率の上限は従来の18%から34%に高めた。

機動的な運用も視野に

清水氏は、巨額の資産入れ替えには時間がかかるが、内外株式・債 券の保有比率は「基本的には目標値に近づけていく。乖離許容幅には入 れないといけない」と言明。目標値で運用した場合の収益が自己評価の 基準になると説明した。

ただ、塩崎恭久厚生労働相から認可を受けた今回の資産構成見直し には、確度が高い見通しに限るが、乖離許容幅の範囲内での「機動的な 運用という新たなコンテキストが出てきた」とも指摘。目標値とは異な る資産構成でより高い収益を同じリスクで、同じ収益をより低いリスク で取れる場合には、機動的な運用が「可能性としては視野に入ってくる 」と話した。

清水氏は、機動的な運用の実施には「体制の整備が必要だ」と言い 、専門的知識や経験が豊富な人材の拡充などが前提であることを示唆し た。あらかじめ定めた資産構成を意図的に変えた場合の運用成績が上回 る確率が低いとの知見についても「きちんと研究しないといけない」と 語った。

オルタナ5%の根拠

GPIFは新たな基本ポートフォリオで国内債の目標値を従来の60 %から35%に下げる一方、内外の株式は12%から25%に、外国債券も11 %から15%へそれぞれ引き上げた。5%だった短期資産の区分は廃止し た半面、まだ実績公表のないインフラ投資やプライベートエクイティ( PE)、不動産などは全体の5%を上限としたオルタナティブ(代替) 投資と定義し、案件の特性に応じて該当する既存の資産に区分する。

清水氏は、新基本ポートフォリオは「賃金上昇率を1.7ポイント上 回る」運用目標の根拠となった「経済中位ケース」から、市場が示唆す る将来の金利水準を前提とする場合まで対応できる「全天候型」だと述 べた。足元では超低金利だが、将来は長期金利が前者で3.9%、後者で も2.8%に上がる想定だと指摘。例えば5年後に金利が上昇してから資 産構成を見直せば、国内債の目標値は「自然に高くなる」と語った。

新設したオルタナティブ資産の比率の根拠については、GPIFの 外株保有額が全世界の対象資産の約0.5%で、新たな基本ポートフォリ オでは1%程度になると指摘。同比率を全世界のオルタナティブ市場規 模に当てはめると約6兆円となるため、運用資産の5%程度にしたと説 明した。

新たな目標値からの乖離許容幅は、国内債が従来の上下8%ずつか ら同10%ずつに、国内株が同6%ずつから同9%ずつに拡大した。外株 も同5%ずつから8%ずつに拡大したものの、外債は同5%ずつから4 %ずつに縮小した。また、保有資産の大規模な入れ替えが市場に悪影響 を及ぼさないよう、移行期間や期限は設けず、乖離許容幅からの超過を 容認する方針だ。

清水氏は、目標値への到達時期についてはコメントを控えた。GP IFは「市場との対話」で金融機関や企業、家計に働きかける日銀とは 立場が異なると指摘。手の内を事前に明かしてしまうのは「運用会社と して賢明ではない」と述べ、被保険者の利益が最優先だと語った。

区分廃止となった短期資産は、年金特別会計も含めた積立金の一部 だと言明した。内外の株式・債券による運用で、短期資産も含めた積立 金全体の収益を「賃金上昇率を1.7ポイント上回る」水準に保たなくて はならないと指摘。年金財政への拠出金確保と運用効率の向上を両立さ せつつ、短期資産は極力抑える方針だと話した。

清水氏は、短期資産をめぐっては川瀬隆弘理事長の下で米沢康博早 稲田大学大学院教授が前回、運用委員長を務めていた5年前の見直しで 区分撤廃の議論が進んでいたと説明。しかし、民主党への政権交代を受 け、凍結が決定されるなど、「政権交代の影響で変えられなかった」と 振り返った。

GPIFの資産構成見直しは海外投資家の注目を集めたが「始まり の始まり」に過ぎず、焦点は企業統治(ガバナンス)だと、清水氏は指 摘。日本企業が収益力の持続的な向上に努め、長期的な「日本買い」に つながることが重要だと語った。年金運用では受給者の利益以外の「他 事考慮」は禁じられているが、GPIFの長期的な収益追求は結果的に 日本経済の活性化などにも貢献し得るとの見方を示した。

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