食べログ:書き込みでレストラン業界揺さぶる-透明性か信頼か

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日本最大のレストラン評価サイト、 食べログは日本の飲食店業界に一石を投じた。消費者目線の書き込みで メニューが変わり、店舗の死活問題になることさえある。

カカクコム傘下の食べログサイトには全国約80万店に関する590万 件以上の口コミが書き込まれている。食べログは日本の外食シーンに前 例のない透明性を持ち込んだ。同時にシェフやレストランオーナーらの 批判の的にもなり、投稿がフェアでない、情報が不正確、さらには日本 の食文化を損なうといった声が寄せられているという。

東京都文京区でコーヒー店、エスプレッソファクトリーを営む鳴海 裕店長は「無責任な投稿は便所の落書きと同じようなもの」と述べた。 同氏は、食べログは「影響力に対する責任を取っていない」と話す。

これについてカカクコムの田中実社長は、一部のレストランオーナ ーにすれば利用客から直接寄せられるフィードバックはインターネット 時代以前になかったもので、慣れていないのだとインタビューで述べ た。「ユーザーの声を聞かざるを得ない状況が初めて生じており、それ に非常に困惑しているのだと思う」と話した。

食べログは、こうした批判にもかかわらず好業績を維持し、カカク コムの一番の成長エンジンとなっている。7-9月期の食べログの売上 高は前年同期比79%増の31億円と過去最高を記録した。カカクコム全体 の売り上げが26%増だったことと比べると、その成長力の大きさが際立 っている。カカクコムの株価は昨年2倍強上昇したが、今年これまで は3.6%下落している。

成長エンジン

田中社長は銀行勤務を経て2002年にカカクコム取締役就任。06年に 社長に就任してからこれまでに同社時価総額を7倍の3831億円まで増大 させた。

食べログの成長の原動力となっているのがレストラン向けの有料サ ービスだ。クレディ・スイス証券の中安祐貴アナリストによれば食べロ グの売上高のほぼ70%を占めているという。

9月現在、食べログの店舗向けサービスの有料会員となっているレ ストランは3万7000店で、1年前の2倍近くに増えているという。この サービスは月額2万5000円からで、標準検索における露出アップや、店 舗紹介ページの一部を自由に編集することもできるようになる。

イェルプからの買収提案

食べログが台頭したことで、年間23兆9000億円という日本の外食市 場を舞台に追撃するライバルも増えつつある。4月には米国で同様のサ ービスを提供しているイェルプが東京と大阪に的を絞った日本語サイト を開設し、日本市場に乗り込んできた。田中社長によれば、イェルプは 昨年、食べログへの買収提案が不調に終わった後で独自に日本事業を始 めたという。イェルプの広報担当、クリステン・タイタス氏はコメント を避けた。

食べログの国内ライバル、ぐるなびはこのほど、米トリップアドバ イザーと業務提携することで基本合意した。相互にウェブサイトをリン クすることにより、トリップアドバイザーの利用者が米国から予約する ことが可能になった。ぐるなびは国内約58万5000店の情報を掲載してい る。

また、東京のベンチャーが運営する、Rettyは食べログと違っ て、レストラン評価を書きこむ人には身元を明示することを義務付けて おり、責任ある書き込みを売りに会員数を伸ばしている。10月末時点で 月間利用者数が400万人を超え、前年比で5倍になっている。

個性より万人受け

しかし、一部オーナーからはユーザー主導の食べログの書き込みは 必ずしも良いことではないといった声も聞かれる。中藤ももこさんは両 親が東京・表参道で経営するダイニングバー「MOMO(モモ)」を手 伝っている。当初は食べログのそうしたサービスを受け入れて会員にな ったが、良いことよりもダメージになることが多いとだんだん感じるよ うになったという。

MOMOはオムライスを看板料理に20年以上営業を続けているが、 食べログに登場してからは新規顧客が増えた半面、常連の客足が遠のい たという。中藤さんは、食べログを見て来る客のおよそ80%は常連にな ってくれないため、店の個性を強めたメニューよりは幅広く万人受けす るものに力を入れるようになると話した。

また、いつも監視されているようで、悪い評判を書かれるのではな いかという不安が店員をぴりぴりさせたと中藤さんは言う。

インターネットや食べログが登場するまでは、レストラン経営はも っと楽しいものだったと中藤さんは振り返る。悪い書き込みに対する恐 怖心から完璧なサービスを提供しなければならないという日本人的メン タリティーに陥ったり、非現実的な期待につながったり、ストレスや腹 を立てたりする結果になると話す。

書き込みへの恐怖

ある時、MOMOについて古い情報が掲載されていて、それを食べ ログに削除してもらうのに中藤さんは数週間がかりで写真やビデオを盛 り込んだパワーポイント資料を作って示す必要があったという。

9月に豊島区内の店を閉めた3代目の料理長、鈴木貴絵さんは、閉 店に至った最大の理由として食べログの問題を挙げた。鈴木さんの店で は新潟の郷土料理を旬の食材で提供していた。季節によって提供するメ ニューは変わるが、サイトに載っていた品を欲しいという注文に応えら れず、食べログユーザーを怒らせてしまったという。

料理長の創造性が書き込みによって損なわれてしまうと鈴木さんは 話した。「画一化されたような変な料理ばかりが出てきて、何も残らな くなってしまう」と危惧する。

三ツ星レストラン

食べログは三ツ星レストランに関しても書き込みの場を提供してい る。今年オバマ米大統領が訪日した際に安倍首相とともに訪れた東京・ 銀座の寿司店、すきやばし次郎。店主の小野二郎氏は完璧を追求するこ とで知られているが、3万円の寿司を食べ終わるのに20分も掛からなか った、ある人は12分だったといった不満が書き込まれている。

すきやばし次郎の広報担当は、寿司はもともとファストフード。お 客様の食べるスピードに合わせて提供しているが、希望に合わせてゆっ くり出すこともできると話した。

また、とりたてて印象に残らずといった書き込みも見られるフレン チの三ツ星、ジョエル・ロブションの運営会社フォー・シーズの広報担 当は、「個々の書き込みに対してコメントしない」と述べた。

批判的な書き込みの削除を求めて訴えた札幌のレストランのケース は原告側の敗訴となった。裁判所は、一般の人を対象にしている飲食店 が、一般人からの書き込みを削除したりコントロールする権利はなく、 食べログはそのプラットフォームを提供しているにすぎないとの判断を 示した。また、古い情報を掲載されたとして、削除を求めて裁判所に訴 えた佐賀県の居酒屋オーナーもいた。同オーナーは後に和解している。

訴訟

大阪で会員制クラブを経営する会社が今年提訴した事例は、食べロ グに情報が出たことでクラブの秘密性が損なわれたというもの。情報削 除を求めたものの拒否されたとし、係争中だ。

田中社長は係争中の案件へのコメントを避けた。書き込みに関して は、毎日レストラン側やユーザー側から寄せられる3000-4000件の問い 合わせを一件一件社内規定に照らして削除するか残すか、修正を求める か検討していると語った。

食べログとしては正確性に努めており、レストラン側から正当な訴 えがあれば情報を削除するし、実際に過去に削除したこともあったと、 田中社長は話す。ただ、批判的な書き込みを削除することはサイトの中 立性に反するし、匿名に関しては正直な意見を促すために必要だとの考 えを示した。

田中社長は「ビジネス側とコンシューマー側の間にある人間として バランスを取らないといけない」とした上で、「カカクコムや食べログ がこれだけ多くの人に見られているのは、そこのランキングで信頼性が 担保されているからだ」と語った。

食べログは拡張の手を緩めることはない。同社の資料によると、オ ンライン予約システムを13年1月に導入して以降8300店が利用してお り、10月20日までの累計予約人数は100万人に達したという。

「不満はあってもこれだけ予約が入るんだから仕方ないと思っても らえるところまで引っ張り上げないといけない」と田中社長は話した。

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