追加緩和と消費増税先送りでマネタイゼーション、出口はより困難の声

消費増税の先送りが濃厚な状況にな りつつある。日本銀行は2度の消費増税を織り込んで10月31日に追加緩 和に踏み切ったが、安倍晋三首相が近く行う決断によっては、はしごを 外された格好となる。政府の財政支出を日銀がファイナンスするマネタ イゼーションとなり、その副作用を懸念する声が強まっている。

ブルームバーグ・ニュースがエコノミスト31人を対象とした事前調 査では、19日の金融政策決定会合は全員が現状維持を予想した。日銀は 予想外の追加緩和に踏み切ったが、依然として2%の物価目標の早期実 現は困難との見方が多く、「2015年度を中心とする期間に2%程度に達 する可能性が高い」という日銀の見通しが実現するという見方は3人に とどまった。

日本銀行は10月31日の金融政策決定会合で、長期国債の買い入れを 「保有残高が年間約80兆円に相当するペース」に拡大、指数連動型上場 投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の買い入れも従 来の3倍に増やすことを決定した。この決定に対して、木内登英、佐藤 健裕、森本宜久、石田浩二の4審議委員が反対票を投じた。

シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは「今回のサプ ライズ緩和は、2%の物価安定目標の達成に賭ける当局のコミットメン トが、市場の平均的な想定より強かったことを示している」という。

もっとも、「円相場への直接の影響を別にすれば、マネタリーベー スをさらに拡大し、日銀が国債やリスク資産を保有すれば、インフレを 2%まで持続的に収れんさせられるのかという根本的な問題は答えのな いまま残される」と指摘。今回の緩和の後でも、「予見し得る将来にわ たり、2%の物価安定目標を達成するのは困難」と語る。

日銀が財政規律を弛緩させた

黒田東彦総裁は10月31日の会見で、「消費税率の2段階での引き上 げというのは法律で決まっていることなので、それを前提にして見通し を立て、あるいは金融政策を運営している」と述べた。しかし、日銀の 見通しに反し、与党関係者によると、安倍政権は消費増税を2017年4月 まで延期することを検討している。

BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは12日のリポー トで、「日銀の追加緩和後の株高を受けて、予定通り増税が決定される 可能性が幾分高まったと判断していた。追加緩和を決定した黒田総裁自 身の狙いの1つもそこにあったと見られる」という。

しかし、「追加緩和はむしろ日銀による強力な長期国債の買い支え の下で金利の低位安定が続くとの見通しを強めたことで、皮肉にも増税 先送り論を後押しし、株高は政権内において解散総選挙論を後押しして しまった可能性がある。結局、日銀の強力な金融緩和が、財政規律を大 きく弛緩させたということではないか」と指摘する。

出口は一層遠くなる

ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフエコノミストも13日 のリポートで、「今回公算が高くなった消費増税先送りにおける重要な 前提条件の中には、先送りしても国債利回りが大きく不安定化しないと いう点があった。その前提条件は、日銀の異次元緩和下での国債大量購 入によって支えられている」と指摘。

その上で、「意図せざる効果とはいえ、結果的に日銀の国債大量買 入れが、こうして政府の『モラルハザード』を助長し、その財政再建意 欲を削ぐ形になってしまっている点は、日銀にとって非常に不本意であ るはずだ。今後の政権・日銀間の信頼関係という観点でも微妙な結果 だ。同時に日銀の異次元緩和からの出口は一層遠くなる」という。

三井住友アセットマネジメントの武藤弘明シニアエコノミストは14 日のリポートで「日銀は追加緩和後は年間80兆円のペースで国債を買い 続けることになり、それに対して政府は今回財政構造改革を文字通り先 送りする形になるので、形式的には古来から言われてきたマネタイゼー ションというよく知られた『劇薬』が投与されることになる」という。

さらに、「国債は直接日銀が引き受けているのではなく、いったん 市場に出たものを買っているので財政ファイナンスにはあたらないとい う理由づけも、結果としてのバランスシートをみると直接引き受けてい るのとほとんど変わらない結果になっている以上、説得力はない」と指 摘。マネタイゼーションは「必ず副作用を伴う」という。

日銀は猛省すべき

河野氏は「マネタイゼーション政策を追求すれば、インフレ率を押 し上げることは可能だが、ゼロ近傍まで低下した潜在成長率の改善には 全くつながらない」と語る。

さらに、「インフレ率が目標に達した後、日銀がゼロ金利政策や長 期国債の大量購入政策を手仕舞いするのは難しく、財政従属は回避でき ないと見られる。財政への配慮から長期金利の上昇を抑制しようとすれ ば、マイナスの実質金利の拡大によって円安が加速し、インフレ率がオ ーバーシュートすることになるだろう」と指摘。

「量的・質的金融緩和が財政規律をすっかり弛緩させたことを、日 銀は猛省する必要がある」としている。

日銀ウオッチャーを対象にしたアンケート調査の項目は、1)今会 合の金融政策予想、2)追加緩和時期と手段や量的・質的金融緩和の縮 小時期および「2年で2%物価目標」実現の可能性、3)日銀当座預金 の超過準備に対する付利金利(現在0.1%)予想、4)コメント-。

1)日銀はいつ追加緩和に踏み切るか?    
==============================================================
調査機関数                                   30      27%
--------------------------------------------------------------------------------------
                              今年11月        0        -
                              今年12月        1     3.3%
                              来年1月        0        -
                              来年2月        0        -
                              来年3月        0        -
                           来年4月8日        0        -
                           来年4月30日        6    20.0%
                               来年5月        0        -
                               来年6月        1     3.3%
                               来年7月        1     3.3%
                           来年8月以降       13    43.3%
                          追加緩和なし        8    26.7%

==============================================================

2)追加緩和の具体的な手段             
==============================================================
マネタリーベースの増加ペースの引き上げ                16
長期国債の買い入れペースの引き上げ                    14
ETFの買い入れペースの引き上げ                         13
J-REITの買い入れペースの引き上げ                      10
付利の引き下げ                                        4
の他                                                   5
==============================================================

3)日銀が2%の「物価安定の目標」が安定的に持続すると判断し、
量的・質的金融緩和の縮小を開始する時期はいつ?
==============================================================
調査機関数                                   30
--------------------------------------------------------------------------------------
                            2015年上期        0     0.0%
                            2015年下期        1     3.3%
                            2016年上期        1     3.3%
                            2016年下期        2     6.7%
                            2017年上期        3    10.0%
                            2017年下期        6    20.0%
                            2018年以降        0     0.0%
                              見通せず       17    56.7%
==============================================================

4)日銀は生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI、消費増税の影響を
除く)前年比が2016年度の「見通し期間の中盤頃に2%程度に達する
可能性が高い」としてますが、この見通しは実現しますか。
==============================================================
                                          はい    いいえ
---------------------------------------------------
見通しが実現する                              3       27
==============================================================

5)日銀は2年で2%の物価安定目標を修正するとお考えですか。
==============================================================
                                          はい    いいえ
---------------------------------------------------
                                             18       12

==============================================================

問1に対しての回答の詳細               
--------------------------------------------------------------------------------------
バークレイズ証券、森田京平                              追加緩和なし
BNPパリバ証券、河野龍太郎                               追加緩和なし
キャピタルエコノミクス、Marcel Thieliant                          来年4月30日
クレディ・アグリコル証券、尾形和彦                              来年8月以降
クレディ・スイス証券、白川浩道                          来年4月30日
第一生命経済研究所、熊野英生                            来年8月以降
大和総研、熊谷亮丸                                      来年8月以降
大和証券、野口麻衣子                                    追加緩和なし
HSBCホールディングス、デバリエ・いづみ                        来年6月  
ジャパンマクロアドバイザーズ、大久保琢史                        追加緩和なし
日本総合研究所、山田久                                  来年8月以降
JPモルガン証券、菅野雅明                                来年7月  
明治安田生命保険、小玉祐一                              来年8月以降
三菱UFJモルガンスタンレー証券、六車治美                         来年8月以降
三菱UFJモルガンスタンレー景気循環、景気循環研 嶋中雄二                  追加緩和なし
三菱UFJリサーチコンサルティング、小林真一郎                        来年4月30日
みずほ総合研究所、高田創                                今年12月 
みずほ証券、上野泰也                                    来年8月以降
ニッセイ基礎研究所、矢嶋康次                            来年8月以降
農林中金総合研究所、南武志                              来年8月以降
岡三証券、鈴木誠                                        来年4月30日
RBS証券、西岡純子                                       追加緩和なし
信州大学、真壁昭夫                                      来年4月30日
SMBCフレンド証券、岩下真理                              追加緩和なし
SMBC日興証券、森田長太郎                                来年8月以降
ソシエテジェネラル証券、会田卓司                        来年8月以降
三井住友アセットマネジメント、武藤弘明                           来年4月30日
東海東京証券、佐野一彦                                  追加緩和なし
東短リサーチ、加藤出                                    来年8月以降
UBS証券、青木大樹                                       来年8月以降

================================================================================
    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE